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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第十八話:傍若無人

 病院の玄関前、闇の中に金属音が響き渡っていた。

 出魅が振りかざすのはサバイバルナイフ。それを一葉は手にしているのは出魅の持つナイフよりもさらに小ぶりの刃物。西洋風な装飾を施されたダガーである。

 一見すると二人は互角の戦いをしているようだが、現在一葉が優勢にあった。

 普段なら視力を封じられただけでは出魅が押される事などあり得ない。

 しかし、それは出魅が吸血鬼という圧倒的アドバンテージがあるからで、

「やはり前嶌一葉、君は吸血鬼だな。しかも魅了の能力を有する種族、バートリの血か」

 出魅は数十メートルの距離を取って体勢を立て直す。

 バートリ。バートリ・エルジェーベドはハンガリー王国の貴族で『血の伯爵夫人』の異名を持つ。

 若い処女の血を絞りとり、その中に身を浸すといった行為は有名な話だ。

 吸血鬼のモデルになったとも言われているが実際は本物の吸血鬼、その能力は『魅了』。

「バートリ? 何それ。でも能力はあるわね。私の血液を入れた死体は全て私の思い通りに操る事が出来るわ」

「ほう、バートリの血を継いだ者なら生きていても操作できるのだが。ああ、劣化版と言う訳か。大方誰か別の者に血を注ぎこまれたのだろう。道理で同族にしては血の臭いが薄いはずだ」

「劣化版、ね。半吸血鬼の事を差別的にそう言う事に対して私は特に気にしないけど、唯の人間が半吸血鬼になったと思わない方がいいわよ」

 ドッ、という地面を蹴る音と同時に一葉の足元に敷かれた石畳が砕け、辺りに破片となって飛散する。

 それほどの脚力で地面を蹴ったのだから当然その力を生みだした本人は反作用により前方へと一気に加速する。数十メートル空いた間合いもコンマ一秒の内に体が密着する程近距離まで接近した。

 対する出魅はその動きを音と空気の流れで感じ取り、手にした武器で突き出すように向けられたダガーを受け流し、伸ばされた腕を軸にして少女を軽々と投げ飛ばしす。

 しかし宙を舞う一葉も投げられっぱなしではない。空中で体勢を立て直し手に持った短剣を出魅めがけて投擲。

 出魅はその短剣をいともたやすく叩き落とす。

 だが、出魅は背中に衝撃と激痛を覚えた。そこには先ほど叩き落としたはずの短剣が深々と突き刺さっているのだ。

 僅かながら出魅は動揺する。投げられたナイフは確実に叩き落としたはずであるし地面に落ちた事も音で気付いた。ではなぜ自分の背中に刃物が突き刺さっているのか。

「石畳か」

 始めに一葉がその脚力で砕いた石畳の破片。それは四方八方に飛び散ったもので、出魅もその事は気付いていた。

 一葉よりも動きが遅いそれが丁度今自分に到達することも完全に予測できる事実だがそんな小さな物がぶつかっても大してダメージにならないと思っていたし、万が一傷が出来る程のものであっても自身の再生力でその傷を修復出来るはずだった。

 しかし一葉はその飛散する石の中に自らの武器を紛れ込ませたのだ。

 もちろん石の破片と勘違いさせられる程の大きさなので小指の先ほどしかない小さなダガー。被弾してもさして威力はない。

「視力を失うと不便ね。ちなみに言っておくけど私の使っている武器は全て銀製。吸血鬼のあなたならそれがどういう意味かわかるわよね」

 銀の弾丸。

 今回一葉が用いたのは弾丸ではないが、狼男や悪魔に聞く武器として多々使用される金属である。

 古来はその白色に輝く性質から神聖なものとして退魔の能力を持つとされていたが、近年解明された事実によると銀と言う金属が怪物の体液に溶け込むことでその活発な生態機能を低下させ、その再生力や生命力を封じることができるらしい。

