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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第十六話:侵入作戦

 杉山の車に揺られること約三十分、清秋達は前嶌医院に到着した。

 病院に面した路上に車を停めて病院の正面に向かうと、そこでは出魅が「遅かったじゃないか」と言いたげな表情で視線をちらりとよこした。

「先に到着してたなら入ってればよかったじゃないですか」

「何を言っている葛葉清秋君。そんな事ができたらとっくにやっているし、もともと君達が到着した時にはすでに仕事を終わらせている予定だったのだよ」

 そう言うと出魅は視線を病院の正面玄関に向けた。

 前嶌医院は二葉の父親である前嶌源二が院長を勤める病院である。

 名前だけ聞くと個人経営の町医者を想像させる名前だが、この地域で一番大きい施設を有する総合病院だ。

 病棟は診察や怪我の治療などを行う一般病棟、入院患者がいる入院病棟の大きく分けて二つに区分けされており、上空から見ると渡り廊下を加えてエの字型の建物になっている。

 その正面玄関は道路から数十メートル先にあり、大きく開けた広場になっている。さらにその玄関は一般病棟に繋がっており、夜は人がほとんど入院病棟へ行ってしまうのか、光が漏れているまどはほんの数えるほどである。

「あっ」

 そこで清秋は気付いた。正面玄関の周りを取り囲むように多くの影が徘徊している。まるで墓からはい出してきたゾンビのようにゆっくりとした動きで無造作に数十の影があった。

「どうやら見張りがいるらしい。私だけで突入しても問題ないのだが、あれだけの人数となるとさすがに時間がかかってしまって前嶌医師に逃げられてしまうかもしれないので、君たちを待たせてもらったよ。二手に別れて侵入しようじゃないか」

 出魅はいつものように何かをたくらんでいるのではと思わせるシニカルな笑みを浮かべている。

「ふたてに別れるってことは僕と二葉ちゃんが外の見張りを担当ですか?」

「馬鹿か君は。あれだけの相手を食屍鬼である前嶌二葉君はともかくとして君が相手をできるわけないだろう。一呼吸する前に肉塊へ変えられてしまうのがオチだ」

 確かに出魅の言う通りである。戦闘などしたことがない清秋があれだけの人数――しかも恐らく彼らは一般の人ではないだろう――を相手取ることができるはずないと自分でもわかっている。

 となると侵入して前嶌源二を捕まえるのは誰なのだろうか。

 常識で考えると今回の事件の指揮官的役割を担っている出魅と警察である杉山が前嶌源二の身柄確保を行うのが適当だろう。

 しかし先程出魅が言っていたような戦闘面では恐らく出魅が断トツで一番、杉山の実力については清秋にはわからないが、こういった事件を担当しているなら人外の生物との戦闘も慣れているはずだ。そうなると先程考えていた配置とは逆に出魅、杉山ペアがこの場を引き受けることになる。

「私と前嶌二葉君がここを引き受ける。葛葉清秋君と杉山浩太君は隙を見て病院内に侵入して、前嶌源二を確保してくれたまえ」

「ちょっと待ってください。さっきの話だと戦闘力の高い二人が残る方がいいんじゃないですか?」

「ほう、どうやら勘違いしているらしいな。人を見た目で判断してはいけないよ。杉山浩太君と前嶌二葉君を比べると、圧倒的に前嶌二葉君の方が強い。一般人と食屍鬼の力の差はそれほど圧倒的なものなんだよ。それに……」

