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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第九話:一般人

 昼休みの食堂。周りは授業が終わってやっと一息ついた生徒でごった返している。

 今日も清秋は食堂で昼食をとることになった。

 別にいつも教室でいつも一緒に食事をしている弘樹が休んでいるとか喧嘩をしたとか言う訳ではない。いつも通り清秋は食堂で弁当なりパンなりを購入して教室に帰る予定だったのだ。

 それがどうしてこうなったのか?

「清秋くんは『夏みかんゼリー』を振る人? 振らない人?」

「そもそもその缶飲料は振ってから空けるものでしょう?」

 注文したカレーを胃袋に収め終わった清秋の目の前には清水出美が清涼飲料水の入った缶を両手で覆うように持ちながら、当然の様に清秋と会話をしていた。

 今日も今日とて四限が終わると同時に教室から飛び出して食堂に滑り込んだ清秋は食券売り場の前に一人で立っている出美を発見したのだ。

 さすがに挨拶もなしに通り過ぎるのもどうかと思い、軽く声を掛けてから通り過ぎるつもりだった。しかし「一緒に食べていきましょう」という彼女の一言によって清秋の昼休みの予定は食堂で過ごすことに変更された。弘樹には一応連絡しておいたが二日連続で昼食を一人にしているので少し申し訳ない。

「でも『よく振ってから開けてください』って書かれてると反抗してそのまま開けたくならない?」

「どんだけあまのじゃくなんですか。ていうか振らないと出てこないじゃないですかそれ」

「そうなの? 私初めて買ったから知らなかったわ」

「……」

 にっこりと微笑む出美。その表情だと清秋をからかってるのか天然なのかわからない。

「それで、昨日はドッペルゲンガー見つけられなかったけどさ……」

 食事をしながら会話をしていると、どうやら出美は昨日の六時以降の事を覚えていないようだった。

 しかもそれだけでなく、その後はそのまま家に帰って寝るまでの記憶があるらしい。といっても細々とした事は曖昧で、例えば昨日の夕食についてなどは記憶してなかった。

 本人はそういったことを不自然に思っていないらしく「記憶力落ちたなー」などと言って笑っていた。しかし毎日夕食の記憶が無いというのは気にならないのだろうか。

「ちょっと聞いてるの?」

「え? ああ、すみません」

 どうやらまた考え込んでいたようだ。気付くと出美はテーブルに乗り出して清秋との距離を詰めている。ほんのりとシャンプーか香水か分からないが甘いにおいがした。

「だから、最近気になる事件があるんだってば」

「事件?」

「そうなの。私、知り合いに仲のいい刑事さんがいるんだけど」

 出美は再び座り直す。

「この街で突然いなくなる人が増えてるんだって」

「いなくなるって行方不明てことですか?」

「そうなのここ最近で数十人になるんだって」

 数十人も人がいなくなると新聞に出ていてもおかしくない数だろう。しかし清秋はそういったニュースを見た覚えはないし、噂でも聞いた事がない。

 その旨を言うと出美は得意顔になる。

「だから刑事さんから聞いた事件なんだって。行方不明って言ってもホームレスの人たちらしくてね、ここら辺の公園で住んでる人がいなくなるんだって。警察の人は場所を移ったんだろうって事にしてるらしいけど、これは絶対に何かあるよね」

「確かに変わった話ですね。でも住所の登録とかしてないから確かめようもないでしょう。もっといいところが見つかってみんなでそこに移住したのかもしれないし」

「警察の人はホームレスの人がいなくなって正直ホッとしてるだけなのよ、公園を不法占拠してる人たちだしね。それに移住したにしてもおかしい点があるのよ」

 出美はよく振った缶のプルタブを起こして中のゼリーを一口食べてから続ける。

「普通、移動したなら『家』も持っていくでしょ? でもいなくなった人が住んでたところには段ボールもシートも残ってたの」

「あとから調達するって言う考えは?」

「それも考えられるけど、もうひとつおかしい事があってね。いなくなってるのはすべての公園から数人ずつ。って言ってもそんな人達がいる場所自体が少ないんだけど、まるで出来るだけ目立たないようにするみたいに少しずつ減ってるのよ」

 そう言うと出美はポケットから小さな地図を取り出した。

 パソコンで印刷したらしい地図に、赤いペンで丸印をつけてある。横に書いてある数字はいなくなった人数だろうか、確かにすべてが均等にいなくなっているようだ。

 それにしてもこれは出美が一人で調べたのだろうか。いや、中のいい刑事がいるといっていたのでその人物に聞いたのだろう。というか刑事がこんなに情報を漏らしていいのだろうかと、清秋は顔も見た事がないその刑事の事を心配する。

