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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第十四話:作戦会議

「この地図って」

「そうだ。君の知っている通りこの地図は最近この街の行方不明が出た場所に印をつけてある」

 それは知っている。

 先ほどまで持っていたのは出美であり、人格が入れ替わっても体が入れ替わりでもしない限り出魅がこれを持っていても何らおかしい事はない。

 問題はなぜこの地図の印の意味を知っているかだ。

 出魅と出美は記憶を共有していないということだったので出美が日中に捜査をしているという事を出魅が知っている訳がないのである。

「何を不思議そうな顔をしているんだい葛葉清秋君。私がこの印の意味を知っている理由は簡単なものだよ」

 紅茶を啜りながらまるで清秋の心を読んだように得意げな笑みを浮かべた。

「私もこの件については気になっていた。つまり大体の事件が起きた場所は把握していたのだよ。だからこの地図を広げた瞬間にこれが行方不明者が出た場所だと気付いた。ほら簡単なことだろう?」

 という事はこの先輩は何も分からずこの地図を広げてそれを一瞬で何であるか判断したのだろうか。

 そんなアドリブを自信満々に言う事など普通できないだろう。

「で、この地図が何なんですか?」

「ん? そうだねそれについて説明する前に……そろそろ時間のようだ」

 そう言うと出魅は壁に掛けられたアナログ時計に視線を向けた。

 釣られて清秋も時計を見る。時間は六時丁度、と確認したと同時に学校のチャイムが部屋中に響いた。

 出魅の人格の入れ替わり、吸血鬼化を知らせる鐘の音はまるでこの部屋の壁がすべて反響板になっているのではないかと思える程大音量で、鳴り終わっても余韻が残った。

 そしてその残響が無くなったと同時に

 コン、コン、と軽くドアがノックされた。

 こんな時間に訪問者だろうか? いや、しかしすでに先ほどのチャイムが下校時刻を知らせる者である。一般の生徒はこんな部室に寄り道などしている暇は無いだろう。まさか教師や風紀委員などが遅くまで残っている自分達を早々に帰らせるために見回りでもしているのだろうか。

「ああ、鍵はかかっていないから入って来たまえ」

 しかし出魅は誰が来たのか事前に知っているらしく、客人を部室に招き入れる。

「失礼します」

 まず声だけが少しだけ開かれたドアの隙間から入室し、次に足、そして全身が順番に部室の中に入ってくる。

「まったく、君はいつも遅くもなく早くもない到着だね。女性と待ち合わせをする時は最低でも十五分は速く着て置きたまえ。といっても十五分前でも私は着いているんだが」

「時間厳守が僕のモットーですから。一応次からは気を付けるようにします」

「そんな事をいって、どうせ次も秒単位で正確に到着するのだろう。まあずっと立っているのも疲れるだろうから座りたまえよ。杉山浩太君」

 ドアの向こうから現れ、出魅とやり取りをしたのは清秋も一度見た事のある顔。昨日家を訪れた山田という刑事と共に行動していた男だったはずだ。

 そんな男がなぜこんなところでいるのだろうか。

「やあ清秋君。君と会うのは二回目だね。あの時は全然話を出来なかったけど改めてよろしく」

 ピシッとしたグレーのスーツを着た杉山は切れ長の目を細め、人の良さそうな笑みで丁寧にお辞儀する。その一連の動作や自信に満ちたような話し方は、どこか出魅と同じような雰囲気を感じさせる。

「杉山浩太君は非科学現象捜査課の刑事だ」

「ひかがく……?」

「非科学現象捜査課。別名非科学課とも言うんだけど、捜査内容としてはその名のとおり科学で説明できないような事件の捜査、および一般への情報隠ぺいが主だね。簡単に言うと日本版MIBみたいなものかな」