 すると出魅は少し小声になって清秋に耳打ちをするようにして

「自分の父親を確保なんてどんな人でも好んでしたいとは思わないだろう?」

 一言言うとすぐに出魅は元の姿勢に戻って腕を組み、話を続けた。

「そういうわけで私達はこの見張りを引きつけておくから君達は隙を見て突入するんだ」

「入ってからの行動はどうすればいいんですか?」

「良い質問だね、杉山浩太君。それを今から言おうと思っていたんだよ。まずこれを見てくれ」

 出美は制服の胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。

 何重にも畳まれていたらしく、広げるとポケットサイズの紙切れが少し大きめのノートサイズになった。

 開かれた紙に書かれていたのは建物の間取り図。現状から考えるとこの病院のものと考えるのが妥当だろう。

「今私達がいる玄関前がこのあたり」

 そう言うとどこからとりだしたのか、黒いペンで玄関を示す記号の下にある余白スペースにバツ印を付ける。

 そして次は赤ペンに持ち替えて黒で書いた周りに数個のバツを描いて行った。

「そして玄関の周りには見張りが多くいる。これは私と前嶌二葉が相手をしてなんとか玄関への道を作る。君達は隙をついて突入してくれ」

「その後の行動は?」

「玄関に入ると待合室として開けた場所になっている。君も一時的だが入院していたから分かっているだろう? 院長の部屋はこの一般病棟の最上階、七階の一番端に位置している。エレベーターを使えばすぐに着くが、控えた方がいいだろう。ドアが開いた時に待ち伏せされていたら逃げられなくなる。階段で向かってくれ」

 出魅は蛍光ペンで各階の階段がある位置を塗りつぶす。

 階段は玄関を入って左奥、そのまま上階に向かい、五階で一度廊下に出てから廊下の反対側に向かわないといけないらしい。

「院長室に到着したら前嶌源二を確保。それが完了したら私に連絡をくれ」

「わかりました」

「あと、何かがあったとしても騒ぎは起こさないように。万が一前嶌源二以外の医師や看護師が残っていたら面倒なことになる。あと、懐中電灯などの灯りは使わないように」

「それだと視界が悪くなるんじゃ」

 いくら見つからないようにするといっても灯りもなしに照明の消えた建物の中に入るのは無謀というものだろう。万が一敵に襲われた場合、敵味方の区別がつかなくなってしまう。

「暗闇で電灯を持っていたら自分の一を知らせているようなものではないか。視界の方は心配いらない。君は一度ヴァンピールに襲われただろう?」

「……!」

 清秋は気付いた。確か出魅と初めて会った時の説明で自分が吸血鬼になってしまうということを聞かされた。

 しかしそれはあの時の吸血鬼化を止める薬を打たれたはずだ。

「葛葉清秋君、君に打った吸血鬼化拮抗剤は君の吸血鬼化を遅らせるだけであって、決して吸血鬼化を阻止する訳じゃないのだよ。長引かせて三日、恐らく明日の夜中には君は吸血鬼になってしまうだろうね」

「そんな……」

「まあ心配しなくても大丈夫だ。吸血鬼の血液はその親、つまりもともとの持ち主の指示には従う。今回の事件を解決すれば君の吸血鬼化を止める事もできるだろう。それに吸血鬼化途中は良い事もあるんだ。少し紫外線に弱くなるものの、一時的に吸血鬼の能力を使う事が出来る。正確に言うと常人以上の治癒力と夜目が利く事、その他身体能力の強化、爪や歯が鋭くなる。それだけあれば照明の無い建物内で敵に襲われたとしても問題ないだろう」

「でもそれは相手が人間だった場合でしょう」

 確かにそれだけの能力があれば襲われたとしても大丈夫だろう。

 しかしそれは襲う相手が一般の人間である事が前提で、もしも吸血鬼、もしくはそれと同等の力を持つ者であった場合、清秋の得た能力は微塵もアドバンテージにならない。むしろ戦闘の経験のない清秋は相手より劣ってしまうだろう。いままでスニーカーでサッカーをしていたのをスパイクに履き替えても、相手がプロでは勝てるはずがないのと同じである。

「不安ならこの前渡した銃もある。飛び道具があれば少しは安心するだろう? だがあまり多用するなよ。あの銃は魔力をエネルギー源にしているから、不安定な君の魔力だと暴発するという可能性もある」

