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第10話:噂

あのあと。

車の中でずっと昔の話をしていた。


今の心境とかも…。


英雄はずっと頷いてくれた。


受け止めてくれた。


私は英雄に本当に大切にされてる。


独りじゃなかった。



今思えば…あの傷つけられたランドセルや、上履きで帰宅した事、鉛筆をまた買ってきてくれた事。


両親は学校で起こっている事を知っていたのかもしれない。


よく考えれば…担任の先生が家庭訪問で言わない訳がない。


もしかしたら…私を傷つけないように見守っていてくれたのかも知れない。



あの後英雄が言ってた事だ。


英雄は俺は馬鹿正直だから言っちゃったけど…本当はそっとしといてあげた方が良かったかな…と言っていた。


暗闇に光を見つけ出したような気持ちだった…


生きてきて良かった…。


未来を諦めないで良かった…。


本当に久しぶりに綾子の表情は穏やかだった。


また、あの営業課の事務所には岡本が居る。


別にいい。


昨日英雄から言われた。

「さっきから勝つだ負けるだ言うけど…戦わなくたっていいんじゃないか?こだわってると…お前の性格曲がっちゃうし…それこそいじめっ子の発想だから…俺、綾子には悪い奴になって欲しくないよ。つう事で、んな奴ほっとけ!」


私…いじめっ子になる所だった…

いつの間にか歪んでた…

指摘されなかったら…人から本気で恨まれる人間になってた…


この前、嫌がらせみたいな事しちゃったけど。


いろいろ考え事しながら出社する。


いつも通りに仕事が始まり…昼休みになる。


さて。食堂行こう…


ボールペンを引き出しにしまい、席を立とうとした…その時。



トゥルルル…トゥルルル…



綾子のデスクの外線用電話が鳴る。


綾子は受話器を取る。


電話の相手はしっかりした口調の女性だった


「もしもし…南保育所ですが…営業課の岡本さんよろしいですか?」


保育所?


確かに電話の向こうで子供の声がする。


「はい。少々お待ち下さい。」


綾子は、まだ気まずさは拭えず、機械口調で


「岡本さん、外線です。」


同い年なのに敬語。


岡本も相変わらず無言で暗い表情で電話をつなぐ。


だが。


電話にでた瞬間。岡本の表情が変わった。


なんか…焦ってる?


綾子は気になったが、食堂に向かった。



食堂では後輩の女性社員達がお喋りしている。


「あ!せんぱ〜い!お疲れ様っす〜!」


そしてもう一人が綾子に

「営業、大変っすか〜?そーいやー営業課って、あの人いますよね?」


綾子はすぐに見当つくがあえて知らん振りをする。


「え?あの人?誰の話?」


「あの…変な人!岡沢さんだっけぇ〜」


…岡本。

綾子は心の中で静かにつっこむ。


「なんかウチらの所にもいろんな噂が流れて来ますよ〜」


綾子は少し気になり


「え?どんな?」


と彼女達の隣の席に座る。


「ええっとぉ〜何かの危ない系の宗教はいってるとかぁ〜」


「まさか〜!アハハ。ウチは女にダマされて貢がされてて、その後捨てられてあーなったとか聞いた事ある〜!」


「うっわー、どんだけ性悪女なんだよ〜あと、ウチ嫁さんに逃げられて子供育ててるとかぁ〜聞いたよ〜」


子供!?


今までのはどうかと思ったが…


南保育所…

子供…


奥さんに逃げられた?



また…何とも言えない気分だが、この会話の中に居たくない。

英雄が通り掛かってくれたので逃げるように女性社員の輪の中から脱出する。


その後、英雄といつもと変わらない雑談したあと、昼休みが終わり、デスクに戻る。



事務所は皆出払っていて誰も居なかった。


綾子はのびのびとストレッチし、引き出しに隠してあるチョコレートをポイッと口にほうり込む。


そのチョコレートの箱を横から勝手にガサガサ漁る手。


「うおっ!このチョコ俺の好きなやつ!冬季限定のやつ!」


見上げるといつの間にか石渡が居て、勝手にチョコレートをポイッと口にほうり込んでいた。


「チョコ泥棒!」


「まあまあ。いーじゃねーか1個ぐらい。…町田。悪いが、岡本の書類…頼んでいいか?」


岡本の書類?


石渡は不思議そうにする綾子にちょっと困った顔をして、


「知らないか?あいつん家…父子家庭なんだよ…」


そうなの!?


石渡は同情するように

「あいつ…家の事情グチャグチャでさ…」


石渡は綾子の隣のデスクに座る。


「さっきな、子供が熱出したって早退してな。」


だからあんなに血相を変えて…


保育所に子供を預けてる父子家庭って事は…

両親とも同居していないのだろうか…?


取りあえず、岡本の書類を仕上げる。

まさか、私が代わりに引き継いだなんて知ったらどんな微妙な表情をするんだろ…?



帰りの電車内では岡本の事が頭から離れなかった。


なんで気になるんだろう。


噂の真相が…


これまで不思議に思ってた事も久しぶりに頭に浮かんでくる。


なぜ…岡本は自ら石渡マネージャーに私と接点ある事を言ったのか?


私は…また、昔みたいに悪意があって、周りに仲間を作り、私を陥れようとしてたのかと思った。


その割には…何も起こらない。


接点がある事だけ告げて過去には触れてないみたいだし…



わからない。


彼は何がしたいんだろう。


私を今まで散々執拗に追いかけてきた者が…意味深な行動だけ残して影を潜めている…



わからない。



私もよくわからない…


私。何がしたいんだろう。

何を知りたいんだろう。


噂の真相を知って…敵意が無いのを確認して…安心したいのかな…?


部屋のコタツに小学校時代のアルバムを置く。


ああ…一人だけ笑ってない。

さえない顔した私。


そして…


明るい笑顔の岡本。




ヴーッ…ヴーッ…ヴーッ…ヴーッ…




携帯が鞄の中で鳴っている。


あ、英雄。


「もしもし?」


かなり通る声で

「お疲れさーん!俺、今終わったよ〜今日はどうだった?嫌な思いしてない?」


綾子は少し考え


「英雄…別に嫌な目にはあってないんだけどさぁ…今、長電話平気?」


「ああ…何かあった?」

「あのね…」


綾子はまた卒業アルバムを開いた。




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