 つまり今出魅が受けた傷はすぐに再生出来ずにダメージが蓄積されると言う事である。

「ほう、なかなか考えたじゃないか。しかし手品の種明かしをしてしまってはどうにもできないのではないかい?」

「はんっ、どうせ種明かしなんかしなくてもあなたは気付いていたでしょう。あなたが説明する手間を私が省いてあげただけよ」

「それはありがたいことだね。しかし眼が見えない私の前でそんなにぺちゃくちゃとおしゃべりをするのはいただけないね。それだと狙ってくれと言っているようなものだよ」

 背中の痛みなど気にせずにシニカルな笑みを浮かべる出魅が次は先制攻撃を仕掛ける。それは先ほどの攻防と全く逆の状態。

 一葉の懐に飛び込んだ出魅はサバイバルナイフの切っ先を一葉にの胸へ向ける。

 それを相手のモーションから予想していた一葉は体勢を低くする事でその攻撃を避けた。

 もちろん出魅の攻撃がそこで終わる事もなく、前方に突き出したナイフを一気に下方向へ振り下ろす。

 そこにあるのは一葉の頭。直撃すれば一葉は左右に真っ二つになっていただろう。

 最小限の動きで避け、手近にあった花壇のプランターを手に空に向かって飛び上がる。

 本来なら戦闘中に自ら飛び上がるなど自殺行為。身動きの取れない空中で格好の標的にされ、さらに着地地点で待ちうけられて不利になる。

 しかしわざわざそんなリスクを冒すのには理由があった。

 まず相手の視力が完全に失われていること。

 いくら空気の流れで相手の位置を感じる事ができたとしても完全に正確な位置を特定して武器を手放してまで投げてくると言う事もないだろうと判断したからだ。

 そしてもう一つは着地時のリスクについて。

 このリスクを失くすためにプランターを持っているのだ。

 自分の手にある容器の中いっぱいに入った土や花。それらを空中めがけて全てぶちまける。

 宙に放り出された土は地球の重力により自然落下を始める。その細かな粒子は様々な大きさとなり出魅へと降り注ぐ。

 もちろんそれらに威力はなく、相手の視界を奪うほどの効果しかないし、視力を失っている出魅にはその役割すら果たせない。

 しかし出魅からしたらたまったものではない。なにせ先ほどの事がある。

 この中のどれがフェイクである土の塊で、どれが自分に傷を負わせる凶器なのか分からないのだ。だからと言ってそれらすべてを払い落すには数が多すぎる。

 そこで出魅は力任せに制服の上着を脱いだ。指定のブレザーに縫いつけられたボタンが飛ぶ。そのまま丁度襟の部分を握りしめ、思い切り振り回した。

 ブゥン、とまるで大木でも振り回したようみ巨大な風を切る音が響く。

 その勢いによって制服はぼろ雑巾よりも酷い状態にまで引き裂かれてしまったが、その風圧は上空から落下する土やナイフは粗方吹き飛ばした。

 ニヤリと白い歯をむき出しにして上方の一葉がいる場所を探す。

「さて、反撃とさせてもらおうか」

 目が見えず、正確な位置を把握できないといっても先ほど一葉が飛びあがった地点と風を切る音、さらには相手の息使いなどで場所を特定できる。

 もちろんそれを行うには多少の時間を要するため、先ほどのように相手が何をしてくるか分からず、とっさの判断が必要とされる場合は難しい。

 しかし今回は時間的にも余裕がある。先ほどプランターを手放した一葉に残された攻撃手段はナイフのみ。

 そう判断した出魅は一葉の場所を探す。これまでの戦闘で荒くなった一葉の呼吸音はすぐに感知する事が出来た。

 自分の真上よりやや右寄りに約三メートルから四メートルといったところだろうか。

 相手の位置を補足した出魅は足に思い切り力をため、それを一瞬にして全て地面に放出する。

 巨大な力は石畳を砕き、石畳の基盤となっているコンクリートをも破壊して二つの小さなクレーターを作った。

 出魅はその反発力を受けてまるで弾丸、いや砲弾のように一葉めがけて突進する。

「クソッ」

 向かってくる相手に一葉は忍ばせていた数本のダガーを投げつける。

 しかしそれが無意味な行為である事は一葉にはわかっていた。

 ナイフを投擲すると言う事は一度その武器は相手の手を離れること、つまり放った後は何が起きても持ち主の意思による介入は出来ないわけである。

 つまりその投げられた物体の発射地点と速度さえ把握できればたやすい。

 もちろん全ての飛び道具を防げると言う訳ではなく、本人の力量次第といったところだろう。

 その発射された速度に対応するだけの反射神経、弾き飛ばす程の力が必要である。例えるなら野球の球と弾丸を比べるとわかりやすい。前者はバットで打つ事ができるが、後者は当てるどころか目視する事も難しいだろう。

