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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第二十四話:純血同士の戦い

 杉山と共に現れた生ける屍は二十、いや三十はいるだろう。

 それらは隊列を組むでもなく、廊下の両側にあるドアから出てくるため、杉山の後方は満員電車のごとく死体が密集している。

「やあやあ、久しぶりじゃないかバートリ・エルジェーべト君。軽く千年は前になるのかな」

 出魅は級友に会ったように気軽に声を掛ける。しかし一目で目の前の人物が杉山ではない事がわかったようだ。

「なにをふざけた事を言っておる、ブラド・ツェペシュ。四年前の事、よもや忘れたわけではあるまい」

 一方で杉山、いやバートリは敵意を剥きだしにした口調で目の前の敵を睨みつける。

 四年前に自分を一度殺した相手が飄々と姿を現したのだ。それに対して怒りの感情が湧き上がるのは当然と言えば当然の事だろう。

「まあそう怒るな。私達吸血鬼は消滅することはないのだから、そう気にすることでもないだろう? 五百年近く生きていて一度も死んでいない訳ではあるまいし、寿命は無限にあるのだから小さな事で怒っていては楽しく過ごせんよ」

「ふん、妾とて殺された事を長々と引きずっている訳ではない。純潔の吸血鬼であるにもかかわらずその態度、血液を得た人間を生かしている事、全てが許せぬのだ!」

 バートリは自らが純潔である事を誇りとし、吸血鬼らしく食事として人間の血を飲む時は老若男女問わず全員殺している。

 しかしそれは殺人によって快楽を得るためなどではない。

 獲物である人間に恐怖を抱かせ、自己防衛の本能を呼び起こすためだ。

 吸血鬼と人間はいわば捕食者と被捕食者。吸血鬼は人間よりも食物連鎖の頂点に近い位置にいるのだ。

 それは人間より強いと言う事を示すとともに、逆に人間を捕食しないと生きていけない事を示している。

 もしも人間が自己防衛を行わなければ、吸血鬼の人口が増えて生きる為に殺す人間の数も増える。そして過剰に捕食しすぎれば人間が絶滅し、次に被害を被るのは獲物を失った自分達だ。

