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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第八話:訪問者

 家に家帰った清秋は玄関に見覚えのない革靴が並んでいる事に気づく。腕時計を確認すると、時刻は九時過ぎ。こんな時間に誰が来ているのだろうか。

「遅かったじゃない」

 清秋がただいまと言う前に妹がリビングから出てきた。見たところあまりご機嫌がよろしくないようだ。

「ただいま。誰かお客さん?」

「そうよ、兄さんに。もう息苦しいわ。刑事さんが二人も」

 後半は中にいる客人に聞こえないよう小さな声で言った。刑事が一体自分に何の用だろうと思ったが、とりあえずリビングで待っているようなので清秋は靴を脱いで向かった。

 リビングの中に入ると、二人の男がソファに腰かけていた。一人はグレー、もう一人は黒にストライプのスーツを着ている。

「どうも、葛葉清秋君だね。すみませんが少し待たせてもらったよ。私、山口悟というものだ」

 五十代ぐらいだろうか、少し白髪交じりのいかにも刑事といった感じの男がソファから立ち上がり、警察手帳を開きながら清秋に挨拶をする。すると、その横に座っていた黒いスーツを着た、まだ若い刑事が山口と同じように手帳を開いて名乗った。名前は杉山浩太と言うらしい。

 再びソファに座り直し、清秋が腰を下ろしたのを確認すると山口は口を開いた。

「今日は葛葉君……おっと、清秋くんと言わないとややこしいな」

 柚花の方をちらりと見ると山口は続けた。

「清秋君に聞きたいことがあってね。一応前島先生にも 名刺と一緒に伝えておいたんだが」

 そこで清秋は思い出す。

 確かに病院で起きたときにあの医師から名刺を渡された。あのあとの出来事が衝撃的すぎて、そんなことなど記憶の底に埋もれてしまっていた。

「すみません。すっかりわすれてました」

「いやいや君も大変だっただろうからね特に気にしていないよ」

 山田は人の良さそうな笑顔を見せると一呼吸置いてから話を始めた。

「君もわかっていると思うが、聞きたいことというのは一昨日のことだ」

 『一昨日のこと』というと、もちろん吸血鬼もどきに襲われたことだろう。

 刑事が来ているという時点でそのことを聞かれるのは予測できていたし、近々こういったことが起こるだろうとも思っていた。

「あの時は突然後ろから殴られて気を失ったのであまり覚えてません」

 だから清秋は用意していた一文を読み上げる。

 血の塊が動いていたなどということを誰が信じるだろうか。そんなことを言えば笑い飛ばされるのが目に見えているし、ましてや目の前に座ってこちらを見ているのは刑事である。

 一見人のよさそうな笑顔を作っているが、こちらが話しやすいように作り出している表情かもしれない。

 常識を逸するような発言をして再び病院に連れていかれたりするのはごめんだ。

「そうか、それなら仕方が無いな。じゃあ君が気を失う前に見た遺体について教えてもらえるかな?」

 さすが刑事といったところだろうか質問に遠慮がない。

 もちろん清秋が唯一の目撃者なのだろうが一方でただ高校生だ。人によっては精神的な傷を負っていることも考えられるだろう

「あまり思い出したくないんですが」

 といっても死体がグロテスクすぎたからというわけではない。ただ、そのあとの出来事の常軌を逸していたため『死体があった』という事実が掻き消されただけである。

「思い出せる範囲でいいんだ。どんな些細な事でも構わない」

 山田の言葉に対して清秋は少し考えたあと一言答えた。

「たしか、首が大きく切られていて、血が溢れていました」

「ということは、死体からはまだ血が流れていたんだね?」

「流れていたんだねかはわかりませんが、周りに血だまりができるぐらいには出血してたみたいですね。人が出血してるところなんて始めて見ましたが、血ってあんなに入ってるものなんですね」

 辺りに飛び散った血液、まるでそこだけ血の雨が降ったような光景を思い出す。不思議とその時感じだ気分の悪さは感じられず、むしろその時の異常な出来事を人に話したいという興奮の方が大きかった。

