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第11話:推測

英雄に今日聞いた岡本の噂を話す。


「うん…まだ深入りするのは怖いんだけど…気になる。」


「まぁ…なんつうか。女って噂話が好きだよなぁ…でも俺も綾子の話聞いてから岡本の件…気になっててさぁ…。脅すつもりはないけど…万が一。奴が綾子に何かして来た時に弱点握っとけば叩き付けてやれるかも知れない…」


「万が一…何かって…!」


英雄の声が説得するような口調になってくる。


「正当防衛だろ?奴はまだ本性…周りに隠してるかもしんねーだろ?一人の人間を集団でいじめなんかした女々しい奴だぜ…ズル賢いかもしんねーだろ?社会人になっても懲りずにそんな事…そんな事しやがったらなぁ…」


英雄はどんどんヒートアップして来ている。


「あ…ちょっと…落ち着いて!ほっとけって言ったの、ひで…」

「ほっとかれていい気になって同じ事してきたら…くっそぉ!!ナメやがって!!俺は本気で」

「英雄!!!」




英雄はやっと冷静に戻り、


「あ…ごめん。…そうだな。まだ何かされた訳じゃないしな…俺が下手に出てった所で困るのは岡本だけでなく、綾子も…会社も困るもんな…」


あぁ…止めて良かった…

…というか、何をしようとしてたんだろう…


ある意味英雄も地雷だ…


英雄は落ち着いてきた口調で

「その為にも自己防衛っていう意味で聞きたい。綾子の事。他人事なんかにとても思えない。」


味方してくれてるのも、助けてくれようとしてるの気持ちもすごく伝わってくる。


むやみに喧嘩売ったりは…しないと信じる。


綾子は手元がそわそわしているのか。小学校の卒業アルバムと一緒に入ってた1冊の本のページを手癖のようにいじっている

動揺している。


落ち着かない。


また話すのが怖くなってくる。でも…ここで違う話に逸らすとあんなに心配してくれた英雄に失礼かな…。


何かあったら必ず話すって約束もしたし…


私の事。他人事じゃないって言ってくれたし…


そのまま綾子は英雄に、昼休み後輩達から聞いた噂話を一つずつ思い出し打ち明ける。




「噂話は3つ聞いたの。1つ目は…『何かの危ない系の宗教に入ってる』って…」


英雄は冷静に

「そしたら…お前にとって不利な話を社内でしないのは納得できる。お前を元同級生だからって勧誘出来なくなるからな。…入るなよ!」


綾子は英雄と電話しているにもかかわらず、首を必死に横にふる。


「ないない。それと…2つ目は…『女にダマされて貢がされてて、その後捨てられてあーなった。』」


英雄は同情するように

「あらら…そりゃ可哀想に…女は怖いからなぁ…お!俺はそこまで馬鹿じゃないぞ!馬鹿正直だけど。」


「…あ、そう?」

きいてない。と心の中でつぶやく。


それよりも…もっと意味深で信憑性のある噂。


綾子は深呼吸する。

なぜか緊張する。


「3つ目は……『嫁さんに逃げられて子供育ててる。』」




英雄は電話の向こうで、一瞬息を止めたような反応をした。


「…!!」


「!?…どうしたの?英雄?」


綾子のさっきからそわそわしている手元が止まる。


「…綾子。その話は…似たようなのを俺も聞いたことある。」


綾子は核心を付かれたように硬直する。


再び綾子は深呼吸し、

「実は…これは本当らしいよ…今日、石渡マネージャーが言ってた。」







『知らないか?あいつん家…父子家庭なんだよ…』


『あいつ…家の事情グチャグチャでさ…』


『さっきな、子供が熱出したって早退してな。』






英雄は妙に落ち着いた口調で、


「俺はウチの、あの山口から聞いた。あいつなぜか噂に怖いぐらい詳しいからな…」


山口…ああ。英雄と同期の。私と英雄が付き合っているのを社内で一番最初に直感で見抜いた人。…本当こわい。


「あいつがどこからソレを聞いて来たのかはわかんねーけど…ソレが事実だったんだな…本当こわいな…山口。」


英雄は少し唸り


「…父親…なのか…。生活費、養育費…随分かかるよな……。離婚してたら、場合によっちゃあ慰謝料払ってるかも知れないしな…」


そして、

「綾子。俺の推測にしか過ぎないけどさ。…俺、岡本が悪意があるんだろうがなかろうが、…お前を不利な状況に陥れる可能性は…低いと思う。」


ええっ!?



綾子はまたページを手癖のようにいじり出す。


おちつかない。



「どうして?」


英雄はさっきまでよりもずっと冷静に


「奴…入社してから数か月経つけど…あんまり成績良くないだろ?」


そう言われると!


綾子の脳裏に、いつも上司に説教されている岡本の姿が映る。


英雄は続けて


「営業課ってさぁ…歩合じゃん?成績良くなくても、自分に不向きだろうと働かなければ…成績出さなければ金にならない。とても生きて行けない…まだ身軽だったら仕事をとっくに変えてるだろうよ…岡本は、辞める事が出来ない。」


「…!」


不思議に納得できる。


英雄は更に続けて


「よーするに。岡本は会社をよっぽどの事がない限り辞められない。…その会社にお前がいた。…悪意があるとしても、お前を不利な状況に陥れようとしないのは、お前が先に入社してたから!」


「…!そうね。周りに顔が通るようになってるし…悪さしても逆に岡本さんが不利な状況になる。…たしかに!」


「…岡本にとっても綾子。お前は地雷みたいな存在だろうな…下手に刺激なんか出来ないだろう。…生活していけなくなるわけだし。」



なるほど…!


「だから…岡本に関してはあまり心配なさそうな気がする…」



綾子はいじっていた手を止めて、ふと、その本をみる。


「まぁ、心配なさそうだよ。綾子は普通にしてりゃいいんだ。ビクつく理由なんか無い。悪い事してないだろ?」


「そうね…うん!」


綾子はさっきまで手癖で触れていた本を何気なくめくる。


英雄は電話で今日あった事を話している。

話題が切り替わりかけている。

岡本の件は解決したつもりみたいだ。


たしかに心配なさそうだ。


これ以上自分を追い詰めるように怯えていても、精神的に良くないだろう。


英雄がまた気を利かせて話を逸らしてくれていた。



けれど。



綾子は次に、このさっきまで手癖で触れていた1冊の本の事に違和感を覚えていた。


なにか…ちがう…?


英雄との電話も終わり、本格的に本に見入る。



おかしい。



ある筈なのに。



どうして?



綾子は再び携帯電話を握るが…


再びテーブルに置いた。


こんな事でまた英雄に電話するのも悪い…。


そしてまた本に目線を向ける。



その本は

「南中学校卒業アルバム」

だった…。



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