第十九話:最上階へ
出魅達が戦いを繰り広げている同時刻、清秋と杉山も五階のワンフロアで足止めをくらっていた。
最小限の戦闘でその場をやり過ごす予定であったが、予想以上に相手の動きが速く、さらに廊下の奥から新たな増援が現れて、進む事も戻る事もままならない状態に陥っていた。
「いつになったらこいつらはいなくなるんですか」
「正直言ってこの死体の群れを全員倒すのは不可能だろうね。人形を相手にしているようなものだ。恐らくホームレス達にプラスしてこの病院の霊安室にでも保管してある死体も利用したのだろう。あまりにも数が多すぎる」
いくら倒しても起き上がってくる。
テレビゲームや映画の中に出てくるゾンビなら頭を打ち抜くか数発の銃弾を撃ち込むことで倒す事ができるが、相手は吸血鬼の血液を流し込まれた死体。その血液を全て抜き取ってしまうか、操っている相手を倒してしまうかしない限り昨日を停止させることはできない。
しかし操っているであろう一葉は外で出魅と戦闘を繰り広げているし血液を全て抜き取れるような道具もない。
「じゃあどうすればいいんですか」
飛びかかってきた二体の死体に対して引き金を引く。銃口から銀メッキを施された金属製の弾が射出され、さらにそこに魔力を乗せることで速度と威力を増大。
少し湿ったような音を立てながら相手の胸の辺りに野球ボール大の穴を空ける。
しかし被弾した死体は衝撃で少し後ろに揺らいだだけで、直ぐに体勢を立て直してこちらに襲いかかろうとして来る。
「とりあえず相手の動きを封じるんだ。こいつらは再生能力はそこまで高くないらしい。足元を潰せば多少動きが鈍るだろう」
言いながら杉山は清秋の背後から接近していた二体の死体の足を打ち抜く。
被弾した死体は膝から下を失って地面に倒れたが、腕のみを使って清秋の方へ襲いかかろうとする。
確かに足を壊す事で相手の軌道力を奪う事ができるが、完全に動きを封じれる訳ではない。
胴よりも標的として小さく、動きの多い足を狙うのは銃を初めて使う清秋には難しい。動いている相手の場合は更に着弾率は落ちるだろう。
「クソッ、きりが無い」
相手は直線的に自分へ向かってくるだけ。ただしそれが全方位からとなると対応が難しい。
なんとか銃を乱射することで前方の敵は防ぐ事が出来るものの、ほとんどを杉山にフォローしてもらっている状態だ。
「清秋くん。あまり銃を撃ちすぎないようにしないと体力が持たないよ」
「そんな事言っても」
更に敵に向かって弾をばらまく。
清秋の使っている銃は魔力を持つ人間なら何発でも打つ事が出来る銃。霊銃ともいわれるその銃は使用者の魔力を内蔵された弾に乗せてその威力と速度を高める物だ。
その破壊力は核となる弾にも影響されるが、ほとんどが持ち主の魔力に比例して大きくなる。
魔力を自由に操れる者ならばその威力を変化させたり、軌道を変化させたりと様々なバリエーションを持たせる事ができるが、清秋には魔力をコントロール力もそんな知識もない。
銃にデフォルト設定されている魔力を手のひらから供給して弾を発射させているだけ。銃に使われていると言っても過言ではないだろう。
つまりその魔力供給は使用者の魔力が底をつくまで一定量で使い続けるだけ。魔力とは体力とほぼ同等の役割を担っているので、それをすべて使い切ってしまえば清秋は回復するまで動けなくなってしまう。
「君は吸血鬼の血液が入って多少の身体能力の向上が起きてる。視力、腕力、脚力、全てにおいて強化されてるんだ。落ち着いて対処すれば相手の攻撃をかわす事は容易にできるはず」
そう言うと杉山は懐から何やら取り出し清秋に渡す。
受け取ると両手にズシリとした金属の重みがかかる。
「特殊警棒だ。近接戦闘をするには銃よりもそちらの方が使い勝手がいいだろう」
「ありがとうございます」
一振り。伸縮式の武器を展開し数回軽く素振りをする。
バットや鉄パイプと言った物とは違い、戦闘用に作られたそれはややグリップよりに重心が設定されており、扱いやすくなっている。