「思ったよりこの街って公園があったんですね……あっ」

「どうかしたの?」

 清秋が目に付いたのは一つの丸を付けられた公園。紀近高校から最も近くにある白桃公園である。

 そこにも赤いペンで丸を付けられており、横に数字で『1』と書いてある。

「白桃公園? あっ、そう言えば今日の新聞に変死体が見つかったって書いてあったわね。やっぱりこれだけ近いと怖くなってくるわ」

 清秋の視線の先を追ったのか出美は地図上の白桃公園を指で指し、続けて公園のある方角に顔を向ける。

 どうやら出美は昨日清秋がその事件に関わっている事を知らないらしい。というのもあたりまえだろう。普通目撃者の名前まではニュースにも出ない。

「それにしてもこれは調べがいがありそうね」

「え?」

 嫌な予感がする。何か昨日も同じような事があったような。確かこの流れだと

「これは絶対に宇宙人の仕業よ。足がつかないように少しずつかつホームレスを選んで連れ去ったのよ。まさかこの日本で大量アブダクションが起きてるなんて……。と言う事は第一種、いえ第二種接近遭遇ぐらいは起きてるかもしれないわ。あ、でもこれまで大きい事件だとMIBが動き出してる可能性も否めないわね。となると警察が動かないのも納得できる。記憶は全部諜報部員に奪われたのよ」

 どうやら出美のオカルトスイッチがオンになってしまったようだ。というかもうオカルトマニアとか言うよりもただの電波な発言にしか聞こえない。

「出美さん、ちょっと落ち着いてください」

「落ち着いてなんかいられないわ。こうしてる間にもUFOが屋上に飛来して生徒を秘密裏に連れ去ってるかもしれない。ちょっと確かめてくる」

 そう言い残して止めるひまもなく出美は食堂から飛び出して行った。

 しかしあれだけぶっ飛んだ発言をボリュームマックスで喋り散らして、どうして『才色兼備なお嬢様』で通ってるのだろうか。

 普段はもっと普通なのか、彼女とほとんど話した事が無い人の噂か、と言っても清秋も一人からしかそう言った話を聞いていないのだが。

「このところ部長の方が活発化しているので昼の顔であるの出美さんが不安定になっているものだと思われます」

「うわ! どこから現れた」

「どこと言われましても、ただ昼食を摂ろうとしたところ清秋さんが見られたので同席させてもらおうかと」

 清秋の正面、先ほど出美が座っていた場所にはさも当然のように雀が腰かけ、無感情な目をこちらに向けている。

 それにしても昼休みを半分以上過ぎた今頃になって昼食とは、いままで何をしていたのだろう。まあ別に清秋とは関係のないことだが。

「というか年下に後輩に向かって敬語なんて使わなくてもいいんじゃないですか?」

「後輩? 誰の事を言ってるんですか?」

 右目の片眼鏡をいじりながら疑問を質問で返してくる。

「え、だって雀さんは二年生でしょう?」

「そんな事を言った覚えはありませんけど」

 一瞬の沈黙が流れる。そして清秋の視線は足元、正確に言うと雀の履いているスリッパに向かった。

 ちなみにこの学校では学年ごとにスリッパが色分けされており、清秋達一年生は赤、二年生が緑、三年生が青となっている。

 そしての視線がとらえたのは赤色、正真正銘一年生を表す色である。普段ならスリッパの色で確認をするのだが、初対面の場所と状況が特殊過ぎたのと出魅と接する時の立ち振る舞いからすっかり年上だと勘違いしていたようだ。

「てことは同い年!?」

「私が留年なんかしてるように見えますか?」

「なんだ、じゃあ敬語とか使わなくてよかったのか」

 相手が同学年だと分かり力が抜ける。あまり年上のしかもお世辞にも愛想がいいと言えない人と話しているとどうしても肩に力が入ってしまうのだ。

「その結論はいささかおかしいのでは。敬語とはそもそも相手に敬意を持っているから使うのであって年齢とそう言った事とは関係ないはずです」

「う、確かに」

 無表情で淡々と言われるとなんとなく怒られているような申し訳ないような気持ちになってくる。しかも言っていることが最もすぎて反論のしようもない。

「つまり清秋さんが私に敬意を持っているなら敬語を使うべきであって、先ほどの発言だと私に敬意なんか払うべきではなかったと言っているように聞こえました」

「いや、だからそう言う訳ではなくて……」

「ちなみに私が普段敬語を使うのは他人に対しては常に敬意を払っているからであって」

 目の前のノンストップトーキングマシンをどうやって黙らせればいいのだろうか。先ほどの出美といい女性というのはみなこんな風に話しだすと止まらないものなのだろうか。ああ、だから世のお母さんたちは買い物に数倍の時間を掛けるんだなと清秋は半ば現実逃避しかける。しかし、いつまでもそうしている訳にはいかない。

