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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第十七話:戦闘開始

 清秋達が突入した後を追って多くの屍が病院の玄関に殺到する。

 しかし一人として病棟内に足を踏み入れる事が出来る者はいなかった。なぜならばそこには大きな障害があるからだ。

「彼らの邪魔をしないでくれたまえ」

 まるで子供をなだめるかのように穏やかな口調で、しかし一方でその体は一般人では視認できない程の運動をしている。

 向かってくる敵をまるで巨大な壁が存在しているかのように撥ね返している。

「なんだ、視界を封じたと思ったのに……。その様子だと全然堪えてないみたいね」

 そんな出魅に放たれる闇からの声は聞いただけで凍てついてしまいそうな冷たい声。その声は出魅は一度聞いた事があり、二葉にとっては昔から慣れ親しんだ声。

 前嶌一葉が闇の中から姿を表す。

「いいや、先ほどのUVバンは効いているよ。その証拠に私の視界は『夜にもかかわらず』真っ暗だからね。血液を摂取していない吸血鬼には紫外光は有効だ。幸い私は昼間に飲んだ葛葉清秋君の血液が微量だけ残っていたものの、網膜にはダメージを与えられたらしくて全く見えない状態だよ。」

「それはよかった。苦労して手に入れた甲斐があったわ。でも見た感じではそこまで苦労していないみたいだけど?」

「しているさ。私の能力は『視認したものを自由に操作できる』だから、今みたいに視界を完全に封じられたら便利な能力も完全に使えなくなってしまう」

 出魅の使う自由自在(コントローラー)は視認したものは何でも操れる実に協力な能力だが、その反面で視界を封じられたり、空気の流れなどといった見えないものに対しては全く効果を発揮しない。先ほど清秋達を襲う者達を抑えつけていた力が無くなったのもUVバンによる網膜破壊で視界を失ったからである。

「それに肉弾戦も結構苦労するのだよ。目が見えないものだから臭いと音、あとは肌の全神経を使って空気の微妙な動きを感じ取らないといけないのだからね」

 しかし視界を奪われたからといっても戦闘面では常人よりはるかに上をいく。

 吸血鬼の嗅覚、聴覚、触角、全ての感覚器官は人間よりも、いや、この世の生物で一番と言って良いほどのスペックを有しており、半径十数メートル以内なら物や人の一をほぼ完璧に把握する事ができる。

「そこまでの力を持っていれば一人で突入しても問題は無かったんじゃない?」

「そうだね、確かに私の力があれば単身で乗り込んで前嶌源二を取り押さえてもお釣りが出るくらいだ」

 思ってもいない言葉にずっと話を聞いていた二葉は絶句する。では先ほど決死の覚悟で乗り込んでいった少年は何だったのか。

 中に入れば安心と言う訳ではない。むしろ敵の本拠地なのだから危険はこの場よりも大きくなるだろう。

「じゃあ何で清秋さんを……」

「前嶌二葉君。君は自分が主人公だと思った事があるかい?」

 二葉の質問を遮って質問を覆い被せてくる。しかし、答えを待たずに出魅は続けた。

「人は自分の人生の中では主人公だ。それは人によって様々なジャンルの物語の主人公になる。人一倍喧嘩をする者は学園不良もの、スポーツが得意な者はスポ根、霊感があるものは怪談の主人公になるかもしれない。特に起伏の無い人生を過ごす者でさえ新聞に載っている日常系の四コマ漫画の主人公になるかもしれない」

 喋りながらも襲ってくる敵を軽々と撥ね返しては地面に叩きつける。その表情は一片の疲労もなく、むしろ生き生きしている程だ。

「しかし葛葉清秋君のようなパターンは珍しい。彼には力がある、そして才能も恐らくある。ついでに付け加えると彼の物語は今始まったばかりで、まだ起承転結の中でも『起』の序盤でしかない。この意味がどういう事か解るかい?」

 質問に対して回答はない。一人は全く答えが思いつかず、もう一方は特に答える気もない。

「物語の主人公というのは困難に立ち向かうほどにその力を発揮して強くなる。窮地に立たされた主人公が隠れた力に目覚めるというのは物語の鉄則だろう? 葛葉清秋君は英雄になりうる資質を持っている。それはゆっくりと育てていかなくてはいけないのだよ」

「そんな鉄則が現実世界で通用するかしら」

 一葉は同意できないという意思を示す。しかしその言葉は議論をしようというものではなくただの戯れ。別に今すぐにでも戦闘を仕掛けてもよいのだ。

「私は君達の何十、いや何百倍といった君達では想像が出来ないほど長い人生を過ごしているのだよ。その中で人の人生をいくつも見てきた、もちろん自分自身もね。」

「へえ、じゃああなたはなぜ主人公らしく堂々と単身で乗り込んでいかなかったの?」

「ふんっ、それはナンセンスな考えだよ前嶌一葉君。先ほども言ったと思うがこの世に生きている時点で全員が主人公なんだ。主人公が全員主人公の役割を果たし続けていたら物語にならないだろう? 時には脇役に、時にはライバルになる事によってこの世界は成り立っている。しかし本人達は各自で重要な役割をしていて、彼ら自身は各々の物語の主人公を演じているのだよ」