 MIBなどという実際に存在が不確定なものについて、さも存在しているかのように話す。それは直接自分達が隠れた存在であると言うよりも信憑性が増した。

「信じられないのも無理は無い。そもそも幽霊や宇宙人とかいったオカルトな話自体馴染みがないのに、警察にそんな組織があるなんてことは予想もできないだろう」

 杉山はなれた口調で言う。

「さて、では自己紹介もそろそろ終わって話に戻ろうかな」

「いやはや話の腰を折ってしまったみたいで申し訳ない」

 気にするなというジェスチャーを杉山に送りながら紅茶で口を潤してから出魅は元の話題に戻した。

「この地図だが、見ての通り印がつけられている。葛葉清秋君、これを見て何か分かる事はあるかい?」

「特に何も……。強いて言うならこの街に固まってるということぐらいでしょうか」

「うん、そうだね。固まっているという事に気付いた事は評価して、なんとか合格点かな」

 まるで難しい問題を生徒に教える家庭教師のように、分からなかった事を責めるでもなく答えに導くような口調。

「確かに二次元の情報からだとこの事件の場所が固まっているということぐらいしか分からない。といっても三次元にして高さを付けたからといってほとんど変わらないんだ。じゃあどうするかわかるかい?」

「四次元。時間でしょうか?」

「大正解」

 言いながら指先をクルリと一回転させ正解の丸を描くような動きをする。

 しかしどうやらそれは清秋を褒めたと言う訳ではないらしく、テーブルに置いてあった紅茶のポットが動いて出魅のカップに赤い液体を注いだ。

「では葛葉清秋君が言った用に時間を書き加えてみよう。まずここが杉山浩太君の調べた中で最初に事件が起こったところ」

 地図の中心から少し北寄りの小さな公園に書かれた印の横に赤いペンで『1』という数字を書き込む。

「そして順番に二番目、三番目の現場」

 順番に数字を書き込んでいき、十三番を書き終えたところで清秋は気付いた。

「あ」

「気付いたかい? そうだこの事件は規則性がある。犯人は出来るだけ離れた場所をと選んでいたようだが、これだけの数があれば逆に目印のようになってしまっているね」

 二番目の事件は最初の事件から南にずれた場所。三番目はそこから北東に向かった公園、次はそのまま西方向の空き地。まるで感染症患者の分布図のようにあるところを中心として事件が円形に広まっている。

「そうだ、この地図に番号を付けるとおのずと犯人がわかってしまう。事件が円形に広まっているという事はその中心が犯人のいる場所、もしくは深く関係した場所だと思うのが妥当なところだろう。そしてその中心となる一番犯人の疑いがある者がいるところは……」

 ゆっくりと出魅の指が赤い印で出来あがった分布図の中心に伸ばされる。

「前嶌医院」


 ガタッ


 出魅の言葉を言い終わるかというタイミングで、大きな音と共に机が大きく揺さぶられた。おかげでティーカップは倒れなかったものの、中に入っていた紅茶が少しテーブル上に零れて小さな水たまりを作った。

「どうかしたかい?」

 零れた紅茶を指一本で綺麗にカップの中に戻しながら、動じることなく出魅は尋ねた。

 その言葉を向けられた相手は二葉。彼女が突然立ち上がった際に机に手をついたために大きな音を立てたのだ。

「どうかしたのかと聞いているんだが。前嶌二葉君」

 出魅が質問を繰り返すが二葉は口を空けようとしない。

 むしろギリリという音が聞こえそうなぐらい奥歯を強くかみ合わせ、俯き加減でテーブルの一点を見つめている。何も言わないと全身で主張しているようだ。

 両手は強く握りしめられてられており、力の入れ過ぎで全身が震えていた。

 そんな二葉を見て答えは帰ってこないものと判断したのか出魅は独り言のように、しかし二葉の方を向いたまま話を続ける。まるで美術館に飾られた絵の感想でも言うように淡々と。

「ふむ、そう言えば君の名字も前嶌だったね。もしかすると何か関係あるのかな? いや、別にそこまで珍しい名字でもないから全く関係ないのなら悪いが、今の君の行動からすると疑わざるを得ないよ。もしかすると前嶌医院というのは君の親戚か、もしくはそれ以上の血縁のある者が経営する病院なのかな?」

