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第79話:歌う山脈と最後の竜

アイアンロックでの、祭りへの、約束。

その、一年という、長い、時間を、道標として、私たちの、羅針盤のない、旅は、続いた。

ホープウィング号は、世界の、まだ、誰も、見たことのない、景色を、私たちに、見せてくれた。


数ヶ月後。

私たちは、巨大な、山脈の、上空を、飛んでいた。

その、山々の、頂は、常に、深い、霧に、覆われ、そして、その、霧の、奥からは、まるで、風が、竪琴を、奏でるかのような、不思議で、美しい、音楽が、常に、響き渡っていた。

「歌う、山脈」。私たちは、その、山脈を、そう、名付けた。


だが、その、美しい、音楽に、最近、不協和音が、混じり始めていることに、レオナルドが、最初に、気づいた。

「……悲しい、歌声が、聞こえます。助けを、求める、魂の、歌が……」


私たちは、その、悲しい、歌声を、頼りに、山脈の、奥深くへと、進んだ。

そして、発見した。

雲を、突き抜けた、先の、断崖絶壁に、まるで、鳥の巣のように、へばりつくようにして、存在する、古びた、石造りの、僧院を。

私たちが、ホープウィング号を、着陸させると、現れたのは、背中に、美しい、鳥の、翼を、持つ、穏やかな、翼人たちの、一族だった。


彼らは、私たちに、その、苦境を、語ってくれた。

この、山脈を、満たす、音楽こそが、彼らの、力の、源泉。だが、最近、その、音楽が、日に日に、弱まり、「静寂」が、山を、支配し始めているのだという。その、影響で、彼らの翼は、力を失い、空を、飛ぶことさえ、困難に、なりつつある、と。

その、「静寂」の、発生源は、この山脈の、最も、高い、頂、「指揮者の尖塔」と呼ばれる、聖なる、場所に、あるらしかった。


私たちは、彼らを、助けることを、約束し、その、尖塔へと、向かった。

そして、その、頂で、私たちは、見つけた。

「静寂」の、正体を。


それは、悪意に満ちた、魔物ではなかった。

雲海の上に、その、巨大な、体を、横たえる、一頭の、壮麗な、天空の、竜。

天空竜スカイ・レヴィアタン」。

だが、その、神々しいまでの、巨体は、もはや、その、生命の、輝きを、失いかけていた。

彼は、ただ、静かに、死を、待っていたのだ。

老いと、そして、孤独によって。

彼は、この世界で、生き残った、最後の、一頭だった。

彼が、発する、声なき、悲しみの、歌。その、あまりに、強大な、絶望が、この、山脈の、調和を、乱し、音楽を、消し去っていたのだ。


「……こいつは」


アレンが、大剣を、構えようとするのを、私は、手で、制した。


「待って、アレン。この相手は、剣で、倒せる、敵では、ありませんわ」

「その通りです」と、レオナルドが、悲しげに、頷く。「彼の、魂は、もう、完全に、生きることを、諦めてしまっている。ただ、独りで、世界の、終わりを、待っているだけなのです……」


倒すことも、救うことも、できない。

では、どうすればいいのか。


私たちは、ただ、その、巨大な、天空竜の、前に、座り込んだ。

そして、私たちの、魂を、繋ぐ、「調和のレガリア」の、力を通して、私たちの、これまでの、旅の、記憶を、彼に、静かに、語りかけ始めた。

断罪の、絶望も、新しい、出会いの、喜びも。激しい、戦いの、記憶も、穏やかな、日常の、温かさも。

私たちは、ただ、伝えた。

あなただけが、独りなのではない、と。

世界には、悲しみも、喜びも、全てが、満ちているのだと。


やがて、レオナルドが、静かに、歌い始めた。

それは、癒しの、歌ではない。ただ、過ぎ去りゆく、命を、見送るための、穏やかで、優しい、鎮魂の、賛美歌だった。

アレンも、そして、私も、その、歌に、自らの、声を、重ねていく。


私たちの、歌声を、聞いていた、天空竜が、数千年ぶりに、その、重い、頭を、ゆっくりと、持ち上げた。

その、古代の、叡智を、宿した、瞳に、初めて、穏やかな、光が、灯る。

そして。

彼は、応えた。

ただ、一音。

しかし、どこまでも、美しく、そして、澄み渡った、歌声を、天に、響かせたのだ。

それは、別れと、感謝と、そして、ようやく、手に入れた、安らぎの、歌だった。


その、最後の、歌声と、共に、天空竜の、巨大な、体は、穏やかな、光の、粒子となって、空へと、溶けていき、きらきらと、輝く、光の、雨となって、歌う山脈へと、降り注いでいった。

「静寂」は、破られた。

山脈には、以前にも増して、力強く、そして、美しい、調和の、音楽が、戻っていた。


私たちが、僧院へと、戻ると、翼の、力を、取り戻した、翼人たちが、大空へと、舞い上がり、感謝の、歌で、私たちを、迎えてくれた。

私たちの、旅は、教えてくれる。

全ての、怪物を、倒す、必要はない。

時には、ただ、その、声に、耳を、傾けることこそが、本当の、救済と、なるのだと。

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