「だから!!」

 バンッとテーブルを叩いて雀の話を無理やり中断させる。相手は予想だにしていなかったらしく、目を見開き……はしなかったものの、無表情ながら少し驚いたような雰囲気を出して言葉を止めた。

 清秋の大声とテーブルを叩く音に引き寄せられ、周りで食事をしていた生徒は「どうしたのだろう」と不審な目を向けてきたが清秋は気にしなかった。

「友達だから敬語なんか使わなくてもいいだろ」

「友達?」

 雀はごく微小だが顔を傾けて疑問を示す。

「そう、一緒に昼食を食べてる。それでもう友達だ。友達どうしで敬語なんて使ってたらよそよそしいし」

「……」

「わかったな」

「わかりました」

 と言いながらも敬語は雀から清秋に対する敬語は取れていない。癖のようなものなのだろう、無理して使っていないようなのでその点には触れないことにした。

 それにしても先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、雀は完全に黙ってしまいしゅんとしている。少し強引に言いすぎただろうか。

「ああ、ちょっと強く言いすぎたかな。でもアンタが全然聞く耳持たなさそうだったか……」

「出美さんには」

「え?」

「出美さんにはなぜ敬語を使うんですか? 彼女も『友達』ならばそういったものは必要ないのではないかと」

 少し黙った時間は脳内で処理をしていただけだったようだ。どうやら彼女は物事を論理的に考えるようで、少しでも矛盾点があると気になる性格らしい。




 なんとか雀を言いくるめた時にすっかり皿も空にになっていた。といっても清秋は雀が来る前に食べ終わっていたので、空になったのは雀の皿である。

「ところで清秋さん」

 箸をトレイの上に揃えて一言発する。

「な、なんでしょう雀さん」

 また何か先ほどの会話の穴でも見つけたのだろうかと思いビクビクしながら答える。

 しかし清秋の予想は外れたらしく「雀でいいです」という一言の後「ところで」と話題転換の接続詞を持ってきた。

「出美さんにはあまり危ない事をさせないようにしてください」

「危ない事?」

 なにか危ない事をさせただろうか。清秋は記憶の糸を手繰るが心当たりがない。強いて言うなら先ほど一人で走り去っていくのを放置したことだろうか。

「あの人は部長と違って特殊な力がある訳ではないので、そんな彼女が私達の世界に首を突っ込むなど危険すぎるのですよ」

「出美さんにはそういった力はないの?」

「いえ、正確に言うと使えないんです。潜在的には持っているのですがそれを発現できないと言ったほうが正しいですね」

 あくまで人間離れした力を使えるのは午後六時以降だけで、日中はただの女子高生ということらしい。

「だから万が一巻き込まれた場合対抗する手段がないのです」

「それを言うなら雀も一緒なんじゃないか?」

 名前を呼び捨てにするのはなんとなく抵抗があったが、ここで「佐々木さん」などと言えばまた突っ込まれるかもしれないなどと考えながらも清秋は質問する。

「私にはこの眼があります」

 そう言うと雀は自分の片眼鏡を指した。

「『過剰視界(オーバーシーイング)』それが私の能力。と言っても自分自身で制御できないので片眼鏡(これ)に頼っているんですが」

 片眼鏡の横に付いているダイヤルを指先でなでる。どうやら何かを調節するためのものらしい。

「とりあえず彼女が危ない事に首を突っ込まないように見張っておいてください。例えば最近多発している失踪事件の現場を見に行くなどと言った事は絶対にしないように」

「……」

「今「どうせ無理やりつれていかれるだろう」と思っていましたね」

「いや、そんなことはないよ」

 図星だ。放課後になればおそらく出美が無理やり清秋を引っ張っていくに決まっている。それにあの人にはどうも抵抗できない。力とかそういうものではなくて、無邪気すぎる。まるで虫とりにでも行く少年のような無邪気さで誘ってくるものだから何とも抵抗しづらいのだ。

「とにかく、絶対に阻止してくださいね」

「わかったわかった。出来る限り止めてみるよ。とりあえず、もう次の授業始まるから」

 言うと同時に予鈴が響いた。ここは無理やりにでも会話を終わらせないと授業をさぼる羽目にになりそうだ。

 清秋は席を立ち、食器を片づけて急いで教室に戻る事にした。教室があるのは同じフロアなのだから雀と一緒に帰ってもよかったのだが、またぐだぐだと話が続きそうだと思い誘うのを思いとどまる。

「ではまた、午後六時に部室でお待ちしております」

 雀も一緒に帰るつもりはないらしく食器を片づけながら挨拶をした。

 どうやら今日もあの部屋に行かないといけないらしい。気分が一割増しぐらい沈んだところで清秋は「じゃあ」とだけ言って食堂を後にした。

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