第二十六話:決着
一体目の前で何が起きている。
目の前の少年は先ほど自分の指令下にあったはずだし、現にそのおかげで出魅を倒す事も出来たはずだ。
ではなぜ彼は突然命令を効かなくなったのか?
飛び交う弾丸と警棒を自らの武器で弾きながら、バートリは考える。
「疑問に思っているようだね、バートリ・エルジェーべト君。だがもう私には答えが出ているよ」
先ほどから自分に連撃を入れる少年は言う。
その動きは先ほど五階で見た素人の戦い方でも、命令を送って出魅に攻撃を放った時とも違う、戦闘に慣れた動き。
しかもその戦い方は自らのダメージを顧みず、可能な限り相手に攻撃を与えることを目的としているのがわかる。
つまりそれは自分がダメージを受けない、もしくは受けても瞬時に回復する事を意味しており、現に先ほどからの少年は傷を負っても、血液を流す事なく瞬時に回復している。
その能力はほぼ間違いなく『無欠』。
そして先ほどからの話し方。
「気付いたようだね。そうだ、私は清水出魅。現在は葛葉清秋君に乗り移っている」
「そんな事があるはずないであろう。魅了は私の固有能力のはず」
固有能力は一人の吸血鬼につき一つのみ。
『無欠』を持っている出魅が、『魅了』を使う事は出来ないはずなのだ。
「うん、その通りだね。確かに私に魅了は使えないし、今の状況も計ったものではない。だが何が起きているかの予想はついているよ」
「どういうことだ」
「簡単に説明しよう。先ほど、君は私の本体の動きを封じ、頭を破壊することで意識を失わせたね。それによって本体の血液が不足し、意識が葛葉清秋君の身体に移ったのだよ」
「だが、意識移動には相手の体内に血液を入れておく必要があるだろう。そなたはその少年に血液を入れてないはずでは?」
バートリが言ったのは吸血鬼の意識移動の話。
吸血鬼の本体は血液であるので、その血液が相対的に一番多く存在している身体が本体となるのだ。
だが、出魅は一度も清秋の血液に触れていない。
「いや、あったのだよ。私が葛葉清秋君の血液に自分の血液を混ぜるチャンスが」
「……」
無言のバートリに対し、出魅が言葉を続ける。
「君が彼に血液を混入した後、私は葛葉清秋君が吸血鬼の血液に浸食されているのを確認したので、拮抗剤を投与した」
「まさか」
「そうだ。吸血鬼の血液に対する拮抗剤など存在しない。浸食を抑える為には別の吸血鬼の血液によって対抗するしかないのだよ」
完全に吸血鬼化を止める事はできないが、と付け足して至近距離で銃を構える。
「そしてもう一つ気付いた事がある」
引き金を引いて弾丸を発射させる。
音速を超えた銃弾は、辺りに爆発音を響かせて、バートリの左肩、先ほど出魅がナイフを刺した場所に直撃し……
「!?」
肩の付け根ごと腕を剥ぎ取った。
まるで巨大な猛獣の爪で抉り取られたような傷口を残し、バートリの腕が宙を舞う。
そして湿った音を立てながら、床に落ちた。
落ちた腕の傷口からは、残っていた血液が流れ出て、川を作っている。
「この銃は蘆屋大介という武器マニアから借りたものでね、弾に込めた魔力の量に比例して威力が上がる」
出魅は三度、引き金を引く。
一発目はバートリに傷さえ残さずに地面に落ち、
二発目はバートリの右腕を貫通
三発目はバートリの横腹を掠っただけにもかかわらず、彼女の腹部から多くの質量を抉り取った。
「そしてこの葛葉清秋君の中に会った魔力は測り知れないものだったのだよ。おそらく、この魔力を全て使えば人一人けし飛ぶぐらいの威力は出せるだろう」
胸ぐらを掴まれたバートリは勢いよく出魅に引き寄せられる。
が、気付いた時には視界に少年の姿は無かった。
上に飛び上がったと気付いた時には、相手が自分の後方に着地し、背中に蹴りを入れたのがわかった。
「先ほどのままだと、余波が前嶌二葉君にまで及んでしまうのでね」
自分の後ろで銃を構えた音が聞こえ、避ける為に後ろを振り返る。
「これで終わりだ。なかなか楽しめたよ。バートリ・エルジェーべト君」
引き金が引かれたのを視認する。しかしその動作に対して発せられた音は銃声ではなかった。
轟音。
まるで砲撃でも行ったような巨大な音が廊下の空気を振動させた。
そして銃口から発せられるのは巨大な魔力の塊。
直径二メートル近くあるその砲弾は、バートリから見れば光の壁が迫ってくるように見えた。
その壁は音速を超えて自分に迫り……
「ぐ……あぁ!!」
着弾。
銃弾が纏う魔力の熱によってバートリは肌を削られ、肉を焼かれ、骨を砕かれて一瞬にして蒸発する。
そして視界が真っ白になり、そして意識は真っ暗になった。




