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ヴァンパイア・イン・ザ・スクール  作者: 青牙 ゆうひ
ヴァンパイア・イン・ザ・スクール
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第一話:非日常の始まり

 葛葉清秋(くずはきよあき)はどこにでもいる普通の高校生である。

 紀近高校に在籍する高校一年生で、入学してから約一カ月たったところだ。つまり現在は五月ということになる。

 学校にも慣れ始め、友達もそこそこできた。

部活に入ってはいないが、放課後は数人の友人と共に近所のゲームセンターやカラオケに行ったりと学生生活をそれなりにエンジョイしている。

 成績はおそらく中の中ぐらいで運動神経も全国平均ぐらいだろう。

まだ中間試験も始まってないのでわからないが、入学試験の成績を見る限りそんなもんだろうと清秋は思っている。

そんな平凡に足をつけたような高校生、清秋は全力疾走をしていた。

 前述した通り彼はごく普通の高校生なので、誰かに命を狙われているとかそんなことは全くない。ただ単に朝起きるのが三十分遅かっただけである。

 現在清秋は遅刻するかしないかという瀬戸際である。

 彼の家から高校までは自転車を十分ほど走らせたところにあり、近さゆえにこの高校を選んだといっても過言ではない。

 なので三十分程度の寝坊で遅刻するようなことはない。しかし不幸には不幸が重なるもので、今朝家のガレージから自転車を出してきたところ完全に後輪のタイヤがパンクしていたのだ。

 現在時刻は八時二十五分。

 清秋は左腕の時計を確認する。つい先ほど通り過ぎたコンビニがだいたい自宅と学校との中間に位置するので、あと十分ほどで到着するはずである。

「明らかに間に合わない……」

 頭の中でどうにか時間内に到着できないかと思考をめぐらせていると、右前方十メートルほどの位置に公園の入り口が見えた。

 普段は自転車に乗っているので通らないが、確かこの公園を斜めに横断すると学校までの近道だとか聞いたような気がする。

 一秒で判断して右折する。

 入口にあった車止めのポールを一気に飛び越え、『白桃公園』という立て札を横目にスピードを緩めず走り続ける。

 公園に入ると一気に視界が開けた。この白桃公園には遊具などはほとんどなく、主に住民の憩いの場所としてよく利用されている。

 敷地内は主に広場のようになっており、きれいに芝生が手入れされている。

 休日には近所の子供たちがサッカーをしたり、犬を走らせたりといった光景が見られる。清秋も小さい頃にはよくここでバーベキューなどをしたものだった。

 公園の東側には雑木林が広がっている。

 雑木林といっても桜やイチョウ、クヌギといった季節によって花が咲いたり紅葉したりする木々が五、六メートルずつ人口的に植えられているもので、春や秋は花見や紅葉狩(もみじが)りといった行事にもつかわれている林だ。

「ん?」

 と、そこで自分の進行方向に小さな黒い物体が動いているのを確認した。

 近づくにつれてその輪郭がはっきりする。

 三角の大きな耳。二つの黄色い眼玉には縦長の楕円型に黒目がついている。黒い毛皮に包まれた胴はしなやかで、尻尾を真上にピンと伸ばしてこちらを見ていた。

 まごうことなき黒猫である。

 こちらから近寄れば勝手に逃げるだろうと思いながら、猫の右側を通りぬけようとする。

 しかし、前方の猫も同じ方向に移動した。

 仕方がないので次は左に避けようと、少し右足を踏ん張って左に進路を変える清秋。

 やはり同じように清秋の進行方向に体を移動させる黒猫。

 右へ左へと繰り返しているうちに一人と一匹の距離はどんどんと縮まっていく。

 相手が人ならば、お互いが避けようとして二人とも同じ方向に避けるというのはよくあることである。そして最終的にどちらも一度停止してから、少し気まずくなってすれ違うだけである。

