第82話:約束の祭り、英雄の帰郷
一年という、長いようで、短い、旅の果て。
私たちのホープウィング号は、再び、懐かしい、山脈の上空へと、その翼を、進めていた。
眼下に、広がるのは、アイアンロックの、町。
だが、その姿は、私たちの、記憶にある、それとは、また、大きく、その姿を、変えていた。
町は、色とりどりの、旗や、ランタンで、飾られ、中央広場には、この日のために、作られたであろう、巨大な、やぐらが、組まれている。町中から、楽しげな、音楽と、人々の、笑い声が、聞こえてくるようだった。
今日は、約束の、創立祭の日。
私たちの、銀翼の船が、姿を現すと、町中から、割れんばかりの、大歓声が、上がった。
広場に、用意された、特別な、着陸地点に、ホープウィング号が、降り立つと、組合長の、ゲルドさんを、先頭に、町の人々、全員が、私たちを、出迎えてくれた。
私たちが、タラップを、降りた、その瞬間。
空に、無数の、花びらが、舞った。
町の、楽団が、この日のために、作ったという、勇壮で、そして、どこか、温かい、英雄の、テーマ曲を、奏でる。
それは、少し、気恥ずかしくなるほど、盛大で、そして、心の底から、温かい、歓迎だった。
アレンは、満面の笑みで、手を振り、レオナルドは、聖者のように、穏やかに、頷く。そして、いつもは、冷静な、私でさえ、この、光景を前に、自然と、頬が、緩むのを、抑えることは、できなかった。
やぐらの上に、立った、ゲルドさんが、その、しゃがれた、しかし、力強い声で、祭りの、開会を、宣言した。
彼は、この町が、絶望の、淵にあった、あの日々のことを、語り、そして、三人の、見知らぬ、旅人が、いかにして、この町に、希望の光を、もたらしたかを、語った。
そして、彼は、最後に、こう、叫んだ。
(事前に、彼には、私たちの、本当の名を、明かす、許可を、与えていた)
「皆、聞いてくれ! 今日、この日、我らが、本当の、恩人たちが、帰ってきてくださった! 我らが、町の、真の、創立者たちを、最大の、声で、迎えようではないか!」
「その、気高き、知性で、我らを、導きし、賢者! イザベラ・フォン・ヴァイスハイト公爵!」
「その、比類なき、力で、我らを、守りし、勇者! アレン様!」
「そして、その、深き、慈愛で、我らを、癒しし、大聖者! レオナルド様!」
広場が、揺れた。
町の人々が、私たちの、本当の名を、愛と、尊敬を込めて、叫ぶ。
イザベラ。アレン。レオナルド。
かつて、アルビオンの、広場で、憎悪と、罵声の中で、呼ばれた、私の名が。
今、この、始まりの町で、歓声と、祝福の中で、呼ばれている。
私の、頬を、一筋だけ、温かい、涙が、伝っていくのを、感じた。
それは、私の、魂が、本当に、救われた、瞬間だったのかもしれない。
祭りは、陽が、落ちるまで、続いた。
アレンは、丸太投げ競争で、町の、新記録を、あっさりと、更新し、十数人の、鉱夫たちを、相手にした、腕相撲大会でも、圧勝。全ての、屋台の、料理を、制覇し、子供たちの、一番の、英雄となっていた。
レオナルドは、大宴会の、主賓として、町の名物となった、「光るキノコのリゾット」の、出来栄えを、称賛し、旅の、土産話を、面白おかしく、語り聞かせ、人々から、喝采を、浴びていた。
私は、その、喧騒から、少し、離れ、ゲルドさんと共に、新しくなった、町を、歩いていた。
子供たちの、声が響く、学校。清潔で、整然とした、病院。
私の、ささやかな、策略が、これほどの、温かい、未来を、生み出した。その、事実が、何よりも、私の、心を、満たしてくれた。
夜になり、鉱山で、採れた、特別な、魔法の、粉末を使った、色とりどりの、花火が、夜空を、彩る。
私たちは、新しくなった、組合の、建物の、バルコニーから、その、光景を、眺めていた。
眼下には、手を取り合って、踊り、笑い合う、幸せな、人々の、輪が、広がっている。
始まりの、場所に、私たちは、帰ってきた。
そして、そこは、私たちが、想像した以上に、温かく、そして、輝かしい、場所に、なっていた。
それは、まるで、長い、長い、物語の、完璧な、幸福な、結末の、ようだった。
だが、本当に、これが、結末なのだろうか。
この、祭りが、終わった後、私たちは、どこへ、向かうのだろう。
そんな、一抹の、問いが、私の、胸を、よぎったが、今は、ただ、この、完璧な、瞬間に、身を、委ねていたかった。




