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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第三話:オカルト部

 半ば無理やり病院から連れ出された清秋は、出美が待たせていたタクシーに乗せられ、あるところに連れてこられた。

「ここって……」

「ああ、君もご存じの通り紀近高校だ」

 病院からタクシーを二十分走らせて、到着したのは清秋の通う学校である紀近高校であった。

「まあ詳しい事は後で話すとして、とりあえずついて来たまえ」

 そう言うと出美は紀近高校の目の前の門をくぐった。

 紀近高校は緩やかな傾斜地に建てられた高校であるので、校舎は道路より少し高い所に建てられている。そのためか、門を入るとすぐに坂道が数メートル続く。その坂を上ると小さな広場になっており、中央には気が数本植えられ右端には数台の駐車スペースがある。

 出美を先頭にして後ろに雀、清秋というように、まるでRPGのように一列になって校舎に沿って歩いていく。

「あの、どこに向かってるんですか?」

 渡り廊下を横断して、前方に体育館を見ながら清秋は質問すると、出美の代わりに雀が答える。。

「私たちの部室です。オカルト部っていう部活なんですが、聞いたことありませんか?」

 清秋は首をひねる。先日体育館で行われた部活紹介の記憶を掘り起こしてみたが、それらしい部活は聞いたことがない。多くの部活が下駄箱付近で行っている勧誘でも見かけた覚えもない。

「無理もないさ佐々木雀君。我々は勧誘活動を行っていないからね。ただの興味本位で入られてもこまるのだよ。能力のあるものだけこちらから勧誘するだけだ」

「能力?」

「さあ着いたぞ」

 体育館を回り込んだ所には小さなプレハブがあった。他の部活の部室がある部室棟と体育館の間に配置されており、最近立てられたのだろう少し他の校舎に比べて汚れが少ない。ドアはアルミ合金、壁はところどころ鉄骨がむき出し、屋根はルーフデッキ、非常に簡素な造りである。

「詳しい話は中に入ってからしようじゃないか。お茶ぐらいはご馳走するよ」

 ドアと同じく金属製のノブを捻り、出美は〈部室〉の中へ案内する。

「……え?」

 そこで清秋は言葉を失った。

 先ほどドアの前で見たのはお世辞にも豪華とは言えないような粗末な造りの建物だった。

 しかし一歩中に入ってみると、まるでどこかの社長室のような内装だった。入って正面には木製のデスク、黒い革製の肘掛椅子。その手前には長方形のテーブルが配置されており、それを挟むようにしてソファーがある。さらに右側の空間を見ると、本棚やクローゼットのようなものも見られた。

「外装は教師や他の部活とかからクレームがくるから始めのままですが、内装だけは変えさせてもらいました」

 まるで清秋の心を読んだかのように雀が説明する。

「いつまでも突っ立ってないで座りたまえよ君たち。おっと佐々木雀君は客人君にお茶を入れてあげてくれ。それとも葛葉清秋君はコーヒーの方が好みかな?」

「お茶で大丈夫です」

「ということらしいからよろしく」

 かしこまりましたと言い、お茶を入れに行く雀。まるで喫茶店の店員のようにな動作で隣の小さな部屋に入って行った。どうやら給湯室のようなところがあるらしい。

 改めて部屋を見回してみると雀の言った通り改装したような跡が見られる。ドアや窓枠などは外と同じアルミサッシになっているし、先ほど雀が入って行った給湯室も後から壁で囲って小部屋を作ったようになっている。

「いつまできょろきょろとしているんだね? そろそろ本題に入ろうじゃないか」

 出美はいつの間にか奥の肘掛椅子に腰かけ、机に肘をついて両手を組んでいる。

「まず先に結論だけ言おう。君は吸血鬼に襲われた」

「きゅうけつき?」

「そう吸血鬼。ヴァンパイアとも言うね。まあ正確に言うと、君を襲ったのはヴァンピールというものでね。吸血鬼の手下のようなものさ」

 清秋にはまったく意味が分からなかった。いきなり吸血鬼やらヴァンなんたらやら言われてもわけが分からない。

「あなたは伝説の怪物である吸血鬼に襲われて毒を入れられた。そして汚染されたあなたの人間としての血液は時間とともに吸血鬼化して、最後にはあなたも伝説の怪物になるわ」

 お茶くみから帰って来た雀がカップを清秋の前に置きながら話に加わる。お茶はお茶でも紅茶だったらしい。高そうなティーカップの中に、真っ赤な液体が入れられている。

「何言ってんですか? 吸血鬼なんているわけない」

「いいえいるわ。吸血鬼だけじゃない。妖怪も幽霊も、超能力者や魔法使いだっている。あなたが知らないだけでこの世界にはまだまだ未知なるものが隠れているのよ。それに否定するならまずあなたの今日目にしたもの全てを否定しないとね」

 雀はそう言うとソファーに座り、三つの紅茶のカップをそのままテーブルの上に置いた。もちろん一人だけ違う机に掛けている出美からは届かない距離にある。「佐々木雀君の言う通りだよ葛葉清秋君。ではまずは目の前の事から説明してくれたまえ」

