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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第六話:再び部室にて

 時刻は五時三十分を少し過ぎた頃、清秋と出美は学校の図書館にいた。

「やっぱりあまりないわね。ドッペルゲンガーについて書かれた本なんて」

 放課後に出美と合流した清秋は、昨日のオカルト部部室に行こうとした。しかし出美の「まず相手のことを調べとかないと」という一言によって先に図書館に行くことになったのである。

「そろそろ行かないと下校時間になりますけど」

 結局新しく得られた上方はなかった。というか始めから高校の図書館にそんなものがあるわけがないと清秋は思っていたのだが、出美はやる気満々で言うものだからついて来ただけである。

「そうね、下校時刻過ぎてから先生に見つかってもめんどうだしね」

 紀近高校の完全下校時刻は六時十五分である。それ以降は原則的に学生が校内にいてはいけないことになっている。実際のところ六時が下校時刻なのだが、クラブ活動をしている者は皆その時間から片づけ始めるので十五分までは多めにみるというのが暗黙の了解のようになっている。

「じゃあ行きましょうか」

 清秋と出美は図書館を後にした。

 図書館はB館の四階にあるので、体育館横のオカルト部部室に向かうとすると一度A館を通るということになる。時計を見ると、長針は文字盤の九と十の間を指していた。この調子だと目的地に着くのは六時になるかならないかというところだろう。というかそんな時間に着いても部室を見て帰るだけになるのではないだろうか。そんなことを考えながら前を歩いている出美を見ると、彼女も時間を気にしているらしく、腕時計をちらちらと確認している。

 しかし、時間の事を置いておいても無言で歩き続けるのは何となく気まずいと思ったので適当に話を振った。

「出美さんは何でこういう話が好きになったんですか?」

 ズンズンと清秋を先導していた出美は軽く振りかえり答えた。

「えっと、話せば長くなるんだけど……、私昔から霊感とか強い方だったの」

 話している間もちらちらと時間をみながら言う。

「それで、中途半端に気配とか感じるから……、ちょっと興味を持った、みたいな?」

 突然歯切れが悪くなる。語尾も疑問形というのも少し気になった。

「何よ、その疑うような眼は。ほら、好きな人をなぜ好きなのか分からないのと同じよ。好きなものは好き、興味のあるものは興味があるのよ」

 少し怒ったように頬を膨らませる出美。特に何かごまかしているようには見えなかったが、質問をした時は焦りのようなものが見えたような気がした。

「じゃあそういうことにしておきます。ところで、武器とかっていらなかったんですか?」

「む、まだ信じてないでしょ。まあいいけど」

 少し拗ねてしまった。

「武器? そんなものいらないわよ。もしかしたら私の一部かもしれないんだから、倒す必要なんてないのよ」

「そいつが襲ってきたらどうするんですか?」

「その時は君がいるじゃない。いくら年下だからって男の子なんだから、私よりも力はあるでしょ。あなたが抑え込んでいるところを私がなんとかするわ」

 どのように『なんとか』するのだろうか。少し気になったが、そのことを質問する前に部室前に到着した。時間は五時五十八分。やはりぎりぎりになってしまった。

 清秋は改めてプレハブを確認する。昨日と同じアルミ合金のドアと窓枠、外壁はところどころ汚れており鉄の柱が顔を出している。屋根はルーフデッキで全体をみてもお粗末な造りの建物であった。

 前回訪れた際、扉を開けたとたんに別世界になっていたのをまだ鮮明に覚えている。

「そういえば鍵は……」

 ガチャリ、 と質問する間もなく出美の手によってドアは手前に開かれた。

 開いた先には昨日とまったく同じ光景があった。

 入口の真正面にある木製のデスク、黒い革製の肘掛椅子。その手前には長方形のテーブルが配置されており、両側にソファーが置かれていた。まるでドアを境にして異空間にでもなっているようである。

 中に入って周りを見渡してみる。特に変わった様子はない。テーブルの上の花瓶、奥の本棚、まさかクローゼットの中に人が入っていたりはしないだろう。

 そこで清秋は気がついた。

(電気がついてる)

