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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第五話:清水出美

 清水出美とはすぐに会うことになった。

 時間は昼過ぎ。清秋はいつも通り講買までパンを買いに行く途中だった。

 清秋達の通う紀近高校は四階建ての校舎を並行に三つ並べたようになっており、それぞれの校舎をA棟、B棟、C棟と呼ばれている。各クラスの教室は主にC間四階に一年生、B館三階に二年生、A館二階に三年生となっている。他は主に理科室、図書室などの特別教室。歴史などの選択授業の際に使う空き教室などがある。A棟の隣には食堂があり、パンやおにぎりなども食堂内で販売している。

 つまり清秋達一年生の教室は食堂から一番遠いところに位置している。そのため授業が終わると同時に教室を飛び出して食堂に向かわないと、目当てのパンが買えない上に昼休みの半分以上をパンを買う列で過ごすことになるのだ。

 そんな理由からA棟一階廊下を全力疾走していたところだった。

 角を曲がった瞬間に人がいた。

 とっさに判断した清秋はこの勢いで止まるのは不可能と考え踏み出した右足を思い切り踏ん張り、足をクロスする感じで左足を右斜め前に出して急激に方向転換する。なんとか直撃は避けたものの、慣性を完全に捻じ曲げることはできずに、走ってきた勢いのまま肩と肩がぶつかる。

「きゃっ!!」

 短い叫び声とともに相手が倒れ、手に持っていた教科書やプリントをぶちまける。清秋も壁に激突し、反作用で倒れる。

「だ、大丈夫ですか!?」

 先に起き上がったのは清秋だった。力を入れた際に少し捻ったらしく、右足首がずきりと痛んだ。

 ぶつかった相手を見ると一人の女性であった。上履きの色から判断すると二年生らしい。どうやら移動教室の授業から自分の教室に帰る途中だったらしい。

「たたた。ちょっと転んだだけなので大丈夫です。それよりあなたは大丈夫ですか? 壁におもいきりぶつかっていたみたいですけど」

「僕は頑丈なんでだいじょう……」

 顔を起こした二年生の顔は見覚えがあった。少し赤みがかった髪は腰付近まで伸ばされており、整った顔立ちをしている。まだ座ったままなのでわからないが、背はだいたい清秋と同じぐらいで女性としては長身の部類に入るだろう。

「清水出美?」

 目の前には昨日清秋に任意同行させた女性がいた。ただ、昨日とは雰囲気が違っており言葉では言えないが、強いて表すなら柔らかい感じがした。

「あら、私の名前を知っているの? あ、でも年上の人に呼び捨てはだめよ」

「はい、すみません先輩」

「あと、廊下は走らないこと。人だった勢いがついてたら急に止まれないんだからね」

 まるで小さな子に言うように注意する。そしてスカート叩いて上品に折りながらしゃがみ込み、散らばった教科書を拾い上げて行く。

 確かに弘樹の言っていた通りどこかのお嬢様のような人である。昨日見た清水出美とはまるで別の人物のようだった。

「あなたは本当に清水出美さんですか?」

 先ほどのやり取りでこの人物が清水出美だと分かっていたが、清秋はもう一度確認する。

「そうよ、私は清水出美。趣味は読書とピアノとインターネット。身長は一六八で、体重は秘密。スリーサイズは……」

「わー!! もういいです」

「あら、知りたくないの? 知ってる人なんてほとんどいないのに」

 クスクスと悪戯っぽく笑う出美。知っていたら問題だろ、と突っ込みをいれたいのをこらえながら清秋は質問する。

「今初めてあったみたいに話してますけど、昨日も会いましたよね?」

「あら、ナンパかしら。私そう言うのはちょっと」

 まるで本気にしていない。猫でもかぶっているのだろうか。しかし、話し方や行動からみても嘘をついているようには見えない。

 となると

「双子の姉妹でもおられますか?」

 ここまで似ているとなると双子ぐらいしか思いつかない。同姓同名の双子というのもあり得ないとも考えたが、清秋には他に考えられるものがなかった。

「私は一人っ子だけど。さっきからどうしたのかしら。私に似た人でも見かけたの?」

 一方的に話しているにもかかわらず、まるで気を悪くするでもなく出美は答える。

「似ているというよりも見た目だけはあなたそのものでした」

「…………、少し楽しそうなお話ね。私そういう話大好きなのよ。良かったら今から食堂で詳しく教えてもらえるかしら」

 そう言うと出美は清秋に手を差し伸べた。

 自分が今だに倒れたまま廊下に座り込んでいたのに気付き、少し恥ずかしく思いながら出美の手を握り急いで立ちあがった。

(あれ?)