 案の定出魅はいともたやすくそれらの凶器を自らのサバイバルナイフで叩き落とした。

 しかも防ぐのみならず、そのうちの数本を受け止めて一葉に向かって投げ返す。

 もちろんそんなものは先ほどの出魅と同様に弾くのはたやすい。

 しかしそのナイフ群を叩き落とすと同時に出魅が一葉に着弾する。地面を蹴った力は十分に残っており、一葉の腹部に強烈なタックルがめり込む。

「かっ、は……」

「どうしたんだいそんな大口を開けて。狙ってくれと言っているようなものじゃないか」

 衝突する事で上への勢いを失った出魅はそのまま空中で一葉の上に馬乗りするような姿勢になる。

 そして強烈な一撃を受けて抵抗する余地のない一葉の口に向かって思い切りサバイバルナイフの刃を突っ込む。

 その鋭利な刃物は標的の口内に勢いよく飛び込み、喉の奥を突き破ってその脳髄まで貫通させる……、はずだった。

 相手が人間や半吸血鬼、また純潔の吸血鬼であったとしても出魅の腕力の前では防ぐ事も出来なかっただろう。

 しかし一葉の口元につきつけられたナイフはわずかな金属音と共に完全に動きを止めた。まるで真剣白刃取りのように一葉の白い歯によって上下に挟みこまれているのだ。

 一葉はにやりと口元を吊りあげると、自分に向けられた金属に向かってさらに力を加える。

 パキンッ、と音が鳴ったかと思うと出魅の武器はいとも簡単にその原型を崩し、思惑とは違った形で一葉の口内へと吸い込まれていった。

 武器だけではない、その鉄をも破壊する(きょうき)はナイフを持つ出魅の右手、さらには腕までも這い上る。

「くっ」

 なんとかその浸食を阻止した頃には、すでに手首の少し上まで食いちぎられていた。

 そして密着した体を離し、両者は数メートルの距離を取って着地する。

「油断したわね清水出魅。確かに総合的な能力は食屍鬼よりも吸血鬼の方が高いかもしれない。でも食屍鬼の顎の強さを侮ったらだめよ」

 屍を食する鬼。確かに食屍鬼は人の死体を食べる事もある。

 しかしそれは人肉嗜食(カニバリズム)に目覚めた一部の者だけで、実際は人肉に限らずどんなものでも食する事ができ、それは無機物であっても同様。

 それゆえに鉄をも破壊する程の強靭な歯と顎を備えているのだ。

 その力の前では人肉などゼリーを食べる事と等しく、金属でできたナイフなどせいぜいせんべいほどの固さにしか感じない。

「しかも食屍鬼と吸血鬼の能力を持つ私は劣化版というよりもむしろハイブリッド種。あなたより優れていると考えるべきね」

 口の中でバリバリと音を立てながら骨、肉、金属、全てを平等に噛み砕き、咀嚼する。

 対する出魅は片腕を持っていかれ、無残に引き裂かれた傷口からはどろりとした血液が溢れ出している。しかし

「確かに君は少しばかり私より上手らしい。視力があったとしても吸血鬼の能力だけでは君に勝つのは難しかったかもしれないね」

 出魅は血の滴る右腕を目の前にさしだす。

 そう、先ほどまで溢れだしていた血液は滴る程に減少していた。もちろんその変化はそこでは止まらず、流血が完全に止まった傷口はみるみる内にふさがり、まるで植物の成長を早送りで見ているように腕が元の状態まで再生した。

「ちょっとまって、ありえない。昼間も思ったけどいくら吸血鬼の再生力が高いと言ってもあれだけの傷を負ってそれを一瞬で再生する事は出来ないはずよ」

「おや、これを手品か何かだと思っているのかい? しかし君の先ほど食したのが間違いなく私の手首だったということは前嶌一葉君、君が一番よく分かっているはずだが」

 驚異的な再生力。昼間に致命傷を一瞬にして治してしまったこの能力は全ての吸血鬼が持っているわけではない。

 もちろん普通の吸血鬼でもちょっとやそっとの怪我で致命傷となる事は無い。

 しかしその能力は人間よりも高い生命力を有するが故であり、例えば心臓を打ち抜かれたりといった致命傷を受けた場合は死に至る。

 ではなぜ出魅はこれほどまでの再生力を有しているのか。

「これぞツェペシュの血族が持つ能力、『無欠』。全ての外的要因による組織の欠落を瞬時に修復する事ができるのだよ」

 もちろんその能力はいくつかの方法で防ぐ事が出来る。

 始めに出魅の視力を奪った紫外線による攻撃や、銀製の武器による傷を受けた場合はその回復能力は一般人レベルまで引き下げられる。

「だが、いくら傷を受けないからといってもこのまま戦いを長引かせるのは得策ではないな。もともと葛葉清秋君を病院内に入れたところで私の役目は終わっているのだから」

「ふん、さっき視力があっても私に敵わないと言ったんじゃないの? 今の台詞だと戦いを終わらせられるみたいな口ぶりだったじゃない」

 出魅の説明で納得したのか、それとも強がっているだけなのか一葉は余裕のある口調で出魅を見下す。

「ああ、そうだよ。『吸血鬼の能力だけ』では勝つ事が出来ないというだけだ。だがもしも自由自在(コントローラー)を使う事ができたら」

「うそ、自由自在(コントローラー)は視認したものを操る能力のはず。まさか視力が元に戻ったって言うの?」

「いやいや、生憎視力は全く回復していないよ。そうだね、確かに視力が無い時にこの能力を使うと自由自在に物体を操作する事はできない。正確な空間把握をできないから上手く操作出来ないのだよ。暴走した能力は周りを巻き込んで予測不能の破壊を起こす。だから私はこの能力をこう呼んでいるよ」

 言いながら出魅は両手を前方に伸ばし、力を込めてその能力を発動する。


傍若無人(アンコントローラブル)!!」


 途端ににその場を巨大な揺れと暴風による圧倒的な破壊が巻き起こった。

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