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第83話:祭りのあと、そして我が家

創立祭の、熱狂的な、一夜が、明けた。

町は、祭りの、後の、心地よい、静けさと、幸福な、余韻に、包まれている。

私たちは、かつての、薄暗い、酒場が、見事に、生まれ変わった、清潔な、宿屋、「英雄の休息亭」の、一番、良い部屋で、目を、覚ました。


「うぅ……。食いすぎた……」


アレンが、幸せな、二日酔いのような、うめき声を、上げている。レオナルドは、すで、に、階下の、食堂で、昨夜の、祭りの、料理について、宿屋の、主人と、真剣な、美食談義を、交わしていた。

私は、窓の外、穏やかな、朝の、光に、照らされる、平和な、町並みを、ただ、ぼんやりと、眺めていた。

祭りは、終わった。

そして、あの、胸を、よぎった、問いが、再び、私の、心に、浮かび上がる。

――わたくしたちは、この先、どこへ、向かうのだろう。


その、答えは、思わぬ、形で、町の方から、私たちに、差し出された。

その日の、午後。私たちは、ゲルドさんをはじめとする、町の、長老たちから、正式な、会合の、席に、招かれた。

彼らは、私たちに、これ以上、何かを、求めることはなかった。

その、逆だった。


「イザベラ様、アレン様、レオナルド様」


ゲルドさんが、町の、全員の、総意として、私たちに、告げた。


「我ら、町議会は、満場一致で、決定した。この、アイアンロックの、町が、一番、美しく、見渡せる、あの、丘の上に、貴殿らのための、家を、建てさせて頂きたい」

「……家、ですって?」

「そうだ。あんたたちは、俺たちに、『故郷』を、くれた。だから、今度は、俺たちが、あんたたちに、『故郷』を、お返しする番だ。ずっと、ここに、いろとは、言わねえ。だが、いつ、旅に、疲れても、必ず、帰ってこられる、本物の、我が家を、あんたたちに、持っていて、欲しいんだ」


その、あまりに、温かく、そして、心のこもった、申し出に、私たちは、言葉を、失った。

この、世界に、私たちの、家。

私たちが、いつでも、帰れる、場所。


私たちは、三人だけで、その、申し出について、話し合った。

レオナルドは、深く、感動していた。「家……。なんと、素晴らしい、響きでしょう。ですが、わたくしの、巡礼は、まだ、道半ば。されど、帰るべき、場所が、あると、知ることは、その、旅路に、新たな、意味を、与えてくれますな」

アレンは、正直に、迷っていた。「家、いいな! すっげえ、いい! でも、世界は、まだ、広いんだよな……。まだ、見てねえ、景色も、食ってねえ、美味いもんも、いっぱい、あるし……」


そして、私は。

全てを、失った、私にとって、その、申し出は、抗いがたいほど、魅力的だった。

安全な、港。根を、下ろせる、場所。私の、心の、一部は、今すぐ、頷けと、叫んでいた。

だが、私は、アレンの、冒険を、求める、瞳を、見た。レオナルドの、穏やかな、使命感を、見た。

そして、何よりも、私自身が、まだ、この、旅を、終わらせたくないのだと、気づいた。

この、ホープウィング号の、上で、仲間たちと、過ごす、この、自由な、時間こそが、今の、私の、本当の、「家」なのだと。


私たちは、ゲルドさんたちの、元へと、戻った。

そして、私は、三人を、代表して、答えた。


「……あなたの、その、お申し出は、わたくしたちが、これまでの、人生で、受け取った、何よりも、名誉な、贈り物です。感謝を、込めて、お受けいたします。ぜひ、あの丘の上に、わたくしたちの、家を、建ててください」


ゲルドさんたちが、喜びに、顔を、輝かせる。

私は、いたずらっぽく、微笑んで、続けた。


「ですが、ゲルドさん。家というものは、世界中の、素敵な、家具や、装飾品で、飾られてこそ、完成するものでしょう?」

「わたくしたち、その、最高の、家具を、探すために、もう少しだけ、旅を、続けなければ、ならないようですわ」


それは、彼らの、温かい、贈り物を、心から、受け入れ、そして、同時に、私たちの、自由な、旅を、続けるための、最高の、口実だった。

私たちの、羅針盤のない、旅に、新しい、そして、何とも、心躍る、目的が、できたのだ。

――世界一の、我が家を、作るための、宝探しの、旅。


数日後。

私たちは、丘の上に、建てられる、家の、簡単な、設計図を、町の人々と、笑い合いながら、描き上げた。

そして、ホープウィ-ング号へと、乗り込む。

町の人々は、涙ではなく、「いってらっしゃい!」という、満面の、笑顔で、私たちを、見送ってくれた。


「それで、イザベラ!」


大空へと、舞い上がった、船の上で、アレンが、尋ねる。


「最初の、家具、何にするんだ?」


私は、世界の、地図を、広げた。

その、ページは、もはや、空白ではない。無限の、可能性に、満ちている。


「南の、職人の街に、伝説の、名工が、いるそうですわ。その男が、作る、椅子は、まるで、雲の上に、座っているかのような、座り心地だとか」

「――まずは、それを、手に入れに、参りましょうか」


私たちの、新しい、冒険が、また、始まった。

今度は、世界を、救うためではない。

ただ、私たちの、ささやかな、幸福な、未来を、その手で、作り上げるための、旅だった。

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