第2話:気付かれない英雄
森で遭遇したモンスターから、銀髪の少女リネアを救った主人公。
最弱だと思っていたスキル 《気配ゼロ》 が、まさかの大活躍――。
気付かれない力を武器に、彼の異世界生活は静かに動き出す。
今回は、リネアとともに村へ向かう道中での出来事。
気配ゼロのスキルが、どんな場面で役に立つのか――その真価が試される。
銀髪の少女が逃げ惑う先に、巨大な影が覆いかぶさっていた。
狼よりもさらに大きい──熊と甲殻類を混ぜたような、異様なモンスターだ。
「くっ……もう、走れない……!」
少女が膝をついた瞬間、モンスターが咆哮し、その爪を振り上げた。
――今だ。
俺は呼吸を殺し、気配ゼロのまま敵の背後へ滑り込む。
地面に落ちていた木の枝を掴み、迷う暇もなくモンスターの足首に勢いよく打ちつけた。
バキッ!
分厚い甲殻にヒビが入り、モンスターが苦痛の唸りをあげる。
振り返ったそいつは、まっすぐ少女に狙いを戻す……いや、俺のことをまったく視界に入れていない。
「あんた……なんで、こっちを見ない……?」
少女が呟く。
彼女にも俺が見えていないのかと思ったが、そうではない。少女の視線は俺に向いている。
――どうやら、モンスターだけが俺に気付かないらしい。
「あと一発……!」
ひび割れた甲殻を狙い、俺はさらに木の枝を叩き込む。
鈍い音とともに甲殻が割れ、モンスターがバランスを崩した瞬間を逃さず、少女が拾っていた小型ナイフを投げた。
スパッ。
刃が正確にモンスターの首元へ突き刺さり、巨体が崩れ落ちる。
静寂。
少女は息を切らしながらも、俺を見つめて震える声で言った。
「た、助けてくれたの……? えっと、その……あなた、何者?」
俺は木の枝を置き、ゆっくりと近づく。
気配ゼロのせいで警戒させないよう、あえて地面を踏みしめて音を立てた。
「ただの……通りすがりの人間。たぶん、ね。」
「たぶん?」
「詳しく話すと長くなるけど……気付いたらこの世界に来てて。スキルがちょっと変で……」
少女は目を丸くしたあと、ふっと微笑んだ。
「私はリネア。さっきは本当にありがとう。助けてくれた人を疑う理由なんてないよ。」
リネア。
銀色の髪に青い瞳。年は、俺より少し下だろうか。
弱々しく見えたが、さっきの投擲は相当な腕だった。
「それで……この森にひとりで? 危ないよ。」
「うん、村に戻る途中で魔物に襲われちゃって……。もしよかったら、一緒に来てくれる?」
少女の目に、心細さと信頼が混ざったような光が宿っていた。
俺はほんの一瞬だけ迷ったが──すぐにうなずいた。
「わかった。送っていくよ。」
「ありがとう……!」
こうして俺は、初めての仲間を得た。
そして、この世界の現実をまだ知らないまま、リネアの村へと足を踏み入れることになる。
それが、後に“気付かれない英雄”と呼ばれる最初の一歩になるとは、この時の俺はまだ知らなかった。
読んでくれてありがとう!
最弱スキル《気配ゼロ》、やっぱり便利すぎる……
主人公はまだまだ影で動くつもりだけど、気付かれないうちに事件は増えていきそうです。
次回もこっそり楽しんでくださいね!
リネアとの旅路は、まだ始まったばかりです。




