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第13話:罪悪感

※13話目は岡本が主人公です。

ジリリリリ…

ジリリリリ…

ジリリリリ…




カチッ。




ドタドタ足音が耳元でする。


「パパ〜!!」


「また遅刻するよ〜!」


うそつけ!

俺はまだ1回も遅刻はしてないぞ!


ほぼ徹夜で看病していた為、朦朧としながら眠い目を擦る。そして目の前の病み上がりお騒がせ息子・友喜に微笑む。



「ともくん、おはよう。熱はもうないの?」


友喜もすっかり良くなったみたいだ。俺が残業になって遅くなった時は石渡先生が家まで送ってくれる。


先生の旦那でもあり俺の上司でもあるマネージャー夫婦には本当に感謝している。


「うん!」


昨日また石渡先生に言われちゃったけど…栄養が偏っているんじゃないかって…やっぱり…母親は必要なんじゃないかって

…でも…


「けーくん〜!ごはんですよ〜!」


金魚のけーくんにエサをあげる友喜を見つめる。その名前はやめろって言ってるのに…。


この子も一人ぼっち…か…

家に一人、俺の帰りを待っている友喜が一人ぼっちで居るのも可哀想だから、金魚を買って来た。犬猫だと世話が出来ないし、このアパートは動物が飼えない。


「けーくん行って来るね〜!」


友喜はけーくんに手を振り、俺と家を出る。


いつも友喜は繋いでる手の力が強い。


まるで俺の手で握力測定しているようだ。


友喜は保育所で覚えてきた歌を歌っている。歌詞をよく聞くと時々間違えているのか日本語になってない。


そんな友喜の歌を聞いてると時々笑いの不意打ちをされる。


「アハハ…ともくん、歌詞違うんじゃない?」


友喜は真顔で

「ううん、あってるよ。」


…と意味不明な歌をまた歌いだす。

それを聞いて時々不意打ちされながら保育所に送る。

それから会社に行く。


この時間だけが今の一番の楽しみだ。


仕事中はいつも…どうしても気が抜けてしまう。

病院の先生は俺の事

「心の風邪」

って言った。


多分…いや、

あの時からだろう。


ぼんやり歩いていた。


社員達と何人か擦れ違った。


あ…しまった。

また挨拶しそびれた。

また…主任からなんか言われるな…


気が重い。



あ…


町田…



タイムカードを押している町田が前方にいる。



どうしよう。

少ししてから押そうか…


少し歩くスピードを落とす。



その時。


町田は振り返り俺を見た。


「おはよう」


俺の思考も動きも止まる。



え…!?


今の、俺に?


町田はそのまま事務所に向かって歩いて行った。


「…おはよう!」


返事をしたが聞こえていただろうか?


前にもこんな心境になった事があった。


なんで…

あんなに強気でいられるんだ?


怒ってないのか?


恨んでないのか?


立ち止まって動けない俺の横に石渡さんが居るのを気付くのに時間がかかった。


「岡本!」


慌てて横を向く。


石渡は心配そうに

「寝不足…みてぇだな。どうだい?友喜は?」


「心配…かけてすみません…友喜はもう熱も引いて保育所あずけて来ました…」


石渡は大きく頷き


「そっかいそっかい!良かったなぁ!まぁ、気をつけて観てやれよ。」


そして、


「昨日、町田にお前の引継ぎ頼んだから、あとでお礼言っとけよっ」


と言い、会議室に入って行った。


町田が俺の分を…!?


そのあとは町田の事で頭がいっぱいになってしまった。


町田は電話対応に忙しい。


今、お礼言いに行けないし…

当たり前の事言いに行くのに…



周りが気になって行けない。


なんでだ…?