 出美は机の上にある紅茶のカップ、正確に言うと机の上に〈あった〉カップを指差す。

 それは清秋の前で浮いていた。赤い液体の入ったカップは清秋のちょうど眼の高さまで上昇している。糸でつっているようには見えず、見えない手によって持ち上げられたようだ。

「さあ葛葉清秋君、そのカップはどのような仕組みで浮いているのかな?」

「……」

 視認できないほど細い糸で吊っている。テーブルとカップに磁石が入っている。そんなありきたりな仕掛けぐらいしか清秋には思いつかない。しかし、この距離で目視出来ないような糸など存在するはずがないし、磁力でこんな安定した浮遊ができるわけがない。目の前で起きている現象はあまりにも非現実的であった。清秋の目の前に大きなテレビが置かれており、眼に映っているのは全てその映像だと言ったほうが納得する。

「これが私の能力≪自由自在(コントローラー)≫。視認できるものならどんなものでも操作することができる。ちなみに病院で君を壁に押し付けたのもこの能力だ」

 清秋の目の前で静止していたカップは、そのまま出美の前まで移動していった。

「それで吸血鬼に襲われたところまで話たかな。そう、君を襲ったのはヴァンピール。おそらく真っ赤な獣か血を入れたビニール袋のような姿をしていたと思うんだが」

「動く血の塊でした」

 球状になった脈を打つ血の塊。渦を巻き始め、襲いかかってきた時の光景を清秋は思い出す。

「うむ、やはりうそうか。このヴァンピールというのは、吸血鬼の血液から作られる。意思はなく、吸血鬼のために人間の血液を集めるんだ。ただ不可解なのはそいつが君を生かしているという点だな。普通は血液を全て吸いつくすはずなんだが」

「誰かに助けられました」

「助けられた?」

「はい、そのあと気絶してしまって顔は見ていませんが、声は女性だったと思います。後は……」

 清秋は後ろから声をかけられたのを思い出す。後ろから声が聞こえて振り向く前に頭に衝撃がきた。点滅する視界に映ったのは確か。

「後は、そう。金髪が見えたような気がします。意識がはっきりしてなかったので断定はできませんが」

「金髪か。一応調べておこう。しかしどうやってヴァンピールを撃退したのだろうな。一般的にあいつらも吸血鬼と同じく不死身のようなものなんだが」

 紅茶を啜りながら出美は難しい顔をする。会話が切れたので清秋も同じように紅茶を口に含んだ。喉を熱い液体が通り、少しの苦みと共にさわやかな香りが鼻の奥を刺激する。

 しかし考えてみると怪しいものである。先ほどの話しが本当で吸血鬼が存在するとして、出美達はなぜ自分をこんなところに連れてきたのだろうか。

「まあそれは置いといて、治療を開始しよう」

 そう言うと、出美は机の引き出しを開けて何やら取り出した。

「さっきから言ってる治療って何なんですか?」

「襲われた時首筋に傷を負っただろう? 先ほども言った通りヴァンピールは吸血鬼の血液からできているからね」

「というと?」

「その傷から吸血鬼の血液が入り込み、吸血鬼になってしまうんです」

 横で黙っていた雀が答えた。先ほどから回りくどい出美の説明を良いタイミングでフォローしてくれる。まるで秘書のようだ。

「それでこの薬の出番だ」

 出美の方に視線を戻すと、先ほど机から取り出したらしい注射器をくるくると回していた。まるで能力とやらを見せびらかすように、宙に浮かばせている。

「なんですか、その怪しげな薬は」

 注射器の中には何やら赤黒い液体が入っており、明らかに怪しい。

「『吸血鬼化緩和剤(ヴァンパイアゲノムデストロイヤー)』と呼ばれているもので、吸血鬼化を遅らせる薬です」

「カタカナ読みにしたことで一気に怪しくなったぞ!? あんた嘘つくの苦手だろ!!」

「……」

 雀はあさっての方向を向いてしまった。

 今のはこの人なりの冗談だったのだろうか。この重い雰囲気をなごませようとしたとか……。そう考えたが、この佐々木雀という人物は表情を読み取りにくいので判断のしようがなかった。

「まあ半分ぐらいはあっているさ。君の今の状態だとこの薬を打つしか方法はないのだよ。ただ、これはかなりの苦痛を強いるのでね、痛みを緩和する薬を君の紅茶に入れておいた。簡単な麻酔みたいなものさ」

「ちょ、ふざけるなあんた! 意識のない間にそんなよくわからない薬を打つ、気……か」

 まるで出美の言葉が引き金になったかのように、清秋は意識が朦朧(もうろう)としてくる。

「引き延……三日…だ。その間になん…………ようにしよう。……また明日の同……時間にここに…………」

 出美の声が切れ切れに聞こえる。薬を盛るなら話がおわってからにしろ。と言いたかったが口がうまく動かなかった。

 右腕に何かが刺さった感覚があり、そこから段々熱くなってくる。恐らくここから本格的に痛みが増してくるのだろうが、ここで清秋の意識は完全になくなった。


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