しかしいつまでもそんな事をしていられない。先ほど胸を打ち抜いた死体に加えて更に別の者が数体加わり合計六体が全方位から襲いかかる。
清秋は現状では役に立たない銃をベルトに挟み込み。動きを観察する。
近接用の武器を手に入れたためか先ほどよりも落ち着きがあり、余裕を持って対応できた。
前方からの二体はダメージを受けているためか多少動きが遅い。右前方と左方から跳びかかってくる者は空中にいる為容易に動きを予想できる。
となると最初に相手にするべきは後方の二体。片方はナイフを持っている。
まずは体を捻り、警棒を一振り。その攻撃はナイフを持っている死体の腕にめり込み、武器を奪う。そして清秋はそのまま体勢を低くし、相手の足元をすくうように自らの右足を薙ぐ。
攻撃の直撃と共に嫌な音が聞こえ相手の骨が折れる感触が伝わった。不快感を感じながらも次の相手の対応をする。
空中から襲ってくる相手は容易。それ軌道がわかっているのだから相手の着地点にいなければ良い。それに今回は二体の着地点が同じである事がわかっている。
清秋は一歩下がって後方、先ほど前方にいた二体に向き直る。と同時に後方でグシャリと人体が勢いよくぶつかる音がした。
胸に穴のあいた死体はほぼゼロ距離まで近づいていた。
ここまでの動きが一瞬の間に行われ、相手も対処できずにそこで初めて攻撃を繰り出そうと腕を振り被る。
「遅い」
まるで自分以外の世界がスローモーションになってしまったかのような感覚。相手の早さに対して自分はいつも通りの早さで動ける。
清秋は警棒を持っていない左手の拳を握りしめ、全力で相手のこめかみに叩きこんだ。その強化された腕力によって一人目ではとどまらず、二人まとめて宙を舞った。
時間にして数秒にも満たない程の間に六体の死体を捌ききる。
「どうだい。落ち着いて戦えば簡単だろう。それほどまでに吸血鬼のポテンシャルは常人より高いんだよ」
言いながら杉山は清秋に渡した警棒よりも少し小ぶりのものを用いて同じように向かってくる敵を薙ぎ払う。
守るべき清秋のフォローを入れる必要が無くなったため、彼も順調に相手の数を減らす。
負けてはいられないと清秋も再度戦闘を開始する。
体が軽い。まるで頭の中に戦闘マニュアルでもインプットしたのではないかと考えてしまうほどに自分の体がその場に応じて最適の対応をし、敵を倒してゆく。
この調子だと敵を全て殲滅することも難しい事ではないんじゃないだろうか。
それほどまでに清秋と杉山の敵を倒す速度は増していた。
しかし異変は突然やってきた。
建物が地震に襲われたように大きく横揺れを起こし、窓からガラスを打ち破る勢いで暴風が吹きこんでくる。
「一体なんだ!?」
突然の戦闘妨害に清秋は叫ぶ。
突発的に起こったその揺れによってその場にいた全員が床に倒れ込み、暴風によって部屋中に巻き上げられ、数人は窓から外に放り出された。
その圧倒的な破壊を起こした原因は外。
出魅の力はは五階まで威力を落とすことなく蹂躙した。
その破壊を受けた五階フロアは惨劇。
辺りにはばらばらになった椅子や観葉植物、所々にもはや戦闘など出来ないであろう数体の死体が散らばっている。
その中で動きを見せるのは所々で動いている死体と治癒能力によって回復した清秋だけだった。
「くっそ。何が起きたんだ」
悪態をつくがそれに反応する者はおらず独り言に終わる。
周りを見回しても人の形をしているのは死体のみ。杉山の姿は見られなかった。
先ほどの暴風によってどこかに吹き飛ばされたのだろうか。
辺りに確認できないということは、粉々にでもなっていない限りどこかへ吹き飛ばされたのだろう。
少々心配ではあるが、清秋より圧倒的に経験を積んでいる。万が一外に放り出されていてもなんとか生き延びて入るだろう。
杉山がいなくなったが敵もほぼすべて戦闘不能状態。この機会を逃すのはもったいないだろうと思い、清秋は上階へ続く階段へと足を進めた。