答えは至って簡単だった。



後ろめたいからだ。



午前の分を片付けて…昼休みに食堂か…


食堂には更にいろんな社員達がいる。


これも自業自得っていうのか…


結局、午前中は町田に話しかける事が出来なかった。


もうすぐ昼休みになる…


過去の後ろめたさと、今日のあの一言が頭の中をグルグル回っている。


町田もきっと俺に話しかけてきた時、戸惑っていたのだろう。


なのにあんなに強気でいられる。


ここで…真っ先に言う事は…

昨日のお礼でなく……



食堂で町田を探した。


案の定、周りには社員が数名いる。


だが、町田は一人で座っていた。


午後は外出。


今しかないだろう。


頭の中でセリフを考える。


ここに入社してからずっと言おうとしていたセリフ。


「…町田」


絞り出すように声を出す。


俺にも小さい声に聞こえる。



精一杯…

いや、いっぱいいっぱい。


町田は俺に気付いた。


うっ…




どうした!?


喋れよ!

俺!!



「お子さん…大丈夫?」

あ…


先に言われた…


「えっ…うん………もう、平気みたい。…あの……あのさ、昨日の書類、ありがとう…」


あぁ!!

そうじゃないだろ!!

もっと言うべき事あるだろ!!


町田は首を横に振り

「気にしないで。」

と僅かに微笑んでいた。


俺はなんて小さいんだろう。


「…ごめん…」


町田は目を見開く。


「あの時は…ごめん…」


ああ…もうダメだ。



許してくれないのは解ってる。

でも、言いたかったんだよ!



これを言ったからって…過去が消える訳ないのに…

過去は消えない。

俺自身が一番痛感しているはずなのに!!


あの時の…

一番消したい過去が目の前を覆ってくる。


[薄暗い部屋の…]

[俺への手紙の横に…]



今、思い出すな!!


やめてくれっ!!


「ううん、もう、忘れたよ。」



ガツンと衝撃が走った。


目の前にはまた少し微笑む町田がいる。



「…ごめん…」


くりかえす事しか出来ない。


俺はこれを言って重荷が下ろせるとか思ってたんだろうか…



あ…

涙出て来た。

いろんな記憶が入り交じって混乱している。



町田が席を立っている。びっくりしてるな…。

また迷惑かけたな…。

周りもこっちを見ている気がする。


そこに背後から

「おっ!居た居た!!岡本くーん!!」


町田もその声の主にびっくりしている。


思わず振り返ってしまう。


俺よりちょっと年上のメガネが印象的な男がネクタイを引っ張りながら、立っている。


「…!?」

当たり前に驚くだろう。

だが、

「わっ!俺と一緒に外出がよっぽどショック?」

「…えっ!?」


「ひで…、いや、高橋主任?外出?」


高橋主任と言われたこの男は俺の肩を叩きながら、

「午後の外出、俺とだからよろしくっ!俺、外出初めてだし、名刺の渡し方ぐらいしかわかんねーから頼むぜ!」


町田は

「マズいんじゃない…?それ…」

と呟いている。


高橋主任は

「ジョーダンだよジョーダン!」

と笑いながら

「1時に車庫なっ!」

と言って去って行った。


周りもこのやり取りを見てて、大した事ないと思ったんだろうか。

いつもの空気に戻っていった。


町田も少し笑いながら、

「高橋さん、運転荒いから気をつけてね」

と言い席を立った。



真っ白な頭を仕事に戻しながら車庫に向かう。


そこには先程の高橋主任が立っていた。


「おっしゃあ!いくぞっ!」


と助手席に座った俺に1冊のバインダーを渡す。外出用の社用車を使う時自分の名前を書く物だ。

「岡本君、ワリーけど2人分書いてくれる?」


俺は頷き

岡本敬二と書いたあと、高橋まで書く。


「あの…下の名前は…?」


「えいゆうって書いて英雄。」


わかりやすい。


高橋英雄主任は俺を乗せて車を走らせた。



高橋主任は相変わらず鼻歌を歌いながら、ちょっと雑な運転をしている。

ああ。たしかに。


さっき町田が言った事を思い出す。



鼻歌を歌いながら高橋主任は次の瞬間。

なごんできた俺の心臓を一瞬にして凍り付かせるような事を言い出した。


「岡本君ってさぁ〜俺の彼女と同級生だってね〜食堂で話してたあいつだよ。」



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