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聖障の魔女

今日は天気が大変よく、雲一つない青空が広がるなか、太陽の光が草木を明るく照らしている。

ぽかぽかと暖かい気温で、気を抜けば昼寝をしてしまいそうな昼下がり。

そんなのどかな草原を見下ろしながら箒に乗り、宛もなく気ままに空を飛ぶ魔女が一人。

名前はクルシェ、旅人です。


なぜ私は一人昼風を一身に受けながら空を飛んでいるのか。それは900年前に遡ります。

………つまりアホみたいに長くなるということです。いつかの機会に聞かせるとしましょうか。


しばらく箒を飛ばしていると、すこし大きな集落が姿を見せました。川が集落の両端に位置し、のどかな田畑や菜園がちらほら見えます。

集落にしては人が多いような気がしますが、見たところ非常に良い場所なようなので観光客といったところでしょうか。

時計の針は午後3時を指しており、目的の国に到着するのは夜になってしまうことでしょうし、せっかくなので一泊することにしましょう。

箒の向きを変え集落の入口へと向かうと、とても筋肉質でガタイの良い門番さんから手招きされました。検問というものです。

危険なものは持ち合わせていませんし、ここは大人しく従うことにします。

「こんにちは。今日は気持ちの良い天気ですね。」

「こんにちは魔女様。今日は大変良い天候に恵まれて私も心が晴れやかです。」

少し高圧的な態度で接せられると身構えて居ましたがそんなことなかったですね。言葉遣いも丁寧で友好的な筋肉…いや門番さんでした。

「ところで魔女様、本日はこの集落に何を?」

「実はもっと東に行った先にある国に行こうとしていたんですけど、時間的に着くのが夜になりそうなので、今夜はこの集落で一泊を…とおもいまして。」

「そうでしたか!どうぞ、ゆっくりしていってください。一応ですが身分の確認をさせてもらいますね」

私は右腕の手首を門番さんに突き出しました。そこには銀の腕輪が提げられています。

これは魔術師が魔法使い、魔女になったとき師から贈られる物です。自分が魔女という正式な証拠が刻まれ、魔法使いにとっての身分証代わりとなるなんとも便利なアイテムとなってます。

これで余計なパスポートを取り出さずスムーズに検問を突破できるので大変助かっています。

「確認しました。『聖障の魔女:クルシェ』様。ようこそヴァエル集落へ!」



検問を突破し、集落に足を踏み入れてまず思ったのが飲食店の多さです。大型チェーン店などはありませんが、個人経営のレストランや食堂、屋台が開いていました。

大通りを歩いているだけなのに自然とお腹が空いてきてしまうような、そんな香りが私の食欲を刺激してきます。

「我慢できませんね……。なにか食べましょうか。」

食欲に頭を焼かれた魔女は、なんの迷いもなくレストランに入りました。中に入ってまず驚いたのが店内の洒落た内装です。

時代のモチーフは中世ヨーロッパでしょうか、全体的に暖かい色の照明が店内を照らしていました。

「いらっしゃいませ!お一人様でお間違いないでしょうか!」

「はい、間違いありませんよ」

仕方のないことですが、「お一人様」と言われるとなんだか淋しい気持ちになるのは私だけでしょうか。1名様と呼ばれる分はなにも感じないのに……人間って不思議です。

「すみません!他のお客様と相席になりますがよろしいですか?」

「構いませんよ、私は気にしませんので」


案内された席に着くと、目の前の席には一人の青年が座っていました。

短い金髪で胸のあたりに少々大きめの十字架をつけた、昔見た『聖騎士』のような見た目をしています。椅子の横には鞘に収められた剣が壁に立てかけられていました。

「ん?あぁ、相席の方ですか。」

「えぇまぁ。少しの間ですがよろしくお願いしますね」

「いえ、こちらこそ。私はカイ・ディランザという者です。」

私はその名前に聞き覚えがあります。というかこの世界の住人全員が知っていると言っていいでしょう。

カイ・ディランザ。

現代の治安維持機関の最上官………そして、聖戦を生き残った数少ない人間の一人。

「貴方が噂のカイ最上官でしたか。私はクルシェ・カルマ、旅人です。」

「よろしく、クルシェ殿。」

私は短く握手を交わし、席に着きました。

メニューを開くと美味しそうな料理の写真が目に飛び込んできます。ハンバーグにシチュー、ピザ、東洋の和食まで種類豊富!

ここは料理の天国なのでしょうか。

私は無難にハンバーグとコーンスープを注文し、料理が来るまで読書しようと本を取り出します。

「……ところで貴女は…魔女なんですか」

ページを開こうと思った矢先、カイさんにそんな質問を投げかけられました。

「えぇ、魔女ですよ。」

手首の腕輪を見せるようにローブの袖を少しめくります。

「『聖障の魔女』……結界術ですか」

「詳しいですね。なにか魔術でも?」

するとカイさんは少し困ったような表情を見せました。

「まぁ少しばかりは。あの、このあとお時間よろしければ私達を少し手伝っていただけませんか?」

手伝う……とは何だろう。治安維持機関の最上官が頼み込むほどですからしょうもないことではないはず…。

「内容次第ですね。」

私は笑顔を崩さず、きっぱりと言いました。


□□


私の注文したハンバーグが到着し、数口食べたあたりでカイさんは口を開きました。

「我々治安維持機関はこの世界に点在している禁域の調査を行っているのですが……ここヴァエル集落の近くに発生した禁域に、これまで見たことのないような事象が確認されたんです。」

