第三話『再会』
次の日の朝。絵璃姉ちゃんと音羽さんは午前中は通常通り授業があるというので先に家を出た。
絵璃姉ちゃんは俺一人じゃ迷子になりそうで心配だからと言って、授業サボって一緒に学校まで行くと言っていた。
だがそこまで過保護になられても困る。俺は方向音痴じゃない。
学校までの道のりは大体頭に入っているし割と近くにあるので問題ない。
だがしかし、現実とは残酷なものである。
「ここは……どこだ?」
気付くと森の中に居た。
確かに人には方向音痴だとよく言われるけどまさか学校へ向かう途中で森の中で迷うことになるとは思わなかった。
いや、決して俺は方向音痴ではないんだけど。
「……さて、どうしよう」
説明会まで時間もあったので少し周りをみておこうと思い、街の中を見て回っていた。
その途中で猫が犬に追いかけられてるのを見つけた。
さすがに見過ごしておけるわけもなく犬を追い払おうと2匹を全力で追いかけて走った。
そしてそのまま森の中に入ってしまい今に至る。
「まぁ噛まれたりした様子は無いからよかった」
犬は何とか追い払えて、猫もケガもない様子だ。
首輪が付いてるところを見ると飼い猫だろう。
さて、猫と犬の問題は解決したがこれからどうするか。
「適当に歩いてれば町に出れるかな」
早めに家を出ていたおかげで時間にはかなり余裕がある。
多少遠回りになっても大丈夫だ。
「ふむ……俺はどっちから来たんだったか…」
クドいようだがもう一度言おう。俺は方向音痴なわけではない。…………ハズだ
「こんな森の中じゃ誰も通らないだろうしな……」
『お困りですか?』
突然後ろから声をかけられた。まさかこんな森の中に人が?驚きつつ助かったと思いながら振り返った。
「………………え?」
謎のパンダがそこに居た。着ぐるみなのだろうか?見た感じ本物にしか見えない
「お困りですか?」
「……あ……えっと実は道に迷って室江高校まで行きたいんですけど」
「そうですか。判りました。どうやらミルフィを助けて貰ったようですし。私が送ってさしあげましょう」
ミルフィというのは恐らくさっきの猫のことだろうか。恐らくこのパンダの中の人の飼い猫なのだろう。
「……ふむ。偶然でしょうけどあなたにも才能があるようですね」
「才能??」
「こちらの話です。気にしないで下さい」
そういってパンダは手にした笹らしきものを動かし始めた。動きに会わせて地面に謎の模様が浮かび上がってきた。
「失礼ですが送った後は私を見たことは忘れてもらいます。他の記憶等には影響しませんのでご安心ください」
「……え?あの……あなたは一体?」
「ご縁があればまた会うことでしょう。あなたの知らない世界で」
その言葉を聴くと同時に俺は意識を失った。
――――気付くと俺は学校の前に居た。
「あれ?俺いつのまにこんな所に?」
猫を助けようと追いかけていたところまでは覚えているのだがそこから今までの記憶が全然ない。
「説明会とはいえ高校デビューなんだ。ボーっとしてる場合じゃないな」
時間を確認すると説明会開始の1時間前だった。
「まだ時間はあるけど早めに行っておくか」
そう思い俺は室江高校へと足を踏み入れた。
そして説明会は始まった。明日の入学式の予定やそれぞれのクラス発表。そして資料による簡単な学校案内が行われた。
個人的に心配していた荷物だったが教科書等は明日配るらしく。今日は鞄やシューズ、体操服等だった。多少嵩張るがそれほどの重量はなかった。
「えー、説明はこれで終わります。部活や校内の見学は自由となってますのでご覧になりたい方々はぜひ見ていってください」
説明会が終了し特に見学とかの予定も無い俺はまっすぐ家へ帰ろうと思っていた。
その時、
「あれ?あの髪飾りって……ひょっとして……」
少し前の方を歩いていた少女。その長い黒髪につけている髪飾りには見覚えがあった。
「奈津美ー、テニス部一緒に見に行こうよー」
「うーん。私、あんまり興味無いんだけどなぁ」
「そう言わずにお願い!一人で見学行くのはやっぱ抵抗あるのよ」
「もぅ…仕方ないなぁ。その代わり今日だけだよ?私は入らないからね」
「ありがとう!恩に着るよ!」
間違いない。「奈津美」と呼ばれた彼女はやはり、俺の幼馴染のなっちゃんだ。
『九重 奈津美』俺がこの街に居たころによく遊んだ少女。
あの髪飾りは俺が小さい頃にあげたものだ。昔はやったキャラクターをモチーフにした限定物。お祭りの時に俺がくじ引きで当てたのをなっちゃんにプレゼントした。
未だにつけてくれてるとは思ってなかったがやはり大切にして貰っていると思うとかなり嬉しい。
すぐにでも声をかけたい気持ちだったが少し悩んだ。9年ぶり、突然声をかけられても驚くだろうし、友達と部活見学に行く様子だ。
だがやはり少しでも早く話したいと思い。声をかけることにした。
「なっちゃんだよな?俺のこと覚えてる?」
「……え?………??」
思い切って声をかけたものの俺だと気付いてないのか奈津美は知らない男を見るような目で俺を見ている。
「まぁ判らなくても無理もないか。9年ぶりだもんな」
気付いてもらえなくて少しショックだが仕方がない。俺も大分変わったからな。
「9年前までよく遊んでた雪春だよ。その髪飾りだって俺があげたものだろ?」
少し慌てつつもこれだけ言えば思い出してくれるはずだ。小さい頃とはいえあれだけたくさんの思い出があるんだから。
「……すみません。私小学校の頃事故にあったせいで昔の記憶が無いんです」
その言葉をすぐには信じられなかった。