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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第四話:小休止

 携帯のアラームの音が聞こえる。自分が目覚まし代わりにいつもセットしているものである。朦朧とする意識の中で目を開けずに手探りでアラームを止める。 

 すごく嫌な夢を見ていたような気がする。たしか朝から謎の怪物に襲われて……

「兄さん、やっと起きたの? 早く用意しないと遅刻するよ?」

 記憶の糸をたどっていると、部屋のドアが内側に少し開かれた。そこからひょっこりと顔を出したのは、ボブに切りそろえられた髪を揺らし近所の中学校指定の制服を着た少女。清秋の妹である葛葉柚花だった。

「ああ、今から行くよ。ていうか柚花、なんでもう鞄なんか持ってるんだ?」

 ドアの隙間から見える柚花の足元には学校指定の通学鞄が置かれている。

「今何時だと思ってるの? もう七時半過ぎてるわよ」

「はぁ? だってアラームは七時にセットしてたはずじゃ……」

 携帯の画面を見ると≪7:31≫と表示されている。どうやら三十分以上鳴り続けていたらしい。

「分かったら早く起きてね。あと鍵はちゃんと閉めて行くように。んじゃいってきまーす」

 ドアが閉められ、階段を下りて行く足音が聞こえた。

 少し呆けた後、もう一度思考を戻す。そう言えば自分は昨日どうやって帰って来たのだったか。確か清水出美なる女性に薬を盛られて意識を失ったはずだ。その後運んでくれていたとしても、柚花に気づかれずに部屋まで連れてくることなんてできないだろう。

「やっぱり夢だったのかな?」

 気絶するほど頭を強打したのに何もできていなかったし、首筋を触っても襲われたときにできた傷もなかった。しかし夢にしては記憶が鮮明である。死体の血の色、強烈な衝撃、病院や学校で聞いたセリフなど、全てを完全に覚えていた。

「おっと、遅刻遅刻」

 時計を見ると七時四十五分を過ぎていた。昨日の出来事について考えるのは後にして、とりあえず急いで学校へ向かうことにした。






「大丈夫だったか、昨日?」

 清秋の前方では心配そうな顔をしている園山弘樹がいた。

「ビックリしたしたぜ。まさかお前が学校を休むとはな。小学校以来じゃないか?」

「いや、中学の時に一回だけインフルエンザになって休んだよ」

 現在、清秋は自転車の荷台にまたがっている。

 自転車のパンクを直していなかったので、今日も全力疾走しようとしていたところに、今自転車の動力となっている弘樹が通ったのだ。

 園山弘樹。清秋の小学校時代からの友人で剣道部員。長身で顔の彫りが深いため、見た目は恐い人物だと思われがちであるが、人当たりの良い性格で友達も多い。

「なんでも全速力で大転倒したあげく、電柱に頭をぶつけてさらに車に撥ねられたとか……」

「本当にそれが全部事実だとしたら僕は生きていないか、少なくとも重体で入院ぐらいはしているんだと思うんだが」

「冗談だよ。でも派手に転んで頭を打って意識がなかったから救急車で運ばれたって聞いたぜ」

「誰が言ってたんだ?」

「先生」

 学校ではそういうことになっていたらしい。本当に頭を打っただけだったのだろうか。それならそれで柚花はもう少し心配してくれてもいいんじゃないかと清秋は思った。

「なんだお前、覚えてないのか? まさか頭を打った拍子に記憶喪失とか。お、到着したぜー」

 弘樹は冗談っぽく言ったが、案外その線で考えた方が自然なんじゃないかと清秋は考える。頭を打ったため病院へ運ばれて、その後お見舞いか何かにきた柚花に連れて帰られ部屋で寝かされた。その間の記憶がないのは頭を強打した後遺症のようなもので、昨日起きたと思っていた出来事は全部夢だった。清秋はそう考えながら自転車を降りる。

 自転車置き場はグラウンドの西側にあり、自転車通学の学生が多いためか結構広いスペースを確保されている。それでも今のように八時二十分を過ぎると、自転車であふれかえってしまう。

 弘樹が空きスペースを探しにいっている間、グラウンドを挟んでちょうど対角線上にある体育館に眼がいった。正確に言うとその右側。クラブ棟と体育館の間にある汚いプレハブである。

「どうした、清秋。可愛い娘でも見つけたか?」

 自転車を停めて帰ってきた弘樹が話しかけてきた。

「いや、あんな建物ってあったかなと思って」

「ん? あのプレハブか? 俺たちが入学する時からあったぜ。そうか、お前は帰宅部だから部室棟の方には行かないんだな」

 どうでもいいという風に弘樹は学校に向かって歩き出す。

「何に使われてるんだ?」

「俺もよくわからんが、変な部活が使ってるとか。名前は何て言ったかな」

「オカルト部」

 自然とその言葉が出てきた。

「そうそう、そんな名前だったと思う。何だ、知ってるんじゃないか。でそれがどうかしたのか?」

 清秋は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。まさか本当に存在するものだったのか。昨日の出来事が夢の事なのか本当のことなのかもわからなくなっていた。

「どうした? やっぱ気分が悪いなら保健室でも行くか?」

 弘樹は立ち止り、心配そうな顔で清秋の顔を覗き込んでくる。

「実は……」


 清秋は昨日の出来事を話す事にした。朝から謎の怪物に襲われた事。目が覚めると病院にいたこと。清水出美なる女性に半ば無理やり病院から連れ出されたこと。学校で薬を飲まされてそのまま気を失ったこと。

「ぶぅアッハッハッハッハッハ」

 盛大に笑われた。

「ヒィー、腹いてえ。ありえねえって。清水出美つったらこの学校の二年でいるけど、絶対そんなことするわけねぇ」

「な、なんでそんなこと言えるんだよ」

 信じるとは思っていなかったが、ここまで笑われるとは思っていなかった清秋は教室中の視線を集めた弘樹を睨みつけた。ちなみに歩きながら話していたため、今は教室に到着している。

「それに、なんでお前が清水出美のことを知ってるんだ?」

 馬鹿にさえたことに対する怒りは一時納めて、自分が昨日会った人物を知っているということに驚き、質問する。

「おまえしらねぇのか? 清水出美って言ったらこの学校一の美人で、勉強も出来てスポーツ万能。俺は才色兼備って言葉をお世辞じゃなしで使えるのは、世界でもあの人だけだと思ってるぜ。しかも家はかなりの金持ち。それでいて性格はおしとやかで気配りもできるっていう、どっかの都市伝説みたいな人だよ」

 確かに記憶にある出美はかなりの美人であった。しかし、勉強やスポーツ面は分からないとして、お世辞にもおしとやかとは言えないだろう。

「まあどこかで清水出美の噂を聞いて、夢の中で変な部活とごっちゃになっただけじゃね? おっと、もうホームルームらしいぜ」

 教室に入ってきた担任を指差しながら弘樹は自分の席に帰っていく。

 この後、英語の抜き打ちテストの存在により清水出美に対する疑問はすっかり忘れられた。




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