 よってある程度人間の恐怖を煽るために集団殺人を行う。

「そなたはいつも必要最低限の血液を吸っては気付かれないようにひっそりと生活している」

「ひっそりと生活する何が悪いのだね。確かに君の様な考えの時も私にはあった。だが、人間を殺さなければ私達が生きていけなくならないだろう」

 腕を組んで、いつにもまして余裕のある笑みを浮かべる出魅に、バートリは返す。

「それはただの諦めにすぎないのではないか? 現にそなたは夜しか活動できず、昼間は人間に意識を持っていかれているではないか」

「どうやら認識の違いがあるようだね、バートリ・エルジェーべト君。私達は人間の体を借りている身。食事として以外にも体を借りなければ生きていけないのだよ」

「借りているのではない。利用しているのよ。むしろそれによって長命を得る事ができる人間に、感謝をしてほしいぐらいよの」

 片や自らを人間より秀でた生物として考え、人間を唯の食事として見る者。

 片や人間と共存することで自らを存続させ、人間を協力者として見る者。

「ああ、どうやら君と話していてもきりがなさそうだよ、バートリ。エルジェーべト君」

「ほう、そなたと意見が一致する事もあるのだのう」

 両者とも前で組んでいた腕をほどき、出魅は姿勢を低くし、バートリは控えた軍勢に指示を送る準備をする。

「それでは決闘を」

「始めるとしようかの」

 地下廊下に巨大な音が鳴り響き、壁全体が震える。

 先生攻撃を放ったのは出魅だった。

 床を陥没させるほどの力前に押しやった自分の体ごと相手の懐へ飛び込み、手は手刀、バートリの心臓の場所を的確に狙う。

 しかしその攻撃を、懐から取り出した警棒を一瞬で伸ばし、両手を使ってその勢いを止める。

 もちろん突進で与えられた力は斬撃だけを生むものではなく、勢いを完全に止めきれず、バートリは出魅と共にそのまま数メートル後退する。

「相変わらずの肉弾戦。変わらぬのう、そなたも」

「変わらないのは君もだろう。ああ、あの時とは肉体が違うのだったな」

 からかうように余裕の表情を見せる出魅。

「それだけではない。今とあの時では状況が違うのではないか?」

 対して三日月のように口角を吊りあげる。

 その表情の意味はすぐに分かった。

 出魅の上下左右を多くの影が後方に向けて通過するのだ。

 通過するのは先ほどからバートリの後ろに控えていた死体の軍勢。

「まさか」

「ああ、そなたの予想通りよ」

 軍勢が狙うのは後方にいる二葉だ。

 しかし彼女はすでに状況を把握していたのか、戦闘の準備のために両手を前方に構えて、数十の敵を相手するつもりだ。

「いくらそなたが食屍鬼でもその人数は相手に出来んだろう」

 バートリが叫ぶ。

「これぐらい大丈夫よ!」

 一方で二葉は強気な言葉を放つが、あまりにも敵が多すぎるのは誰が見ても明らかだ。

 数秒後には身動きが取れなくなるだろう。

 だが現実は違う。

 突如としてその死体の軍勢が半分ほど吹き飛んだのだ。

 そしてその死体は壁、床、天井に叩きつけられた後、見えない力によって圧迫して押しつぶされる。

「これぐらい倒せば大丈夫かな、前嶌二葉君」

 そして続く言葉。言葉の主は出魅。

「余計な事しなくても大丈夫よ!!」

「では私はこれぐらいでやめておくとしよう」

 振り向いていた顔を再び前方に向け、バートリに向かって笑みを浮かべる。

「そなたまさか」

「ああ、視力は回復した。だが、安心したまえ。吸血鬼同士の決闘で吸血鬼以外の力を使おうとは思っていないよ」

 まるで子供が悪戯を成功させたような笑み。

 それを見てバートリは歯を食いしばり、怒りの表情をあらわにして警棒に力を込める。

 ギィンッ、という音が響き出魅の爪は弾かれて、本人ごと後ろに下がった。

 次の攻撃はバートリから放たれる。

 間合いを一気に詰めながら、左手を懐に入れてもう一つの警棒を展開する。

 繰り出されるのは金属棒による連撃。

 その打撃は、出魅の回復力よりも早く、受け止める出魅の腕にダメージを蓄積させる。

 そして秒速数百の打撃を受けていれば、如何に吸血鬼の骨と言えども耐久力を失うのは明らかだ。

「グッ」

 骨が折れずに砕ける。

 砕かれた腕はゴムのようにぐにゃぐにゃになるが、猛攻から解放されるとすぐに彼女の固有能力『無欠』によって再生が始まった。

 だがバートリの連撃は止まらない。

 完全に再生が終わる前に、容赦なく打撃を送り込む。

 狙うは頭。頭蓋を破壊すれば再生にもかなりの時間が必要であるはずだ。

「そうはさせないよ」

 出魅は地面を思い切り蹴る。

 しかし体はそのまま、脚だけを上に、宙返りの姿勢になる。

 上下逆転した身体を曲げ、背中で地面に着地しながら脚を上に突き出す。

 頭のあった位置には脚が、振り下ろされる金属棒を受け止めるように待ち構える。

「くそっ」

 次はバートリが悪態をつく番だ。

 出魅の脚の裏に直撃した警棒は、もちろん出魅に衝撃を与える。

 だが、出魅は脚をまっすぐに伸ばし、接地した背中まで一直線の、まるでつっかえ棒のような役割をしている。

 与えられた衝撃は出魅にダメージを与えたものの、同等のダメージを警棒に反作用として返した。

 衝撃は警棒からバートリの片手に伝わり、耐えられずに握った武器を離す。

 支えを失った鉄の棒は勢いよく上方に跳び、天井に突き刺さった。

 それを音で確認し、視線はバートリへ向ける。

 腕はすでに再生しており、手のひらを地面に添えて発射台とし、天井に向けていた脚を前に傾けることで照準を合わせ、身体の力を抜かずに、更に両腕を一気に直線に伸ばして自分の身体を発射する。

