第十三話:自己紹介
出魅について行くと数分でオカルト部の部室に到着した。
学校内に中学生である二葉を入れてもいいのかは分からないが、そんな事を気にするでもなく出魅は我が家に帰るような気軽さで部室のアルミ製ドアを開ける。
「あら、お早いお帰りですね。それに出魅さんがこんな時間に、珍しい」
「ああ、色々とあってね。とりあえずこの服をどうにかしたいのだが、確か奥に替えの制服があったかな」
言いながら出魅はいつも雀がお茶を入れに行く給湯室らしき小部屋に入って行った。奥は倉庫にでもなっているのだろうか。
「この時間に出魅さんが出てきているという事は何か不測の事態があったんですね」
昼間の忠告を守れなかった所為か、心なし声と表情に棘がある。
「ちょっと襲われてね。それで出美さんが大怪我をして」
雀に先ほどの出来事をあらかた説明する。と言っても清秋では理解不能な事が多かったため所々省略したり言葉を変えたりと、出来事の流れを話すので精いっぱいだった。
しかしそれでもなんとか通じたらしく、雀はフンフンと相槌をうちながら聞いていた。
「出美さんが普通の人間なら冗談ではすまなかったんですよ」
今度は呆れ混じりでの台詞。
確かに、あの場はなんとかなったもののもしも自分や二葉が襲われたりしていたら取り返しのつかないことになっていた可能性もある。
「まったく、何のために武器を渡してあると思ってるんですか」
「武器?」
「覚えてないんですか? 初めてあなたがここに来た時に渡した」
というとあの空気銃だろうか。すっかり失念していた。木の幹も軽く貫通する程の銃なのだから相手を追い払うぐらいはできただろう。
「でもあんな威力じゃ相手もただじゃ済まないだろ」
「ということは撃てたんですね」
「撃てたけど……、何か問題でもあったの?」
あんなもの誰でも撃てるだろう。小学生でも引き金を引くだけで自動的に銃口から弾が射出される単純な造りを操作できないものなどほとんどいない。
「いえ、その事についても後で説明させてもらいましょう」
そう言うと雀はソファから立ち上がり、奥の小部屋へ向かう。また例のごとくお茶でも入れにいったのだろう。
毎度毎度まめな事だ。もうなんか彼女はこの部屋ではお茶くみ人形か何か何かという印象が染みつきそうだ。
「ところで清秋さん、この素敵空間は何なんですか!?」
清秋が雀の存在意義について考えていると、すっかり忘れ去られていたツインテール異国少女が鼻息を荒げながら飛び出したシャンパンの蓋のような勢いで話しかけてきた。
「外見からは全く予想できないような豪華な内装、高級感漂う家具類、どこのオフィスですか!」
「ですかって言われても僕は知らないし。部室らしいけど」
「部室? こんな綺麗な部室を持ってるなんて。ここに比べたら私の学校の部室なんて犬小屋です。いえ、ゴキブリホイホイです!」
それはさすがに言いすぎだ。というかゴキブリホイホイは誰も住んでないだろう。確かに印刷されているパッケージは家みたいな模様だが、あの茶色い悪魔が棲んでいるところを想像するとゾッとする。
「ていうか二葉ちゃんは何か部活動してるの?」
「いえ、まだ私も入学したてですからいくつか仮入部をしているところです。そこで色々と回ってるんですがこんなに綺麗な部室を見るのは初めてです」
「ほう、うちの部室が気にいったなら入部してみるかね? 君なら条件も満たしているしね」
いつの間に帰ってきたのか出魅が音もなく後方に出現する。
その横には盆の上に人数分のカップを乗せた雀が秘書のごとく控えている。
「何言ってるんですか出魅さん。まず中学生が高校に入ってくる事自体難しいのに部活なんて出来る訳ないじゃないですか。それに条件って?」
「我がオカルト部は年齢問わず老若男女部員を受け付けているよ。ただし、魔法や超能力、または人間でない何者かであるのが条件だけどね」
出魅はソファにどっかりと腰かけて足を組み、右手人差し指を立ててくるくると回す。
すると雀の持った盆からカップがふわふわと遊園地のアトラクションのように回転しながら浮かび、静かにテーブルに着地した。
「ちょっと待ってください。じゃあ僕は条件を満たしていないんじゃないんですか? 僕はただの一般人です」
「いいや違うよ葛葉清秋君。君には力がある。君自身が自覚していないだけで大きな力が眠っているね」
「そんなこと……、何か証拠でもあるんですか?」
「あの銃を使えた事が証拠です」
と、向かい側に腰かけた雀が話に入ってくる。それを見て出魅は「どうぞ」といった仕草を見せて雀に話を引き継いだ。
「あの銃は使用者の魔力を火薬代わりに打ち出す銃です。つまり、あなたがその銃を撃つことができたという事はあなたに魔力かそれ相当の力があるということです」
それを聞いて清秋は目まいがしそうになった。今の今まで周りが化け物だらけだと思っていたが、まさか自分にもその素養があるなどとは夢にも思っていなかったし、これからも思う事はなかっただろう。
魔力? そんな事突然言われて信じられる訳がなかった。
「まあそれについては追々慣れていくことにしようじゃないか」
はっはっはと快活な笑い声を上げながら清秋の頭をぽんぽん叩く。
