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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第十一話:草むらに咲く赤い花

「というわけなんです」

「『しばらく時間が経ってその間に説明した』みたいに言っても誤魔化せてないからね! ていうかまだ立ち上がってもいないし」

 頭をさすりながら清秋はゆっくりと立ち上がる。あれだけの勢いでぶつかった割にはこぶ一つですんだのは幸いと言ったところだろう。見たところぶつかった相手側も外傷はないようだ。

「フフ、説明なんかしなくても私と清秋さんの仲じゃないですか」

「昨日の夜会っただけの君とどんな仲があるんだい」

「昨日の夜の事を私に話させるんですか? 別に私はかまいませんが……、こんな昼間からするような会話じゃないですよ」

「そんな切ない顔で僕を見るな! そして出美さんもそんな軽蔑したような目で僕をみないで! ただの誤解です!!」

 会って早々に危うく体力も今後の学生生活もすべて持っていかれるところだった清秋は、出美から放たれる絶対零度の視線に耐えつつ誤解である事を説明する。

 一言話す度に二葉が口を挟んできたため、普通に説明するよりも倍以上の時間がかかったが、なんとか出美は信じてくれたようだ。

「それで二葉ちゃんは家出してどうしようかと途方に暮れている時に公園で清秋君とたまたま遭遇したのね」

 最終確認のためか出美は二葉に確認をとる。『たまたま』という単語に少し棘があったように感じたがその辺は気にしないことにした。

「たまたまと言ってしまえばそれまでですが、もしかしたらこの出会いは運命で、これから二人の物語が紡ぎだされるのかもしれません」

「そんな物語に発展しないように出来る限りの努力をするよ」

 目の前の常にフルスロットルな中学生の相手をするのに少し息切れを起こす。この少女は真面目に答えるという事ができないのだろうか。

「ところで二葉ちゃんはこんなところで何をしていたの?」

「そういえば、危うく忘れそうになってたよ。僕たちが言うのもなんだけどここは立入禁止のはずなんだけど」

 その言葉を聞いた瞬間にギクリという擬音が聞こえてきそうなぐらい一瞬二葉が焦るのがわかったがすぐに平常心を装い、何もなかったかのような顔をする。

「べ、べべべ別に誰かに追われてるとかそんなことは決してないのですよ」

 しかしどうやら言葉は平常心に戻せなかったようで、全く隠し通せていない上にはっきりと答えてしまっている。

 しかも「だれかに追われている」なんて言葉を聞けば確実に食いついてくる人がいる訳で

「それはどういうこと? やっぱり今回の事件は何かあって裏で組織が動いてるのね」

「な、何を言ってるんですか。事件とか組織とかなんなんですか? ちょっと、そんなに揺さぶらないでください~」

 電波モード全開の出美に両肩を掴まれて前後に揺さぶられる二葉。

 今回言葉に詰まったのは何かを隠しているという訳ではなく、ただ単に出美が格闘家よろしく二葉までの距離を一気に詰めてきたからだ。

 このまま強制ヘッドバンキングを続けて二葉の頚椎がやられても誰も得をしないので、清秋は目の前で中学生を虐待している上級生の両手を掴む。

「止めないで清秋君。このまま逃げられたら大変よ!」

「何が大変なのかは置いておくとして、そろそろ元に戻ってください電波先輩。二葉ちゃんもそろそろ限界です」

 電波先輩の目の前には漫画のように眼をぐるぐるに回した二葉が「ぎもぢわるいです~」と、朦朧とする意識の中で呟いている。

 そして少しの間四つん這いでぐったりとした後、近年まれにみる『強制ヘドバン』と言う名のアトラクション終わりの少女はまだ少し青ざめた様子でなんとか起き上がった。

「別に変質者に追われてるとか、警察に追われてるとかじゃないですよ」

 と言う割には周りを警戒しているようで、ここがスーパーとか店の中なら万引きをしているんじゃないかというほどの挙動不審ぶりで話す。まさかどこかの店で万引き、もしくは食い逃げをしてきたんじゃないだろうか。