「まあ危ない時は僕もフォローするから大丈夫だよ」

 横から杉山が胸を張る。

 というか実際はフォローはこちらの仕事で、立場敵にも経験的にも杉山が先導してくれるのではないだろうか。

 襲われる事を想定していないのか、杉山自身もそれほど経験がないのか清秋は少し不安に駆られる。それとも先ほど出魅が行っていたように吸血鬼と一般人との実力差もそれほど大きなものなのかもしれない。

「さて、話している内にこんな時間だ」

 時計を確認するとすでに短針は十二の値を過ぎており、日付が変更されていた。

「言っておくが玄関までの道を空けるのは一瞬だ。あれだけの人数を抑えるのは、いくら私でも難しいのでね」

 出魅は両手を前に突き出す。その先にあるのは一般病棟の玄関、そしてそれを取り囲むように立っている数十の黒い影。明らかにそこは厳重に固められていることは見てとれた。

「三、二、一でこじ開ける。いくぞ、三」

 出美が両手に力を込めるのがわかった。

「二」

 清秋と杉山は両足に力を込めて目的地、病棟の玄関を真っすぐ見据える。

「一!!」

 

 ズン!


 という音が清秋の耳に響く。前方に眼を向けていた清秋にはそれが何の音なのかすぐに分かった。

 人垣が一気に割れる音。

 出魅は言葉通りに両手で道を『こじ開けた』。

 強大な力によって左右に分かたれた道はまるで神話に登場する海を割って造られた道の様だ。

「早くしろ! 長くは持たん!!」

 目の前の光景に呆然としていた清秋はその言葉で我に帰り、両足に込めた力を一気に解放する。

 その瞬間に自分の目線が一気に数メートル前方に移動した。地面を蹴る力は自分の予想をはるかに強く、反動で転びそうになる体をなんとか制御する。

 これが吸血鬼の運動能力というものだろうか。気付けば玄関までの道のりの半分を迎えていた。

 左右を見ると、生きた屍のような人々が自分に向かって襲いかかろうと必死に両腕を前方に突き出している。しかしそれは見えない力、出魅の自由自在(コントローラー)によって堰き止められ、清秋と杉山に届く事はない。

 しかしもうすぐ玄関にたどり着くという時、崩壊は突然起こった。

 引き金は一瞬の光。それは閃光弾のように強力な光ではなくカメラのフラッシュのような弱い光。

 にもかかわらず、清秋は眼の奥が強烈に熱くなるのを感じた。動けなくなるほどの痛みという訳ではなかったが、炎であぶられたようなヒリヒリとした痛み。

「止まるな走れ!!」

 後方から出魅の叫び声が聞こえる。その声はいつも冷静な声を発している出魅からは考えられない切羽詰まった声だった。

 それもそのはず、左右に割れていた人垣が崩れ、次々と清秋達めがけて襲いかかってくるではないか。出魅が押さえていたにもかかわらずなぜそう言った事態に陥ったのかは分からないが、まずはこの怪物達から逃げるのが最優先だ。清秋は傍らで怯んでいる杉山を担ぐようにして一気に玄関へと走る。

 これも吸血鬼の身体能力向上のおかげなのか、杉山を肩に乗せた状態でも常人よりはるかに速く走れる事が出来た。

 しかしそれでも左右から伸ばされる魔の手を全て避ける事はできない。襲いかかってくる数体を空いた片手で思い切り殴りつける。

 すると予想以上の威力で清秋の拳は相手の体に突き刺さり、そのまま数本の骨が折れる音とともに吹き飛ばされた。

 そうしてなんとか玄関にたどり着くが、診療時間の過ぎている自動ドアはもちろん開くはずがない。この状況でまだ一般人の思考が残っているのか清秋は一瞬躊躇するが、目の前の扉は銃声と共に突然砕け散った。

 横に降ろした杉山が発砲したのだ。

「こういう時は頭で考えるんじゃない! といってもこう言う事は慣れてないから普通の反応だけどね。さあ行くよ」

「はい」

 後ろからは後続する屍達が清秋達を追いかけてきている。それらを振り返らずに、砕かれたガラス片を踏みつぶしながら、二人は闇に満たされた病棟の中へ足を踏み入れた。

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