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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第二十七話:別れ

 バートリを飲み込んだ砲弾はさらに前方へ、廊下の突き当たりまで破壊して数メートル突き進んだ後に収束した。

 だがそれで終わらない。

 音速で通過した砲弾を追うようにして衝撃は、床をめくり、柱を折り、天井を引きずり落とす。

 結果生まれるのは地下フロアの崩壊。

「少し魔力を込め過ぎたようだね」

 目の前の破壊を引き起こした張本人を見ると、苦笑を洩らしながらまるでバナナの皮のようにめくれあがった銃と、地響きを立てて崩れ落ちようとしている地下フロアを見渡している。

「ちょっと! 何してんですか!!」

 とりあえず、目の前の過剰破壊に抗議の言葉を吐きながら、手元に会った死体を投げた。

 どうやら操っていたバートリが消滅したことで死体は動かなくなったようだ。

 何の抵抗もなく、弧を描いて飛ぶ死体は数メートル先の少年の前まで飛び、片手で弾かれた。

「ていうかどうなってるんですか清秋さん! ていうか出魅さんはだいじょうぶなんですか~!?」

「気にすることは無いぞ、前嶌二葉君。こうすればすぐに治る」

 言うと、出魅は壁に磔になっている自らの肉体を強引に引き抜く。

 しかも杭を抜くでもなく、腕を掴んで強引に、ブチブチと肉が切れる音を聞きながら二葉は顔をしかめる。

「こうすれば元通りだ」

 言い終わるや否や、引き抜いた出魅の肉体に空いた風穴は内側からゆっくりと、しかし常人とは比べ物にならないくらい高速で再生し、抉れた顔面も元の状態に戻る。

 と同時に清秋が倒れた。

「清秋さん!?」

 急いで駆け寄ると、肩に小さな重量を感じる。

「心配いらないよ、前嶌二葉君。彼は少し気を失っているだけだ。それよりもまずここから脱出する事を考えないとね」

 すでに弾丸が通り過ぎた廊下は瓦礫と化しており、その崩壊がこちら側にまで広がってきている。

 清秋がなぜ出魅の様になっていたのか、なぜ突然倒れたのか全く理解できていないが、生き埋めになってしまっては元も子もない。

 元来た道を戻るために二葉は急いで引き返し、父親を担いで脱出するために階段へ向かう。

 しかし、元来た道を見ると、すでに天井が崩れて通れなくなっていた。

 まずい、このままでは生き埋めになってしまう。そう思い、どうしようかと助けを求めるように出魅を振り返る。

「って何やってんですか!?」

 視界に飛び込んできたのは横向きに寝そべり、肘を立てて頭を支えた姿勢の出魅だった。これで煎餅でも食べていたら、テレビを見ながら昼寝をしている主婦のようだ。

「何って、深手を負ったので少し回復を待っているんだが?」

 確かにあれだけの傷を負ったのだ。いくら無欠という能力があるとしてもダメージは残るのだろう。

 しかし、今自分達がいる場所が崩れるのも時間の問題だ。

「でももう時間がありません。動けない程のダメージが残ってるんですか」

「うん、確かにこれはまずいな。いや、先ほどの話を補足しておくと、この能力は回復をするだけでその分のエネルギーを消費するのだよ」

 気だるそうな顔で出魅は言う。

「簡単に言うとお腹がすいて動けない」

「ふざけんな!」

 あまりにもふざけた回答に、二葉の敬語が崩れる。

「大丈夫だよ。崩壊が収まってからゆっくり出ていけばいいじゃないか」

「それでみんなの死体をあなたが掘りおこして無事脱出ってわけですね」

「うん。でも火葬したらもう一度埋めるんだよ」

「生きてるのアンタだけじゃないですか!」

「はっはっは、軽い冗談だよ」

 今にも噛みつきそうな二葉を制しながら笑いでごまかす。

「と言っても急いだところで出口は塞がれているし、エレベーターも乗れないだろう」

 確かにこれだけの崩壊が起こってしまってはどう足掻いても脱出は不可能だ。

 二葉もそれは分かっているがせっかく敵を倒したのに生き埋めになって死んでしまいましたでは馬鹿らしい。

「安心したまえ」

 と言いながら携帯をいじっている出魅は本当に脱出する気があるのだろうか。

 彼女は吸血鬼。人間の命などどうでもいいと考えている可能性がある。

 さっきは冗談だと言っていたが本気で自分だけゆっくりと出ていく気かもしれない。

 二葉がそう考えていると、出魅は携帯を制服のポケットに入れ、続けて言う。

「視力が回復した私に死角はない。脱出口を確保するぐらい造作もないのだよ」

 話しながらゆっくりと歩き出す。

 自分の後方に歩いて行く吸血鬼を目で追うと、彼女は瓦礫で作られた壁の前で立ち止まり、両手を前に突き出し、上下にゆっくりと開く。

 まるで固く閉まった蓋を無理矢理こじ開けるような動作に、壁が反応する。 

「そんな無茶苦茶な」

 目の前の現象は信じられないものだった。

 始めは気の所為かと思ったが、目の前にあった瓦礫が小刻みに動き出す。

 そして建物が崩れ落ちる音とは別に、金属が捻じ曲げられるような悲鳴を上げながらコンクリート片や鉄骨が重力に逆らって上方にゆっくりと移動し始めた。