「言っときますけど犯罪行為は全くしてませんからね」

 ジト目で念を押される。

 そんなに自分は顔に出していたのか、心を読まれたようだ。

「じゃあ誰に追いかけられてたって言うんだい? 僕には他に追いかけられる理由になりそうな事を思いつかないんだけど」

「家族……です」

 家族? そういえばこの子は家出癖があるんだったか。

 しかしそれにしては表情があまりにも優れない。確かに家出なのだから捕まりたくないとかそういった感情があるだろうが、それ以外にももっと違ったものが二葉表情からは感じられた。まるで命でも狙われているような、肉食獣に追いかけられているようにも見える。

 それに一般的に家出というのは親に心配してほしいといった事が原因だったりする。普段から家出しているという彼女も恐らくこの部類なのではないだろうか。

「そういえば一昨日から家には帰ったの?」

「はい、さすがにお風呂に入れないし着替えもありませんでしたし、ていうか財布を落としたのが失敗でしたね」

 家出中に財布を落とすなんてどれだけ運が無いんだろう。それにすぐに風呂とか着替えを考えるあたり女の子だと思わされる。

「ところで清秋さんたちは何をされてたんですか?」

 その質問に対してすぐに食いついたのは説明するまでもなく出美であった。

「私達は事件の調査よ!」

 何をとかなぜとかすべてすっ飛ばして一言で済ませた。このあたりが夜の出魅と通じるところがある。

 出魅の場合は優秀なる秘書替わりの雀が付いており、補足説明をくわえていたが、今はもちろんあの片眼鏡少女はいない。となるとその役回りは自動的に清秋に回ってくる。

「えっと、一昨日ここで起こった事件については知ってる? 全身の血を抜かれた死体が発見されたっていう事件だけど」

 清秋は自分たち――というか主に出美――がここ数日起きているホームレスの人たちが行方不明になっているという事件について調査していること。また、それは宇宙人やその他未知の生物の仕業ではと――主に出美が――考えている事を話した。

 どうせ「そんなことあるわけないじゃないですかー」とか言われて笑い飛ばされるだろうと考えていた清秋だが、二葉の反応は違った。

「そんな危ないことはやめた方がいいです。もし清秋さんの命にかかわる事かもしれませんし」

 あまりにも真剣に、まるでその事件の事を知っているかのような口ぶり。それでいて冷静に首を突っ込まないように促す。その言葉にはいつものふざけた調子など全くなく、中学生の台詞にしては重みがあるように感じられた。

