第85話:星屑の織り手と受け継がれる伝統
三脚の、完璧な、椅子を、ホープウィング号の、船室に、迎え入れ、私たちの、心躍る、家財探しの、旅は、続いた。
「よし、次は、絶対に、でっかくて、頑丈な、食卓だ!」
「いえ、アレン殿。食卓には、それに、ふさわしい、壁掛けも、必要でしょう。例えば、豪華絢爛な、宴の、様子を、描いた、タペストリーなど!」
いつものように、議論を、始める、仲間たちに、私は、一つの、物語を、聞かせた。
「東の、霧深き、谷に、空から、降る、星屑を、糸として、布を、織る、一族が、いるそうですわ」
その、あまりに、幻想的な、響きに、二人は、すぐに、心を、奪われた。
私たちは、その、「星降りの谷」を、目指し、ホープウィング号を、東へと、進めた。
数日後、私たちは、その谷へと、たどり着いた。
そこは、息を、呑むほど、美しい、場所だった。夜になれば、空は、まるで、ダイヤモンドを、敷き詰めたかのように、輝き、そして、確かに、きらきらと、輝く、光の、粒子が、星屑のように、ゆっくりと、谷底へと、舞い降りてくる。
谷の、小さな、村で、私たちは、伝説が、真実であったことを、知った。
村の、織り手たちは、特殊な、魔法の、織り機を使い、この谷に、満ちる、清浄な、魔力エネルギー――「星屑」を、捕らえ、それを、淡く、輝く、奇跡の、糸へと、紡ぎあげていたのだ。
だが、その、美しい、伝統は、今、まさに、途絶えようとしていた。
複雑で、時間のかかる、古の、織りの、技術は、村の、若者たちにとって、もはや、古臭く、魅力のない、ものとなっていたのだ。
村に、ただ一人、残った、最後の、織り手である、老婆、ライラは、私たちに、寂しそうに、そう、語ってくれた。
私たちは、ライラに、私たちの、新しい、家のための、タペストリーを、織っては、もらえないかと、頼んだ。
だが、彼女は、静かに、首を、横に振った。
「……わしの、民さえもが、この、星屑の、価値を、忘れようとしている。そんな、今、なぜ、よそ者のために、わしが、織らねば、ならんのだね」
これは、力や、金では、解決できない、問題。
その、土地の、伝統への、深い、敬意と、理解が、問われていた。
私たちは、彼女に、無理強いは、しなかった。
その、代わり。
アレンは、巨大で、複雑な、織り機の、メンテナンスを、手伝い始めた。その、力強い腕で、重い、部品を、運び、修復する。彼は、その、肉体労働に、宿る、職人の、誇りに、敬意を、示したのだ。
レオナルドは、ライラの、傍らに、座り、この、谷に、伝わる、古い、物語や、織りの、歌に、ただ、静かに、耳を、傾けた。彼は、この、織りという、行為が、一種の、祈りであることを、理解したのだ。
そして私は、その、知恵で、彼女の、技術を、「改良」しようとするのではなく、ただ、正確に、「記録」し、後世へと、残す、手伝いを、始めた。その、あまりに、複雑な、模様は、一種の、生きた、魔法の、プログラム言語のようだった。
私たちの、その、ひたむきな、姿は、村の、若者たちの、心を、少しずつ、動かしていった。
「退屈で、古い、だけ」だと、思っていた、自分たちの、伝統に、あの、伝説の、英雄たちが、これほどの、敬意を、払っている。その、事実は、彼らの、心に、再び、故郷への、誇りという、火を、灯したのだ。
一人の、少女が、私の、記録を、興味深そうに、覗き込み始め、一人の、少年が、アレンに、「手伝わせてくれ」と、声を、かけてきた。
その、光景を、見ていた、ライラの、瞳から、一筋の、涙が、こぼれた。
彼女は、全てを、悟ったのだ。伝統とは、ただ、固陋に、守るものではない。新しい、世代へと、その、心を、伝え、受け継がせていくものなのだと。
「……分かったよ」
ライラは、私たちに向き直り、初めて、優しい、笑顔を、見せた。
「あんたたちのための、タペストリー、この、わしが、最高の、一枚を、織り上げてやろう。……だが、一つ、条件がある」
「なんだい?」
「もう少しだけ、この、村に、いておくれ。そして、わしが、この子らに、織りを、教えるのを、手伝っておくれ。イザベラの、その、記録は、新しい、教科書になるだろう。アレンの、その、力は、労働の、尊さを、教えるだろう。そして、レオナルドの、その、魂は、この、技術に、宿る、心を、伝えてくれるだろう」
私たちは、もちろん、その、申し出を、喜んで、受け入れた。
その日の、午後。
ライラの、織り機の、周りには、目を、輝かせた、村の、子供たちが、輪を、作っていた。その、傍らで、私が、複雑な、模様の意味を、解説し、アレンと、レオナルドが、穏やかに、その、光景を、見守っている。
私たちは、家のための、装飾品を、探しに来て、そして、一つの、美しい、伝統が、未来へと、受け継がれていく、その、瞬間に、立ち会うことになった。
私たちの、家作りの、旅は、いつも、誰かの、故郷を、守る、旅へと、繋がっていくようだった。