「さて、じゃあ改めて。私は清水出魅、この部活動の部長をしている。そしてこっちが佐々木雀」
「前嶌二葉です!」
両者ともに名前を名乗るだけの簡単な自己紹介を行う。
「うむ、元気があって大変結構。前嶌二葉君か、これからはよろしく。君をここに連れてきたのはもちろん理由がある」
「私が人間じゃないってことがわかってるんですね」
世間話でもするように唐突に、二葉の口から信じられないような言葉が飛び出す。
「ちょっと待ってください部長。二葉ちゃんが人間じゃないってどういうことですか?」
「それについては私に聞かなくても本人が目の前にいるだろう」
もちろんその通りなのだが、目の前の少女に対して「君は人間じゃないのか?」と聞くには誰だって抵抗があるだろう。
清秋が二葉に直接聞くか迷っていたが、口を先に開いたのは二葉であった。
「気を使わなくても結構ですよ清秋さん。私は人間じゃありません」
「そんな事突然言われ立って信じられる訳ないだろ。二葉ちゃんは普通の女の子じゃないか」
「私や出魅部長も見た目は普通の女子高生です。でもその内に持っている力は普通じゃない。見た目だけでその人が普通の人間か、もしくは人間でもないのかなんて判別は不可能に近いんですよ」
ダメ押しのような雀の言葉。その台詞に反論する事も出来ずに清秋は黙ってしまう。
そんな清秋に二コリと笑顔を見せてから快活に話しだす。
「私は食屍鬼です」
食屍鬼。アラブの伝承に登場する怪物でその名の通り人を食べる。
ただその地域によって伝説はばらばらで、生きた人間を食べる者もいれば地下に住まい死体を食べて生活しているとも言われている。
ゲームや漫画だと灰色の醜い姿で描かれる事が多いが、目の前の少女はそれとはまったく対照的に生き生きとしており、金色の髪がむしろ輝いているように感じるほどだ。
どう間違ってもそんな怪物なんて想像できない。
「食屍鬼って言っても父さんは普通の人間だからハーフなんですけどね。つまり人種はイギリス人と日本人のハーフで、種族は人間と食屍鬼のハーフ。全部の血が四分の一ずつ入ってます!」
「いや、その計算はおかしいよ」
「細かい事は気にしないのがいい男の条件ですよ」
「そんな条件聞いたことないよ!」
すごく真面目な話をしているのに二葉の話し方が軽すぎてどうも調子が狂わされる。
「大丈夫です。清秋さんは私の中ではぎりぎりいい男の位置にいますから。もう少し高感度メーターが上がったら告白イベントもあるかもしれません」
「もう全然訳が分からないよ!」
「この女たらし……」
「なんか僕が悪いみたいになってるし!」
ぐあー、と頭をかき乱しながら叫ぶ清秋と、それを面白そうに見ている二葉に対して雀は軽く咳払いをして静かにさせる。
軌道修正。まるで雀が裁判官の小槌のように部室に静寂を取り戻させる。
「これは友人同士の雑談の場じゃないんです。もっと真面目に話してもらわないと」
「まあまあ佐々木雀君。せっかくの客人……いや、これから仲間になるのだから楽しく話そうじゃないか」
出魅がシニカルな笑みを見せながら雀を制する。
「さて、ではそろそろ私も話に混ぜてもらおうかな」
そう言うとテーブルに置いたカップを手に取り、真っ赤に染まった紅茶を少量口に含んだ。
「先ほど前嶌二葉君が食屍鬼だという話だったが、私は吸血鬼だ。はは、これでこの場にいるのは怪物と人間が半々になったね。
心配しなくても大丈夫だよ葛葉清秋君、佐々木雀君はれっきとした人間だ。
さて、私の事についてだったかな。吸血鬼といっても別に火の下に出たからといって灰になったり発火したりはしない。まあ一般的な人と比べて少し日焼けがしやすくなる程度かな。
そして吸血鬼の力が使えるのは夜限定だ。より詳しく言うなら午後六時から午前六時の間。その間は吸血鬼特有の力が使える。
今はまだ見せた事がないが、常人より早く動けたり、爪や歯がするどかったりするんだ。
特に一番便利なのは治癒力だ。さっきも見てもらったとおりどんな大怪我でも一瞬で回復できる。
ではなぜさっきは吸血鬼の力である治癒能力が日中に使えたかって? まあ焦らずとも説明するよ。
吸血鬼が力を使えるのは午後六時以降という条件以外にもう一つある。
そう、さっきのように人間の血を吸った時だ。吸った量によって吸血鬼状態を維持できる時間は違っているが、まあさっきの量だと今日の午後六時までは持つだろうね。
ああ、心配しなくてもこんなことはめったにないよ。日中に能力を使わない時は吸血行為を行わなくても生きていけるからね。
さて、とりあえず私からの説明はこんな感じなのだが、何か質問はあるかい?」
本格ミステリの探偵よろしく一気に説明を終えてしまう。
そのまま辞書にでも乗ってるんじゃないかと思える程の説明に対して特に質問も出るはずもなく、そのまま沈黙が流れる。
「うむ、理解してもらえたみたいで安心したよ。さて、それじゃあ今後の動きについて説明していこうか」
「今後の動き?」
「そうだ、この事件を解決するための今後の計画だよ」
そう言うと出魅は不敵な笑みを浮かべて行方不明者のチェックが入った地図を取り出し、テーブルの上に広げた。