「まさか、二葉ちゃんは何か知っているの?」

「だめです。そんな危ない事に巻き込める訳ないじゃないですか」

 その言葉は自分はその事を知っており、その上関係者であると言っているようなものではないか。

 それに今の彼女の家出中。その事件と関わっているのではと考えさせられるのには十分異常な行動である。

 目の前に大量行方不明事件に関係している少女がいる。そしてその少女が一昨日の事件と何らかの関わりがあると分かれば誰でも同じ行動をとるのではないだろうか。

「二葉ちゃん。警察に行こう」

 出美もその辺の常識はあるようでそれ以上オカルトな発言はしない。

「嫌です。そんなところに行っても意味がありませんし、私の話なんか信じません」

「でも……」

「でもも何も、例えばこの街には人の血を吸う怪物がうろついているとか言われたら信じますか?」

 数日前ならそんな事は信じられずに目の前の女の子の頭がおかしくなったのではと思うだろう。

 しかし今の清秋は違う。血の塊に襲われて、清水出魅という女に会った。

 そんな中で放たれた彼女の言葉を疑う理由がどこにあるだろうか。

「信じるに決まってるじゃないか。そんな顔をしていれば二葉ちゃんが嘘をついてないのぐらいわかる」

 その言葉に二葉は信じられないというように眼を見開く。

「まさか……、清秋さん」



「みーつけた」



 二葉が言葉を言い終える前に別の声が割り込んだ。それはもちろん清秋も出美の声でもない。

「ちょこちょこと逃げ回るもんだから見つけるのに苦労したわ」

 そこに立っていたのは金髪青目の人物。その少女とも女性とも言い難い容姿は日本人にはない美しさを秘めており、しかしその反面でその表情は不気味としか言えない。

 すべてを見下すような笑み。まるで仮面でも貼り付けたのではないかというほど感情のないその表情はその場にいる誰もが、いや、他の誰が見ても嫌悪感を抱くだろう。

「ああ、まずは自己紹介からね。私は前嶋一葉。二葉の姉です」

 自己紹介という当たり前の行為。それがなぜか不自然に、この女がすると不気味にしか見えなかった。例えば部屋に置いてあった人形が夜中に話し始めたような、その言葉の内容に関係なく目の前の女が話しかけてくる事に関して『怖い』という恐怖しか与えなかった。

「私の顔に何かついてる? そんな人外のものでも見るような目つきで。ただ私は愛しい妹を迎えに来ただけなのに」

「あなたはお姉ちゃんじゃない!」

 先ほどの少女とは思えないような吐き捨てるような声。

「まああなたが戻ってこないというのならそれでもいいけど。ただあなたはそれでも生きていけるのかしら」

「そんなのなんとかできる。あの人の助けなんか必要ないわ」

「なんとか出来ればどれだけ楽かしらね。私たち化け物は普通には生きていけないのよ。あなたも、私も、そして清水出魅、あなたもね」

 その台詞を言い終わらない内に清秋の視界から一葉が消える。

「きゃあ!」

 声の方向を見ると、そこには出美が一葉に後ろから抱きつかれている状態だった。

 抱きつかれているといってももちろん好意などと言ったものは一切ない。

「どうしたの出魅。あなたならこれぐらいすぐに振り解く?」

 舐めるように両手を使って出魅の全身をなでまわす。まるで獲物の味を確かめるようにゆっくりと全身に腕を這わせる。

「ど、どういう事?」

 出美の声は震えており、今の状況が全く理解できていない。そんな状態で声を出せたことだけでもほめられるべきだろう。 

 いくら本人がオカルト好きだといってもそれは頭の中での想像でしかない。そういったものを現実に見たことなどないし、体験した事もないのは明白だ。

「あら、もしかして休眠状態なの? あの『傍若無人(アンコントローラブル)』とも言われた怪物がこんな状態になってるなんてね」

「その人を放して、お姉ちゃん」

「さっきは私のこと『お姉ちゃんじゃない』なんて言ってたのに随分勝手な言い草ね。いいわよ、放してあげる。ただしちょっと遊ばせてもらってからね」

 言うや否や一葉は行動を起こしていた。

 そして一瞬にして清秋の視界が赤く染まる。何が起こったのか分からないまま顔に付着した暖かいものを拭い、状況を確認する。

 目の前にいたのは腹部から赤い花を咲かせた出美の姿だった。いや、花というのは背中から貫通した一葉の腕と付き破られた腹の肉や血が染めた放射状の模様である。

 脳が処理落ちを起こしたように目の前景色を認識しない。グロテスクだなとただ、絵を見ているだけのような感覚。

「うん、なかなかおいしいじゃない。やっぱり人間の肉とは違うわね」

 グチュリと嫌な音を立てて一葉の腕は引き抜かれ、それに付着した肉片や血をまるでホイップクリームを舐めるようにして一葉は舌で味わう。

 一葉のその行為はただ単に食後のデザートを食べるのと等しく、味覚を通じて脳に快楽を与える為の行為。人間が食事をするのと同等のものなのだ。

「さてと」

 寒気を覚えるような目線。目の前の『デザート』を全て平らげる事もせずに、怪物は次の獲物に清秋を選んだ。

「頭か腕か足か、どこから食べてほしい?」


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