第80話:陽の落ちない街と失われた希望
歌う山脈の、美しい音楽を、背に、私たちの、あてのない、旅は、続いた。
ホープウィング号は、広大な、白い、砂漠を、越え、そして、私たちは、信じられない、光景を、目の当たりにした。
砂漠の、 한복판 に、浮かぶようにして、存在する、一つの、都市。
その、街は、全てが、水晶と、光で、作られているかのようだった。そして、その、上空には、夜であるはずの、空に、巨大な、人工の、太陽が、燦然と、輝き、街全体を、永遠の、昼で、照らしていた。
「……陽の、落ちない、街……」
私たちは、その、あまりに、幻想的な、都市、「エセルバーグ」へと、足を踏み入れた。
街の人々は、古代文明の、科学者たちの、末裔だという。彼らは、魔王の、襲撃から、逃れるため、この、完全に、自給自足が、可能な、シェルター都市を、作り上げ、数千年の間、外界と、隔絶して、生きてきたのだ。
彼らは、皆、極めて、理知的で、論理的。だが、その、代償としてか、どこか、感情が、希薄で、冷たい、印象を、受けた。
私たちを、出迎えたのは、この街の、指導者だという、老科学者、プラエトル・ヴァレリウスだった。彼は、私たちの、乗ってきた、ホープウィング号に、強い、興味を、示した。
「……信じられん。古代の、遺物が、まだ、空を、飛んでいたとは」
そして、彼は、私たちに、この、完璧に見える、都市が、抱える、絶望的な、問題を、語ってくれた。
街を、照らし続ける、あの、人工太陽、「ヘリオス・コア」が、ついに、その、寿命を、迎えようとしているのだという。光は、日に日に、弱まり、原因不明の、エネルギー障害が、頻発している。
彼らの、科学と、論理を、以てしても、その、修理方法は、見つからない。ヘリオス・コアは、もはや、彼らにも、完全には、理解できない、古代の、ブラックボックスなのだ。
「我々の、計算によれば、コアの、完全な、機能停止まで、あと、三ヶ月。その後、この街は、永遠の、闇と、氷に、閉ざされる。我らは、滅びるのだ」
彼は、その、絶望的な、未来を、まるで、他人事のように、淡々と、告げた。
この街は、希望を、失い、ただ、論理的な、諦観の中で、静かな、死を、待っているだけだった。
この、問題は、私たちの、それぞれに、異なる、壁となって、立ちはだかった。
私は、街の、記録保管庫に、籠り、ヘリオス・コアの、膨大な、設計データを、解析する。だが、その、構造は、あまりに、複雑で、私の、知恵を、以てしても、物理的な、解決策は、見いだせない。
アレンは、その、力を、全く、生かせずにいた。太陽を、殴って、治すことは、できない。彼は、感情の、ない、街の人々に、戸惑い、少し、寂しそうだった。
レオナルドの、神聖魔法も、機械には、通じない。彼の、信仰の、言葉も、科学を、信奉する、この街の人々には、届かなかった。
数日後。
解析を、続けていた、私は、ついに、一つの、可能性に、たどり着いた。
ヘリオス・コアは、ただの、機械ではない。その、動力源は、創設者たちが、込めた、「希望」や、「より、輝かしい、未来」といった、「概念」そのもの。
そして、この街の人々が、未来への、希望を、失ったことで、コアは、文字通り、その、燃料を、失い、消えかけているのだ。
だが、どうすれば、太陽に、「希望」を、再充填できるというのか。
その、あまりに、非論理的な、問いへの、答えを、見つけ出したのは、私の、知恵ではなかった。
アレンの、単純な、優しさと、レオナルドの、揺るぎない、信仰だった。
「理屈は、分からねえけどよ」
アレンが、言った。
「要するに、みんなが、元気になれば、太陽も、元気になるってことだろ? なら、祭りでも、すりゃあ、いいんじゃねえか!」
「祭り……! そうです、それですぞ、アレン殿!」
レオナルドが、手を、打った。
「科学では、ありません。ですが、感謝を、捧げるのです! これまで、我らを生かしてくれた、太陽へ。そして、仲間たちへ!」
その、あまりに、非科学的な、提案に、最初は、戸惑っていた、街の人々。だが、滅びを、待つだけの、彼らにとって、それは、最後の、娯楽のようにも、思えた。
レオナルドは、街で、初めての、「感謝祭」を、開催した。アレンは、その、持ち前の、明るさで、祭りの、準備を、手伝い、人々を、巻き込んでいく。
そして、祭りの日。
最初は、ぎこちなかった、人々が、レオナルドの、祈りの言葉と、アレンの、屈託のない、笑顔の中で、少しずつ、その、心の、殻を、破り始めた。
彼らは、生まれて初めて、語り合った。太陽の、思い出を。仲間への、感謝を。そして、ほんの、僅かな、明日への、希望を。
その、瞬間だった。
空に、輝く、ヘリオス・コアが、ひときわ、強く、輝いた。
弱々しかった、光が、力強さを、取り戻し、安定していく。
人々の、「希望」が、本当に、太陽の、燃料と、なっていたのだ。
街の人々は、その、論理では、説明できない、奇跡の、光景を、ただ、呆然と、見上げていた。
私たちは、機械を、修理したのではない。
人々の、心を、癒したのだ。
ホープウィング号が、再び、本当に、明るくなった、街を、後にする。
私は、この旅で、また、一つ、大切なことを、学んだ。
世界を、動かす、最も、偉大な、力とは。
希望、信仰、そして、愛といった、いつだって、最も、非論理的な、ものなのだと。