 しかし今回の相手は人間ではない。

 とりあえず猫の前方一メートルぐらいで停止した清秋は――もちろん気まずくなるということはないが――、避けて進もうとした。

 しかし、やはり猫は清秋の進行方向に立ち向かった。

「なんだおまえ? 僕を通したくないのか?」

「にゃー」

 話しかけてみると、その小動物は返事をするように一声鳴いた。

 首輪は付いていないが、どこかの飼い猫なのか人を見ても逃げないらしい。

「これでも僕はすごく急いでいるんだ。お前と遊んでいる暇はない。」

 話しながらも左右に避けて進もうとする清秋。しかし、黒猫は断固として道を通さないつもりらしい。

 時計を確認すると、残り時間はあと三分を切っていた。

「さすがにこれ以上足止めされるのはキツい。そろそろ抜けさせてもらう。ぜっ!」

「にゃう!!」 

 清秋は猫の上方を飛び越えた。

 予想外の動きだったのだろう、黒猫は飛び上がるがそのころには清秋ははるか後方に着地し、そのままの勢いで走りだしていた。

 もう諦めてしまったのか、黒猫は後を追ってこない。

 それにしても変わった猫だと思った。あんなに必死になって道をふさぐ猫など清秋は今まで見たことがない。

「まっ、いっか。とりあえず今は遅刻しないようにしないと」

 清秋はさらにスピードを上げた。前方には雑木林。一気に木々の中に身を投じる。

 先ほどまでの開けた場所とは違い、一定の間隔で植えられている多くの木々達。

五月の中旬となると青葉が生い茂り、林全体が緑色になったように感じた。

 人口林とは言え、自然の中にいると何となく心が安らいだ。これがマイナスイオンとかいうやつなのかと、エアコンのテレビCMを思い出しながら清秋は走り続ける。

 だがそこで

「うおお!?」

 何かが足に引っ掛かり、持ち上げようとした右足の運動を完全に停止させた。

 もちろん右足だけが止められただけで上半身は慣性によりそのまま前へ進もうとする。

「ぶへぁ!!」

 急降下する頭を守るために左手を前方に出して衝撃を和らげた。

 そのおかげで顔が地面と衝突することはなかったが全身が土まみれになるほどの大転倒である。

 受け身を取った左手が少し痛むのを我慢しながら、自分が引っかけた右足を見た。

 はいていたスニーカーは完全に脱げて横に転がっている。数センチ横には自分が足を引っ掛けた何か黒い物体が木の陰からのびていた。

 始めは何かわからなかった。

 林の奥の方まで入ってきたため、辺りの雑草は放置されているため伸び放題で、倒れたままの清秋の視線からはほとんど確認できなかった。

 とりあえず立ち上がり、自分の靴を拾いながら黒い何かを確認する。

 もとの色が分からなくなるぐらいまでボロボロになったスニーカーがつま先を地面に突き刺すように立っていた。

 もちろんこんなスニーカーだけでは足を取られるほどの重量も無く、そこからは人の足が伸びていた。

 グレーのズボンの裾だけ見えたが、清秋のいる方向からでは木が邪魔でその先が見えない。

 あれだけ激しく足を引っ掛けたのにぴくりともしないのは明らかにおかしい。

 気味が悪く逃げ出したい気持ちもあったが、万が一のことを考えると確認せずにはいられなかった。

 ゆっくりと二、三歩後ろに後退していく。嫌な汗がこめかみから顎のラインをなぞっていくのがわかった。

 どうせ酔っぱらったホームレスが寝床に帰らずにそのまま公園の林の中で寝てしまったのだろう。

 邪魔になっている木を右から回り込み、最悪の考えを振り払いながら清秋はそう考え、そうであってくれと願った。

 しかし人間というものは、最悪の考えほど見事に的中させてしまうもので――



 清秋の視界には予想した通りの『最悪の結果』が待っていた。




 鳴り響く学校のチャイムの音は、今回の事件の始まりを告げているようだった。



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