 畳み掛けるように質問する。

 その間も二葉は口を開こうとはせず、さらに全身に力を込めたのか、はっきりと歯の軋む音が聞こえた。

 そしてしばらく部室の中に沈黙の空気が流れた後、

 二葉は弾かれたピンボールのようにドアから飛び出してどこかへ駆けて行ってしまった。

「ちょっと部長。今のは言いすぎじゃないんですか?」

 清秋は追いかけようとしたが、食屍鬼(グール)の身体能力は人間よりもかなり高いらしく、開け放たれたドアからはすでに二葉の姿を見つけられない。

 情けなくも、過ぎた事に対する抗議ぐらいしかできなかった。

「いや、むしろ私は気を使ったのだよ」

「気を使った?」

「私の能力や吸血鬼の身体能力を使えばもちろん、彼女を取り押さえて無理矢理この場に残す事も出来た」

「じゃあなんでそうしなかったん……」

「それで話す気になるかい? もちろん尋問、場合によっては拷問をして聞き出す事も出来たよ。しかし無理矢理にその人の家庭事情に踏み込んで情報を聞き出したとして、聞く側も聞かれる側も気持ちのいいものかな?」

「……」

 何も言えない清秋を見ながら、出魅はシニカルな笑みを浮かべながら続ける。

「答えは否だ。無理矢理に聞こうとするとかえって答えたく無くなる。ほら、かの有名な北風と太陽の話と同じだよ」

「それでも情報を得られないよりはいいんじゃないんですか?」

 北風と太陽ならばむしろ先ほどの会話とは逆に、責めるような言葉ではなく、優しく相談に乗るように聞いた方がいいのではないだろうか。

「君は女心を分かっていないな」

「は?」

 なんの脈絡もない言葉に清秋の頭は混乱する。

 今の言葉のどこに女心を気に掛けなければいけないような場面があったのだろうか。

 それに出魅――少なくとも夜の彼女――に女心がわかっていないなどといわれてもいまいち言葉に力がない。

「女に限った事ではないかもしれないが、人は周りから拒絶された時ほど頼れる者が現れた時に心を開きやすくなるものなのだよ。ああ、北風と太陽の例えは適切じゃなかったかもしれないな、訂正しよう。飴と鞭、いや、順番で言うと鞭と飴になるのかな」

「言っている意味がよくわからないんですが」

「つまり先ほどは私が鞭となって部外者である彼女を拒絶した。そこで飴の役割をするのが君だよ、葛葉清秋君」

 ビシィッ、と演技がかった動きで出魅は人差し指を清秋の方向に向ける。

「君は私達が会うのとは別で彼女と接触している。つまりこの中のメンバー内では一番彼女と近い関係だ。それに比べて他の者は初対面で、その中の代表である私が彼女を拒絶すれば他の者も拒絶したという錯覚を起こすのは簡単だろう」

 清秋が反論する前に出魅は言った。

「というわけで彼女を追いかけたまえ、葛葉清秋君」

「って言っても二葉ちゃんがどこにいるかなんてわからないし」

「そんな訳ないだろう。人は何かから逃げる時、まず一番落ち着くところに行きつくものだ。しかも今の彼女は少し混乱しているようにも見えた。行動が短絡的になっていることも予想されるね。さて、君が彼女と会うのはどこかな」

 会うと言ってもまだ二回遭遇しただけで、一度目は二葉が家出をした時、二度目は何かから逃げていた時。二回とも白桃公園で……

「あっ」

「場所はわかったようだね。恐らく彼女はそこでいるだろう。君は話を聞き出して情報を集めてくれ。私は先に前嶌医院に向かっているから、後から前嶌二葉を連れて来てくれ。杉山の形態に連絡すれば車で迎えに来るだろう」

 言いながら出魅は目線で杉山に指示をする。

 すると杉山はすぐに内ポケットから小さなケースを取り出した。

「私が警察で使っている物ですが、裏に携帯の番号を書いていますので、仕事が終わりましたら連絡をください」

 人のいい笑みを浮かべて彼はビジネスマンのように名刺を清秋の前に差し出す。

 それを受け取り、清秋は急いで白桃公園に向かった。

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