「わかった。もういいよ」

 山田は清秋がまるで映画の一場面を話しているような口ぶりで説明することに、多少驚いた様子を見せたが、すぐに質問を続ける。

「ということはそのときはまだ血液がのこっていたんだね?」

「まだ?」

「ああ、いや。君には言っておいてもいいかな。君が目撃した死体なんだが」

 すると山田は少し言葉につまり、言いにくそうにする。

「血液が全部なくなっていたんだよ。しかも血液だけじゃなく、体の中の水分がすべてなくなっていたんだ。まるでポンプでも使って無理やり吸い出したみたいにね」

「そんなこと誰が何のためにするんですか?」

「わからない。ただ、誰がしたかという点では君を後ろから襲ったという人物が怪しいね。なぜ君を殺さなかったのかとか血液を抜き取ったのかは分からないが」

 血液を全部抜きとられると聞いて清秋の頭の中で一つの単語が浮かぶ。

 『吸血鬼』

 人の生き血を吸って生きる闇の生物。

 しかし出魅の話ではあの血の塊が吸血鬼のようなもので、襲われる方ではないはずだ。それとも寄生虫のように養分を吸ったら別の人に寄生するような類のものなのだろうか。

「まあそういうことだから殺人の犯人がこの辺をうろついているかもしれない。くれぐれも気を付けるようにね」

 そう言うと山田はソファから立ち上がり玄関の方に向かう。

 どうやら清秋に事件当時の様子を詳しく聞きたかったようだが、本人がほとんど覚えておらず役に立たないと思ったのか早々に立ち去ることにしたようだ。

 そんな刑事二人の後ろを追い慎一は玄関まで見送る。

「ああ、それから」

 と、玄関で靴を履きながら山田が顔だけをこちらに向ける。

「清水出魅という女が来なかったかい?」

「!?」

 つい数時間前に聞いた名前を聞いて清秋は少し動揺する。

 ただ、それを顔に出す事はなかった。いや、出さなかったと言った方が正しいだろう。

 さきほど、リビングでの会話の時とは一転して刑事の顔には何やら威圧感のようなものが感じられた。「なんらかの関わりがあるなら今すぐ連行する」とでも言っているようだ。

 清秋が自然と動揺を隠してしまったのもそういった山口の表情の所為だろう。

「名前を聞いたことがないならいいんだ」

 しばらく黙っているとすぐに顔の筋肉が緩み、人のよさそうな表情を作る。

「ただ、もしも清水出魅が接触してきてもあまり関わらない方がいい」

「その清水出魅という人物は犯罪者か何かなんでしょうか?」

 もしもここで出魅が犯罪者、もしくはそれに準ずる何かだという答えが返ってきたら明日からあの女と関わるのはやめよう。むしろここで告白して刑事を彼女のところに連れて行ってもいいかもしれない。

 しかし山口の口から『出魅は犯罪者』という言葉は出なかった。

「いや、そういう事ではないのだが……、なんというかその女に関わるとろくな事がないからな。学生生活を平凡に終わりたいと考えるなら関わらない方がいい人物だ」

「わかりました。心の隅にでも留めておきます」

 清秋が答えると刑事は本当に用事が終わったのか「失礼するよ」といって玄関のドアを後ろ手に閉めて出て行った。

「ふう……」

 一呼吸着く。

 ただでさえ疲れていたのに帰ってそうそうに刑事に尋問をされるとはついていない。

 しかもあの杉山と言う刑事。一言も話していなかったが清秋から一度も目を離さなかった。まるで人の形をした監視カメラのように清秋と山口が話している間中、ずっと清秋を見つめながらメモを取るだけであった。

 刑事からの尋問よりもそちらの視線の方が清秋の精神を弱らせていた。

「二度とこんなことはご免だな」

 それに出魅についてである。

 山口は「ろくな事が無い」と言っていたが、清秋はすでに『ろくな事が無い』状況にある。これが出魅によるものであるのかは別として、少なくとも彼女は過去にもなにやら刑事がらみの事件に関わっているらしい。