 そこで何か違和感のようなものを感じたが、清秋の手を引く柔らかな感触により直ぐに分からなくなった。



 食堂の中は人で溢れかえっていた。

 授業が終わって少し時間が経ってしまったので、入口にある食券の自販機にはあまり人はいなかった。しかし調理されたものを受け取るための列が尋常じゃないほど長く伸びており、入口近くまで来ている。並べられるだけ並べた長方形のテーブルはどこも満員で、その後ろには席が空くのを待っている者までいた。

 席の事は後で考えるとして、出美が食券を買うために自販機に並んだので清秋もパンを買うのをやめて食券を購入することにする。教室において来た弘樹には悪いが昼食は食堂ですませることにした。

 それにしても、まさか出美と食事をすることになるとは思わなかった。

 確かに昨日の件で話したい事はあったが、出美は弘樹があそこまで称賛するのも納得するほどの美人で、さらに性格もよさそうである。清秋はあまりそういうことには詳しくないので分からないが、おそらく全校生徒から知られているほど有名人物なのだろう。それは先ほどから向けられる奇異な視線からもうかがえた。

 ようやくカウンターでランチセットBと出美の分の日替わりランチを受け取った清秋は、席を取りにいった出美を探す。出美の姿は直ぐに見つける事が出来た。窓際の二人席、なかなか良い席である。

「ありがと。やっぱり混んでるわね。ちょうど二人分空いていてよかったわ」

 出美の対面の席には教科書が置かれている。

「そうですね。先輩はよく食堂に来られるんですか?」

「先輩なんて仰々しい、出美でいいわ。時々来るけど、もうちょっと早く来るから席取りの心配はないわ。清秋くんは?」

「僕は適当にパンを買って教室で食べてますよ。食堂のメニューが安いって言っても毎日食べると結構な値段ですからね」

「へぇ~」

 そこで出美は清秋のランチセットBをみてクスリと笑う。

「いえ! たまには贅沢しないといけないかな、とか考えて!!」

 今日は男として見栄を張りたかったがために食堂では高い部類に入るランチセットを頼んだのだが、もはや意味をなしていなかった。これならば一番安い上に量もあるカレーにするべきだったと清秋は

ほんの少しだけ後悔する。

「フフ……。ところでさっきの話なんだけど」

「あ、そうでしたね」

 清秋は昨日の出来事について説明する。朝、弘樹に一度説明した内容なので、余り言葉に詰まることも無く説明出来た。

 出美は話しのところどころでうなずいたり、合いの手をいれてくれたりとなかなか聞き上手であった。あまりにも興味津津に聞かれるので、話している清秋もうれしくなるほどだ。やはり昨日の清水出美と同一人物とは思えない。

「で、弘樹に話したら夢じゃないかって言われたんです」

 最後に朝、弘樹と話した内容を説明し終わる頃には昼食はすっかり食べ終わっていた。

 すると、出美は少し考えてから言った。

「うーん、でも夢にするにはおかしいところがない?」

「というと?」

「だって夢って昼間の記憶を整理する効果があるとか言われてるし、少なからず夢に出てきたものは一度見たことがあるって事じゃない? もし清秋君が廊下かどこかで私を見た事があったとしても、名前と顔を一致して覚えてるってことはないと思うの。それにそのオカルト部という存在についても全く知識がなかったんでしょう?」

 確かにそうである。清水出美やオカルト部が実在しないものならまだしも、出美は目の前に存在しているし、オカルト部というものが実在するということは弘樹からも確認した。

「じゃあ昨日僕があった出美さんは何だったんですか?」

 さらに話がややこしくなった。昨日の出来事は夢じゃないとする。しかし目の前の出美は今初めて清秋とあったと言う。

「ドッペルゲンガー」

 出美は一言そうつぶやくと話を続ける。

「同一人物が同じ時間に違った場所で目撃される怪現象。日本にも昔は同じような現象があって、『影の病』とも呼ばれていたわ。ただ、これらにすべて共通することは、ドッペルゲンガーとして目撃された人物は近いうちに死ぬ確率が高いということ。これはドッペルゲンガーが本人を殺すとか、本人になり変ってしまうとか言われているわ」

 先ほどまでの上品な彼女はどこへやら、まるで蛇口を一気に全開にしたようにぺらぺらと話す出美。手元にある水を一口飲んでさらに続けた。

「ただ私が考えるに、ドッペルゲンガーていうのは生きた人間の魂が何らかの理由によって二つまたはそれ以上に分断されることによって肉体を持たない方の魂が虚像として現れたものじゃないかと思うの。だからもう一人の自分を見たものは自分の魂が不足した不安定な状態に陥るから死ぬことが多い。私はそういう結論に至ったんだけど、清秋君はどう思う?」

「えっと、とりあえず落ち着いてください」

 あまりの出美の勢いに気圧される清秋。もしかしたら出美は普通に二重人格なんじゃないかと思うほどの豹変ぶりであった。

「ご、ごめんなさい。私こういう話になるとつい夢中になっちゃって。お化けとか妖怪とか言った話が大好きだから。やっぱりおかしいよね」

「いえ、そんなことないですよ。ただ、珍しいなと思っただけです」

 一瞬にして元に戻る出美。美人で勉強もスポーツもできる先輩、でも幽霊や妖怪話が好き。考えるとこれぐらいの方がバランスが取れているんじゃないかと思った。十全十美な人などいるわけがないのである。

「だとすると出美さんはこの数日の間に死んでしまうということになるんじゃないですか?」

 ドッペルゲンガー説を信じたわけではないが、ここで討論しても違った考えが直ぐに出るとは思えない。清秋はとりあえずその線で考えることにした。

「あくまで私の考えだけど、そのドッペルゲンガーと私が元に戻ったら万事解決すると思うの。ドッペルゲンガーを罵倒すれば助かるとかいう話もあるし」

「じゃあどうするんですか?」

 何となく想像はできたが、清秋は質問する。

 すると出美はフッフッフ、とまるで昨日の出美のような不敵な笑みを作り言った。

「今日の放課後にそのオカルト部にいくのよ!!」

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