 やがて自分達の逃げ道を塞いでいた瓦礫は出魅の手の動きと連動するようにして持ちあがり、大蛇が口を開くように大きな空洞が出来あがった。

「さあ早く行きたまえ。さすがの私でも、この質量を支え続けるのには限界がある。おっと、清秋君も忘れずにつれて行ってあげてくれ」

 絶句していると出魅が傍らの清秋を片足で蹴って二葉へ向けて飛ばしてきた。

 宙を舞う清秋を慌てて受け取り、了解したという合図を送り二葉は右手に父親を、左腕に清秋を担いで出魅が作り出した脱出口へ向かう。

 足場の悪い道を駆けながら、二葉は考える。

 バートリが死んだということは、姉は自由になったのだろうか。

 もしかすると脱出すれば外には一葉が待っていて、現在右肩に担いでいる父親と三人で再び一緒に暮らすような日々が待っているのかもしれない。

 バートリという敵がいなくなったことで、じわじわと喜びの感情があふれ出てくる。

 外へ続く坂を急いで駆けのぼり、月明かりの差す夜空の下に出た。

 真夜中とも早朝ともいえる三時半の澄んだ外気を吸い込み、肺に溜まっていた地下の重い空気と入れ替える。

 埃っぽい空気を吐き出したことにより、心の中に沈んでいた重いものも排出されたような気がした。

 そうだ、これからは何も心配する事はないのだ。

 思い、両肩に担いだ二人を下ろそうと思った時。

「これぐらいで勝ったと思われたらむしずが走るな」

 聞こえてきた声は自分の背後。

 その口調は先ほど消滅した敵。

 だがその声色は違う。先ほどは杉山の身体だったため男声だったが、声の主は女声だ。しかも聞き覚えのある声。

 二葉はゆっくりと振り返る。

「何を驚いた顔をしておる。吸血鬼がこれぐらいで死ぬと思ったか?」

 そこに立っていたのは二葉の姉、前嶌一葉の姿だった。

 彼女は腕を組み、あざけるように三日月のような口をしながら言った。

「残念だったな。吸血鬼は別の人間に自らの血液を寄生させることで、本体が死んでも別の者に意識は自動的に移動する。このシステムによってほぼ完全に殺す事はできないのよ。まあ、血液の相対量が多い固体に移動という条件があるから妾自信に選択権がないのが玉に傷だが」

「……どうして?」

 自然と疑問の言葉が漏れる。

 どうしてこうなってしまったのか。

 杉山の肉体を完全に消滅させずに動きだけを封じてしまえば、少なくとも姉は完全にバートリに乗っ取られる事は無かったはずだ。

 そう思ったところで二葉にはどうしようもない。

 自分は何もできなかったから出魅が戦っていたのだ。

「さて、それでは戦いの続き、と……!?」

 しかしそこで一葉の様子が変わった。

 表情が大きく歪み、顔全体の筋肉が痙攣して空を仰ぐように上を向く。

 そして操り人形の糸を切ったように、項垂れた。

「ふ……た、ば」

 目の前の姉はゆっくりと顔を上げながら声を上げる。

「大丈夫よ。私は完全に支配されてないから」

「お姉ちゃん?」

 顔を上げた一葉は、先ほどの人間を蔑むような表情から一変して、穏やかな表情に変化していた。

 口元には微笑を浮かべ、その笑顔に二葉は懐かしい温かさを感じた。

「そうよ。時間がないから手短に説明するけど、私は完全にこの吸血鬼に支配された訳じゃないわ。支配されてるのは五割ぐらい、両方が拮抗してる状態だからこの身体があなた達を襲うような事はさせないわ」

 そこで言葉を切り、喉からせり出してくるものを抑えるように何かを飲み込む。

「……グ、はぁ。でも今みたいに、油断するとすぐに飲み込まれるの。だから、私にはもう近付かない方がいいわ」

「でも、食屍鬼なら吸血鬼の血液も分解できるんじゃ……」

「それはできないね」

 声と共に瓦礫が崩れ落ちる音が響く。

 それは出魅によって作られた穴が崩れる音だ。

 そして声の主である出魅は一葉の後ろから言う。

「確かに食屍鬼は吸血鬼の血液を分解する事ができる。だがそれは口から摂取した場合で、血液に直接入りこんだ物に対しての耐性はないのだよ。だから残念ながら前嶌一葉君の身体から完全に吸血鬼の血液を排除する事は出来ない」

「その女の言う通りよ。だから私が完全にあなたの姉に戻る事はできないわ。まあもともと生き返る事が出来たのも吸血鬼の血液のおかげだから、万が一吸血鬼の血液を分離できたとしても生きていけるか解らないしね」

 顔から力を抜いて気にするなと言うように笑顔をみせる。

「あーあ、せっかくあなたが近づかないように冷たく当たってたのに。これなら最初から、あの公園で再開した時からもっと優しくしとくんだった」

 そして二葉から目を逸らし、歩き出す。

 それはそこで話が終わりと言うように。

 彼女は病院の入口から道路へ向かう。

 そんな自分の姉の背中に向かって、二葉はポツリと呟く。

「もう、会えないの?」

「まあ運が良ければ会えるかもね。その時にはお茶でも飲みながら話せるといいわね。昔みたいに」

 背を向けたまま立ち止まる。

「あ、あと最後に一言。大好きよ、二葉」

 その言葉を引き金にして、二葉はその場に崩れ落ちる。

 一葉の去った後、溢れだす涙をぬぐいながら発する姉の名前の混じった嗚咽のみが夜の中に聞こえた。

 


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