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第94話:英雄たちの新しい日常

丘の上の我が家での、最初の朝。

私は、船の揺れでも、宿屋の見慣れない天井でもなく、自分の部屋の、自分のベッドの上で、目を覚ました。窓から差し込む、穏やかな朝の光。遠くから聞こえてくる、町の、活気のある音。そして、部屋を満たす、「歌う真珠」が奏でる、優しい海の歌。

これら全てが、ここが、もはや、旅の、一時的な、宿り木ではなく、私の、本当の、我が家なのだと、教えてくれていた。


私が、階下へと、降りると、そこには、すでに、幸福な「日常」の光景が、広がっていた。

レオナルドは、真新しい、キッチンで、この町で、採れた、珍しい、キノコを使った、朝食の、調理に、夢中になっている。

アレンは、裏庭に、作った、小さな、訓練場で、村の、子供たち、数人に、木の剣を、使って、剣術の、初歩を、教えていた。その、顔は、これまでの、どんな、戦いの時よりも、真剣で、そして、楽しそうだった。


私たちの、新しい、生活。

それは、私たちが、それぞれ、この町での、新しい「役割」を、見つけていく、過程でもあった。


私は、家の、一室に、ささやかな、「相談所」を、開いた。

噂を、聞きつけた、町の人々が、ひっきりなしに、私の元を、訪れる。

「畑の、連作障害に、ついて、知恵を、貸してほしい」

「隣町との、交易で、少し、揉めていてね」

「息子たちの、遺産相続が、こじれて、困っているんだ」

それらは、国を、動かすような、大きな、策略ではない。だが、人々の、生活に、根差した、切実な、問題だった。私は、私の、知識と、知恵で、それらを、一つずつ、解きほぐしていく。その、一つ一つが、私の、心に、深い、満足感を、与えてくれた。人々は、私のことを、いつしか、「丘の上の賢者様」と、呼ぶようになった。


レオナルドは、町の、病院の、名誉顧問として、 healers に、指導をしながらも、彼の、本当の、情熱を、別の、場所に、見出したようだった。

彼は、週に、一度だけ、広場で、「青空料理教室」を、開いた。世界中を、旅して、学んだ、様々な、料理を、町の、主婦たちに、教えるのだ。彼の、教室は、瞬く間に、町で、一番の、人気となり、アイアンロックの、食文化は、飛躍的に、豊かになった。彼は、「豊穣の聖者」から、「味の聖者」へと、その、称号を、増やしていた。


アレンは、町の、非公式な、「守護神」であり、全ての、子供たちの、頼れる、兄貴分だった。

彼は、子供たちを、集めて、「アイアンロック少年団」を、結成。剣術だけでなく、丈夫な、柵の、作り方や、森での、安全な、遊び方、お年寄りの、手伝い方まで、教えた。彼の、力は、もはや、破壊のためではなく、この町を、作り、守り、育むために、使われていた。


その日の、夜。

私たちは、星の鉄の、食卓を、囲んでいた。

レオナルドが、作った、温かい、夕食。

アレンが、語る、少年団の、子供の、武勇伝。

私が、話す、少し、厄介だった、相続問題の、顛末。

それは、どこにでもある、ありふれた、しかし、私たちにとっては、何よりも、尊い、家族の、食卓だった。


食事が、終わり、私たちは、暖炉の、前に、座る。

壁には、私たちの、旅の、記憶が、星屑の糸で、織り上げられ、穏やかな、光を、放っている。


私は、燃える、炎を、見つめながら、かつての、自分を、思い出していた。

政略と、陰謀の中で、心を、凍らせ、ただ、勝利と、生存のためだけに、生きていた、孤独な、令嬢。

その、人生と、今の、この、温かい、生活を、比べる。

そして、悟るのだ。

今の、私こそが、人生で、最も、幸福で、そして、最も、「強い」のだと。


「……幸せか?」


薪を、くべながら、アレンが、不意に、そう、尋ねた。

あまりに、単純で、そして、真っ直ぐな、問い。

私は、暖炉の、炎と、かけがえのない、仲間たちの、顔、そして、この、温かい、我が家を、見渡し、心の底から、微笑んだ。


「ええ、アレン」


その声は、自分でも、驚くほど、穏やかだった。


「わたくしが、なれると、思っていた以上に、ずっと」


壮大な、冒険譚は、終わった。

そして、始まったのだ。

どこまでも、続く、穏やかで、幸福な、私たちの、本当の、人生が。

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