 その辺を明日聞いてみなければいけないだろう。今日はあの女の言われるがままに動いてしまったが、自分は彼女の事を全くて言っていいほど知らなさすぎる。

「兄さん、いつまでそんなとこでいるの?」

 と、後ろから柚花の声がかかる。

 考え始めると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。気付けばまだ玄関に突っ立ったままであった。

「とりあえずご飯たべちゃってよ。片付かないから」

「ああスマン。すぐ食べる」

 出魅の事は後で考える事にして、清秋は空腹を満たすためにキッチンへ向かった。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 公園はまるでこの世界の生物がすべていなくなってしまったのではないかと思えるほど静まり返っていた。

「お姉……ちゃん?」

 その静寂の中で小さな声が響く。まるで一息で消えてしまうほどの小さな蝋燭をつけているような弱々しい声。しかし、少女の声は相手に届いたようだ。

「ごめんなさい。あなたのことは『記憶にしか』ないわ」

 こちらは一転して鋭い声。まるで氷で作った刃物のような冷たく鋭いその声は闇を切り裂いて先ほど疑問を投げかけた少女、前嶌二葉に放たれる。

 その女はその長い金髪を夜風に揺らしている。

「ええ、そうよ。私の名前は前嶌一葉(まえしまかずは)。あなたの姉よ」

「うそ……、だってそんなはずない」

 二葉はうろたえる。

 確かに前の前に立っているのは自分の姉だ。二葉と同じ金色の髪に青い瞳、その整った顔立ちも澄んだ声もすべてが二葉の知っている一葉そのものだった。

 しかし、自分の姉がここに立っているはずが無かった。なぜなら

「お姉ちゃんは死んだはずよ」

 そうだ、一葉は数年前に"不幸な事故"によって死亡したはずである。その事故の所為で二葉は父とほとんど口を利かなくなったのだし家出なんかもしているのだ。

「生き返ったのよ。だから私はあなたが前嶌二葉という名前で私の妹だってこともしってるわ。でもね、私が持っているのはあなたの記憶だけ」

「どういうこと?」

「別に私はあなたと長話をしに来たわけじゃないわ。この『死体たち』の回収にきただけ。どうせあなた一人じゃこれだけの量を処分できないだろうし、再利用も出来なくなっちゃうじゃない」

 言いながら一葉は辺りに散らばったまだもぞもぞと動いている『死体たち』をまるでクッションでも片づけるかのように軽々と片手で持ち上げ、自らの肩に担いでゆく。

 そして四人目を持ち上げ右肩に二人、左肩に二人を乗せたところで最後の一人の腹を蹴り飛ばした。死体はいとも簡単に孤を描いて宙を舞い、二葉の足元に落ちる。

「一つだけ置いて行ってあげるわ。あなたもそろそろ衝動を抑えきれなくなってるんじゃない?」

「そんなこと!!」

「じゃあね。また機会があったら会えるかもしれないわ」

 二葉のセリフが言い終わらない内に一葉は馬鹿にしたような笑みを浮かべながら暗闇の中に姿を消した。

 残されたのは二葉と一体の死体。

「うう゛う゛ヴヴ……」

 足元で唸っている死体はいまだに二葉を襲おうとする。

 全身の骨を折られているためあまり動けないが、あと数時間もすれば完全に再生してしまうだろう。

 このまま放置していけば襲われるのは運悪く通り過ぎた一般の人。それが子供か大人か、女か男か分からないがその運の悪い人の生死は今の二葉の行動にかかっている。

 普通ならこの死体は前身の骨が無くなろうが、頭を撃ち抜かれようが再生する。しかし完全に機能停止にする方法が無い訳ではない。

 この死体を動かしているのは血液である。つまり体中の血液を一滴の凝らず吸い出してしまえばこの死体は『ただの死体』に戻ってしまうのだ。

「くっ……!」

 小さく悪態をつく。

 放置しておけば人を襲う。そしてそれを阻止できるのは二葉しかいない。

 一葉はそれを見越してこの死体を放っておいたのだろう。

 それを二葉に処分させるために。


 それを二葉に喰らわせるために


 夜の公園に骨の砕ける音と繊維の引きちぎれる音、そしてそれを喰らう咀嚼音(そしゃくおん)が響き、暗闇に消えていった。

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