 入った時は気にしていなかったが、部屋の中は明るかった。部屋の内装の変化が大きかったため、光に関してはそれほど気にならなかったのかもしれない。

 鍵も空いている、電気もついているとなると人がいることはまず間違いない。というよりも先ほどから給湯室の方から湯を沸かすような音が聞こえていた。

 出美に目配せをして足音をたてないように給湯室に近づく。


『キーンコーンカーンコーン!!』


 校舎中にチャイムの音が響き渡った。六時の下校時刻を知らせるものである。しかも部屋のどこかにスピーカーでもあるのか、かなりの大音量であった。

 緊張状態にあった清秋は突然の不意打ちに、ビクゥ! と跳びあがる。

 さらに早鐘を打つ心臓が落ち着く暇もなく、給湯室から人の足音が聞こえた。ゴクリと唾を飲み込む。奥にいた人物が姿を表した。

「あら、ずいぶん早く来たのね」

 出てきたのは茶髪ロングの女性。左目に泣きぼくろ、右目に片眼鏡。昨日会った佐々木雀なる人物であった。

 手には三つのティーカップを乗せたトレイを持っており、昨日と同じ真っ赤な液体が入っている。

「用意はできています。清秋さん、出美部長」

「いやー御苦労、佐々木雀君」

 聞き覚えのある話し方。堂々とした口調が真横から聞こえる。

「ん? どうした葛葉清秋君。鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」

 出美はからかうような目を向けてくる。先ほどまでの『少しオカルトマニアな美人の先輩』とは雰囲気がガラリと変わってしまった。そしてそのままソファーに深く腰掛け、手を肩から下に一振りする。雀の持ってきたカップが宙に浮き、そのままテーブルに並べられた。

「僕をだましてたんですか」

 清秋は立ったまま出美を睨む。

「そう怖い顔をせずにとりあえず座りたまえ。今日は薬など入れていないからゆっくり話をができるよ」

「信用できません」

 そう言うと、出美は少し考たようなしぐさをして、

「じゃあこうしよう。君がこの三つのカップをどれか選んでくれ。その後残ったカップを先に私たちが一口飲もう。これなら私たちに細工のしようもない。まあ飲むか飲まないかはそれから決めればいいだろう。とりあえず座りたまえ、ほら佐々木雀君も」

 黙って出美の対面に座った。清秋が座ったのを確認するように雀も出美の左横に座る。

 清秋は並べられていた紅茶の内、真ん中のものをとり、自分の前に持ってくる。出美達はそれぞれ自分に近い方のカップを取り、一口飲むとテーブルの上に戻した。

「さて、先に話しておくが先ほどの私と今の私は別人だと考えてくれ。簡単に言うと二重人格のようなものだ」

「二重人格?」

「解離性同一性障害。出美部長もその一人です」

 雀が説明をつけ足す。

「中でも出美部長は特殊なケースで、午前と午後の六時を境にして人格が入れ換わります。昼の人格を『清水出美(しみずいずみ)』、夜の人格を『清水出魅(しみずいずみ)』と表記します」

 そう言うとテーブルに置いてあったメモ帳に綺麗な明朝体で二種類の名前を書いた。

「だから今の私は『出魅』の方だということになるな。ここまでで何か質問は?」

 出美改め出魅は頬杖をついて清秋に聞く。

「じゃあ昼の出美さんは故意に僕をここに連れて来たんじゃないんですね?」

「故意ではないが彼女の意思だ」

 出魅は少し考える。どうやら分かりやすい言葉を探しているようだ。

「私と出美は意識の根幹、無意識の記憶や小さな癖などは共有している。一つのコンピュータを二人で使用するようなものだ。私達の頭の中は共有フォルダと個人フォルダにわかれている。その日あった出来事や人の名前などは個人フォルダ、知識などの記憶は共有フォルダに入る」

「例えば人の名前などは出美、出魅個人で記憶していて、英単語やニュースなどの単純な知識は共有しています」

「ただ、個人の記憶がノイズとしてもう一方に出る時があってな。出美が君と仲良くなったのも、先に私が君に会っていたからだろう」

 なるほど、確かに昼間のなれなれしい態度は初対面の人に対する反応ではない。それに恐らくあのオカルト知識も出魅からのものなのだろう。

「ということは向こうの出美さんは自分の中にあるあなたの存在に気が付いていないんですか?」

「どうだろうな。そういうのは個人の記憶になるので私にはどうにも……。ただ私が知っている時点で向こう側も気づいている可能性が高いな」

 額に中指を当てて考える仕草をする出魅。

 出魅の話だと、出美は意識的にしろ無意識的にしろ清秋をここに連れてきたかったということになる。いったいなんのためなのだろう。

「さて、それでだ」

 出魅は紅茶を飲みほして椅子から立ち上がる。恐らくこの話は終わりということだろう。

「君の今の状態についてだ」

 人差し指をまっすぐ清秋に向ける。

「状態?」

「そう、昨日説明した通り君は今吸血鬼になりつつある。なんとか薬で抑えてはいるものの、明後日の夜ぐらいには完全に吸血鬼となってしまう」

「だから私達に協力してもらいますよ」

 出魅のカップに紅茶を注ぎながら雀が言う。

「協力って何に?」

 すると出魅は口元をゆがめてにやりと笑う。

「吸血鬼狩りだ」


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