 至近距離で放たれた下方からのとび蹴りはバートリの胸部に深々と食い込み、肋骨を数本折って被弾者を吹き飛ばした。

 攻撃を受けたバートリはまるで重力が無くなったかのように数メートル地面と平行に飛ぶが、側方の壁にぶつかってやがて床に落ちる。

 その隙に追い打ちを掛ける為、出魅はバートリめがけて駆けた。

 手にはサバイバルナイフ、それも銀のコーティングをされたもの。一気に方を付ける気だ。

「口ほどにもないとはこの事だね、バートリ・エルジェーべト君。そろそろ終わらせようか」

「そう焦るでない。もっとゆっくり、戦闘を楽しもうじゃないか」

 その余裕の表情を見て、出魅は気付く。

 天井の蛍光灯に照らされて白く光る線が見えた。

 太さ数ミリのワイヤーだ。

 それはバートリまでの距離を半分まで縮めた自分の五十センチ程上方にあり、片方がバートリの右手に、そしてもう片方が先ほど天井に突き刺さった警棒の柄に繋がっている。

「脳天をかち割れ!」

 言葉と共にバートリは自らの右手を思い切り後方に引いた。

 勢いよく天井から引き抜かれた警棒は、一瞬重力にひっぱられて少し軌道を低くし、横向きの引力によって一直線にバートリの手元へ向かう。

 その軌道は出魅の左肩の上、耳の横を通る位置だ。そのままでは当たる事は無く、通りすぎるだろう。

 だが、それをバートリが許すはずがない。

 手にしたワイヤを右に引き、そしてすぐに左へ戻す。

 その行為によって、警棒の急接近により出来たワイヤーのたるみに横波が生じた。

 横波は勢いよく前方に進み、丁度出魅の肩上に到達していた警棒の尻を左右に揺らした。

 そして鈍い音が響く。

 強い衝撃ではないものの、左側頭に衝撃を与えられた出魅は一瞬平衡感覚を失い、身体を右側に傾ける。

 バランスを崩したことで前方につんのめるような格好でバートリに突進する。

 さらに出魅はバートリの左手に黒い物体が握られているのが見えた。

 銃だ。

 出魅が見たその黒光りする凶器の発射口は真円。つまりそれは自分の頭部を狙っているということだ。

「銀の弾丸(シルバーブレッド)だよ」

「御親切にどうも」

 銃口と出魅の距離はわずか二メートルに満たない。

 発射を待たずして出魅は頭部を右へ移動させる。

 それとほぼ同時にバートリが引き金を引くのを視認した。

 火薬の爆発によって発射された銀色の弾丸は、その音速を超えた衝撃で廊下に巨大な音を響かせ、回転を加えながら標的に近づく。

 それが頭部に直撃すれば、出魅の脳は再生不可能なまでに破壊されるだろう。

 もちろんそうなれば出魅は死に至るので、高速接近する弾丸を体勢を崩しながらもぎりぎりの距離でかわす。

 頬と耳に擦過傷が得たが、なんとか弾丸を避ける。

 だが崩れた体勢は立て直す事ができず、勢いよく壁に直撃し、前方に進んでいた勢いで身体を地面と衝突させる。

 そのまま勢いで数メートル転がり、廊下の突き当たりにあったエレベーターの前で止まった。

「先ほど妾の事を何と言ったかな。口ほどにもないのはそなたの方であろう」

「そう張り合わずとも、一勝一敗としようじゃないか」

 両者ともに身体を起こし、再度体勢を立て直す。

 お互いの実力はほぼ互角。ただし、『無欠』という能力がある分出魅の方が幾分有利と言えるだろう。

 一対一の戦闘においてバートリの持つ『魅了』はほとんど役に立たないのだ。

「私の方が多少優勢だと思うのだが、降伏する気はないかね? バートリ・エルジェーべト君」

「何をふざけた事を。降伏など妾がすると思うか?」

「まさか理解できていないわけでもないだろう。私はどんなダメージでも瞬時に回復する。つまり先ほど壁にぶつかった時のものや床に転んだ時のもの、全てのダメージは残らない。一方で君はどんな小さなダメージであっても蓄積されるのだよ」

「それがどうした。確かにそなたの固有能力は厄介なものだ」

 ふと、そこで出魅はバートリが視線を逸らすのを確認する。

 その視線の先にあるのはエレベーターの階数表示。現在六階を示しており、一定の間隔で五階、四階と降りてくるのが横目でも確認できる。

「ただし妾の固有能力も厄介な物だと忘れてはいないかい?」

 そしてエレベーターの扉が開く。

 そこに乗っていたのは両者とも知った顔。

 数日前に日常から非日常へと連れ込まれた少年、葛葉清秋だった。

「なんだ、葛葉清秋君じゃないか」

 と、言ったところで出魅は気付く。

 バートリの能力は魅了。

 一葉はその能力を使って死体を操っていたが、生きた者は操れない。

 しかし純潔の吸血鬼であるバートリは違う。

 彼女は自らの血を混ぜた者なら生きた人間も操作できるのだ。

 そして清秋は白桃公園でホームレスの死体を発見した時にわずかだが血液を混ぜられている。

 つまり……

「さて、仲間同士で殺し合いでもして貰おうかね」

 清秋の眼が赤く怪しい光を放つ。

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