 すでに出魅に襲いかかる者は始めの十分の一程度にまで数を減らしていた。

 早々にやられた者はしばらくすれば復活するものの、回復のスピードよりも出魅による破壊のスピードの方が圧倒的に速い。あと数分もしない内に全員がやられてしまうだろう。

「つまり今回は葛葉清秋君から見れば私は脇役、君は悪役の手下、前嶌二葉君はヒロインと言ったところかな。だがこの場、この時は……」

 そこで出魅は言葉を切って残り少ない目の前の敵を一気に吹き飛ばした。

 そして背筋を伸ばして胸を張り、腕をしっかりと組んで視力を失ったはずの両眼で一葉の方を真っすぐと見据える。

「私が主人公だ!!」

 威風堂々と、泰然自若に、凛々しくも、悠然とした、まさに主人公(ヒーロー)と誰もが異を唱えられないような立ち姿だった。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 ロビーに侵入した清秋達は出魅に言われた通りに階段を使って最上階にある院長室に向かっていた。

 周りは非常扉を示す緑色の照明と最低限小さな灯りが点いているだけで、一般人だと走るのが不安になる程の明るさだったが、清秋の視界はくっきりとした、昼間の明るい中を歩く時とはまた違った景色がクリアに広がっていた。

 杉山も杉山で、サングラスのようなゴーグル――本人曰く魔力を使った暗視ゴーグルのような物らしい――を装着していたので障害物で躓くと言った事は無い、と言っても障害物など置いていないのだが。

「ところで杉山さんって出魅さんとはどういう関係なんですか?」

 侵入直後はいつ敵が襲いかかってくるものかと警戒していた清秋だが、二階に到着した今でもそういった気配は微塵も感じられないので張りつめていた気分も少し緩み、杉山に抱いていた疑問を投げかけてみた。

「どういうって言われると困るんだけど、唯の知り合いかな」

 ありきたりな回答が返ってくる。

 清秋自身も特に複雑な関係を期待していたわけではない。

「と言っても始めに知り合ったのは昼の方の出美さんなんが先なんだけどね。その時はまだ僕も新米、って言っても今もそんなにベテランって訳じゃないけど。その頃に捜査していた事件でね」

「出美さんが何か事件に巻き込まれていたとか?」

「違う違う、彼女はただ怪事件を探していたらしくてね。たまたま僕が立入禁止になってる事件現場でいたところに彼女が現れたんだよ」

 その時の事を思い出しているのか杉山は苦笑交じりに話す。

 出美は大方今回のように変わった事件をさがしていて、一人で捜査をしていたのだろう。

「その後も事件が起きる度に彼女に会うんだ。あの時からよく鼻の効く子だなと思ってたよ。小学生か中学生ぐらいの子が事件の度に、しかも非科学現象捜査課の担当する事件のみ絡んでくるんだから。後から考えると深層心理で出魅さんとつながっていたんだろう」

 恐らく夜は夜で出魅がその事件についての捜査をしていたのだろう。というか今でこそ先輩だからあの話し方や態度を許容できるものの、年下の小学生や中学生があの状態なのはすごく違和感があるだろう。

「というか丸っきり今回の事件と展開が似てますね」

「うん、というかいつもこんな感じなんだ。彼女の関わる事件と言うのはいつも厄介な事が多い。僕達では解決できないようなものや誰も不自然に思わないような事件、そういった時にいつも彼女が現れるんだ。だから僕達の中では『清水出魅には関わるな』っていう言葉が口癖みたいに言われてるよ」

 なるほど、家に刑事が訪問してきた時に山口という刑事が言っていたのはそう言う事だったのか、と清秋は心の中で一人得心する。

「まあその時も僕がろくな目に遭わなかったんだけど」

「何かあったんですか?」

「その時の事件も吸血鬼がらみでね。僕はその被害者になって相手の吸血鬼に殺されそうになったところを彼女に助けられたんだ。今みたいに彼女に協力しているのもその時の借りがあるからかな。こうやって直接彼女と協力するような事はその時以来ほとんどなかったけど、警察しか知る事の出来ない情報を提供したり、昼の彼女の身の安全を守ったりとかはずっとしてるよ」

 ということは出魅が少なくとも中学生のころからずっとこういったことを続けているのだろう。今回の件で出美にも出魅にも振り回されている清秋にとっては、こう言う事を何年も続ける事を想像すると気の遠くなる事だ。

 その点で杉山の忍耐力には恐れ入る。悪く言えば年下の女性の言われるがままに振り回されているのだ。命を助けられた事によってあこがれのような物もあったのだろうか。

「さてと、昔話もこれぐらいにしようか」

 そう言うと杉山は立ち止る。丁度五階の階段を上ったところだ。

 そこで階段は途切れており、廊下の反対側まで行かないと上階に到達することはできない。

 しかし廊下が一直線になっている訳ではなく、階段をの踊り場から進むとそこは一階のロビーのように開けた場所になっている。診察の結果などを待つところなのだろうか、病院にあまり縁がない清秋には想像できないところだ。

 ただ、その広場が何に使われているとか言う事はどうでもよかった。

 問題はそこにいる多くの影、恐らく玄関前と同じような見張りなのだろう、ゆらゆらとした動きの影が十余人程徘徊している。

「どうするんですか?」

「あれだけの人数だと気付かれずに通り抜けるのは難しい」

 杉山はスーツの中から黒い銃を取り出し、外国の映画で良く見るようにグリップを両手で握り、銃口を上向きにして構える。それを見て清秋も銀色に光る銃を取り出し、見よう見まねで構えた。

「一気に走り抜ける!」

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