第87話:火山の鍛冶師と山の心臓
星降りの谷の、美しい思い出を胸に、私たちの旅は続いた。次に目指すは、頑丈で、仲間たちが集うにふさわしい、最高の食卓。
ホープウィング号は、緑豊かな谷を越え、やがて、空が、煙と灰で、霞がかった、広大な、火山地帯へと、その翼を進めた。
大地は、黒い溶岩で覆われ、その中心には、巨大な、活火山が、今なお、赤い、マグマを、静かに、噴き上げている。
私たちが、目指す、ドワーフの都、「カラク・ドゥルン」は、その、活火山の、内部に、築かれていた。
ホープウィング号が、巨大な、洞窟の、船着き場へと、降り立つと、そこは、別世界だった。
溶岩の川が、黒曜石の水路を、流れ、絶え間なく、響き渡る、槌の音と、熱気が、この都の、力強い、生命力を、物語っている。
ドワーフたちは、頑固で、誇り高い、種族だった。彼らは、私たちのことを、値踏みするように、じろじろと、見てくる。彼らが、認めるのは、ただ、実力のみ。
私たちは、伝説の鍛冶師、「鉄腕のボリン」の、工房を、探した。
彼の、工房は、火山の中でも、一際、熱気の強い、溶岩流の、すぐ、傍にあった。
ボリンは、私たちの、想像通りの、ドワーフだった。低く、頑強な、肉体。銀の、輪で、編み込まれた、長い、髭。そして、燃え盛る、石炭のように、鋭い、瞳。
「星の鉄で、打った、食卓が、欲しい、だと?」
私たちの、依頼を、聞くと、彼は、鼻で、笑った。
「わしの、槌は、魂のない、依頼者のためには、振るわれん。その、価値が、あるか、どうか。お前たちの、魂で、示してみせよ」
彼は、私たちに、一つの、試練を、課した。
「この山の、心臓部、溶岩の、川の、奥深くには、灼熱の中でも、決して、溶けぬ、『山の心臓』と呼ばれる、奇跡の、冷却石が、眠っている。それを、わしの、元へと、持ち帰ることが、できたなら、お前たちのための、食卓を、打ってやろう」
それは、アレンの、力が、試される、純粋な、試練だった。
私たちは、覚悟を決め、灼熱の、溶岩洞窟へと、足を踏み入れた。
洞窟の中は、焦げるような、熱気と、有毒な、火山ガスに、満ちていた。
「聖なる、癒しの、オーラよ! 我らを、この、灼熱から、お守りください!」
レオナルドの、神聖魔法が、私たちを、包み込み、致死的な、熱から、守ってくれる。
「この、道ですわ! 岩盤の、流れを、読めば、安全な、ルートが、見えてきます!」
私の、知恵が、迷宮のような、洞窟の中で、進むべき、道を、示し出す。
そして、アレンは。
道中で、襲いかかってくる、炎の、怪物を、その、力で、打ち払い、崩れ落ちてきた、岩盤を、その、拳で、砕き、道を、切り開いていく。
私たちは、ついに、最深部に、たどり着いた。
そこには、マグマの、大河が、流れ、その、中央に、浮かぶ、黒曜石の、小島の上に、拳ほどの、大きさの、青白い、光を放つ、結晶が、鎮座していた。
「山の心臓」。
「俺が、取ってくる!」
アレンは、レオナルドの、守護魔法を、受けながら、不安定な、足場を、神速の、レガリアの力を、使って、飛び越えていく。
そして、彼が、山の心臓を、その手に、掴んだ、瞬間だった。
洞窟全体が、崩壊を、始めた。
私たちは、必死で、元来た道を、駆け抜け、間一髪、洞窟からの、脱出に、成功した。
ボロボロの、姿で、ボリンの、工房へと、戻った、私たちが、山の心臓を、差し出すと、頑固な、老ドワーフは、その、目を、大きく、見開き、そして、腹の底から、豪快に、笑った。
「ガッハッハ! やり遂げおったか、若造ども! その、魂、気に入った!」
彼は、槌を、手に取り、祭壇に、飾られていた、星の、欠片――隕鉄の、塊を、炉の中へと、放り込んだ。
「約束だ。お前たちのための、一万年は、保つ、最高の、食卓を、打ってやろう。……少し、時間は、かかるぞ」
その言葉と、共に、ボリンの、最初の、一振りが、赤く、焼けた、星の鉄へと、振り下ろされる。
カーン!という、澄んだ、金属音が、火山の、心臓部に、響き渡った。
私たちは、また一つ、自らの、行いで、最高の、宝物を、手に入れる、約束を、勝ち取ったのだ。
私たちの、家は、少しずつ、世界中の、魂の、欠片で、満たされていく。