「異常ですか」

コーンスープを啜りながら私は返答します。

「日が経つに連れて位置が若干変わってるんです。数m程ですが…」

「属性は分かっているんですか?」

「現段階では『破滅』の禁域と判断しています。」

説明すると、禁域には2つの属性があります。『創世』と『破滅』、この二種類。

簡単に説明すると『創世』は超高濃度のプラスエネルギー、『破滅』は超高濃度のマイナスエネルギーといった感じです。

「『破滅』ですか……。それは困りましたね。放って置くと被害が出るかもしれませんね」

「そこで、『聖障の魔女』である貴女に協力願いたいのです。」

「……具体的にどうしろと?」

私は少し声のトーンを落としてカイさんに聞きました。

「貴女の結界術で発生した『破滅』禁域を囲ってほしい。そこからは私が対処しますので。」

カイさんの力について、文献にはなにも記されていないが、こうやって「対処する」と断言できるあたり、なにか策があるのでしょう。

私としても気になるところではありますが…。

「協力に関しては承諾します。が、ただとは言いませんよね?」

私が言い終わると同時にカイさんは少し大きい袋をテーブルの上に置きました。

「もちろん、それ相応の報酬は用意しています。」

「いや〜!私がそんな金に釣られる魔女だとお思いですかぁ〜!」

何故か私の体は大量の銀貨が入った袋をカバンに押し込んでいました。いや〜なぜでしょうか。人体って不思議ですね〜。

「では今夜22時に禁域の場所へ案内しますので、準備の方お願いします。」

「わかりました。ベストを尽くすこととしましょう」

ハンバーグ最後の一切れを口に押し込み、流れるままに私達の交渉は終わりを迎えました。


□□


鈴虫の鳴き声が夜の静寂をかき消す時間、私はカイさんと決めた待ち合わせ場所に来ています。空を見上げれば満天の星空が目に映る。ここは集落があちこちに点在するほどの田舎なので人工的な光源が少なく、本来の星空の輝きを見ることができます。

やや冷たい夜風に吹かれながら、星空に見とれている魔女、それが今の私です。

右手には杖を持ちながら低空でふわふわと箒を浮かせてカイさんのことを待っていました。

「遅れて申し訳ない。では行きましょうか。」

剣を腰に収めたカイさんが門から私の方に歩いてきました。視界の片隅に写った昼間の門番さんがニコニコした表情で私に手を振っていたので軽く振り返しておきました。勘違いなお兄さんにならないといいですけど。


私達は約10分ほど歩いたところで足を止めました。目の前にあったのはドス黒く、禍々しいオーラを放った濃霧が充満する場所が姿を現します。

「あれが…『破滅』禁域ですか」

「はい。少々大きいですが、まだ我々で対処できると思います。」

カイさんが言っていたように、地面にはえぐれたような跡と黒く乾燥した物体が転がっていました。気になったので拾い上げてみると、それは生命力を失った草…だったモノでした。

どうやら『破滅』禁域は中に入る、もしくは触れるだけで周囲の生命力を消すという効果があるのかもしれません。

「恐ろしいですね……。厄災、とでも言うべきでしょうか」

「……本当に、面倒なものを残していきましたよ……聖戦は」

私は悔しそうな顔をするカイさんを横目に、禁域に向かって杖を向けます。

「始めますよ」

箒で空中に上がり呪文を詠唱すると、禁域を内部に収めるように巨大な魔法陣が出現し、淡く白い光が禁域を囲い始めました。

「Защитник барьера, я заимствую ваши методы и силу――――」

私は聖戦のことをあまり覚えていないが、救ってもらったということを覚えている。それは一人の魔女。茶色の髪がなびく結界魔術師だった。

「Чтобы запечатать это потустороннее явление, меня попросили исполнить божественное наказание―――」

私の身代わりに、その魔女は死んでしまった。だから私は、どんなに小さな頼み事でも人を助けようと思った。

あの魔女が私を救ってくれたように

『知らない誰か』のために

「『Четверной барьер』――四重結界」

結界で禁域が包まれ、そこに停滞する。長くは持たないだろうが、抑え込むには十分な効果時間である。

「カイさん、あとは頼みましたよ」

「感謝するよ、『聖障の魔女』クルシェ殿」

カイさんは腰に携えていた剣を抜き、結界に突き刺す。眩しい閃光が走ったと思った刹那、結界ごと禁域は粒子となって消えていた。

きっと、それがカイさんの力なのだろう。

これで、この土地にしばらく厄災は訪れないだろう。なぜかそんなことを思いながら私は宿に帰りました。


□□


早朝、私は早い時間に宿を出てこの集落を離れようと外に出ました。

旅の道中で食べるためのパンと飲み物、そしてこの集落の空撮写真。一晩だけでしたが、いい思い出ができました。

「もう行くのか」

門の前でカイさんが声をかけてきました。

「はい。私は旅人ですので、朝早くからの出立はいつものことですよ」

「…昨夜は助かった。恩に着るよ。私一人ではどうにもできなかっただろうから」

「報酬も貰いましたし、いいですよ。またどこかで会えたら、その時は声をかけてください。

「分かった。気を付けてな」


カイさんとそんな会話をして、私は空を飛びます。まだ少し冷たい風が髪を撫で、朝日が私の体を明るく照らし始めました。

さぁ、次はどんなことが待っているのでしょう。そんな期待に胸を膨らませた一人の魔女が優雅に空を飛んでいます。一体それはどんな魔女だと思いますか?

名前はクルシェ・カルマ。『聖障の魔女』です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。

それでは、良き旅を。

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