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第78話:旧友からの招待状

嵐の後の、穏やかな航海は、私たちに、新たな、出会いを、もたらした。

ホープウィング号が、発見したのは、世界の、どの、地図にも、記されていない、緑豊かな、諸島だった。

私たちは、しばらく、その、名もなき、楽園で、翼を、休めることにした。


そこでの、日々は、まさしく、夢のようだった。

アレンは、巨大で、温厚な、六本足の、カピバラのような、珍獣と、すっかり、友達になり、毎日、じゃれ合って、過ごしている。

レオナルドは、マンゴーと、イチゴと、太陽の光を、全て、混ぜ合わせたような、奇跡の、果実を、発見し、その、調理法について、延々と、独り言を、呟いていた。

私は、ただ、穏やかに、この、未知の、島の、生態系を、観察し、その、スケッチを、日記に、書き留める。

戦いも、策略も、ない。

ただ、純粋な、発見の、喜びに、満ちた、時間。

こんな、人生が、あるなどと、かつての、私は、想像さえ、したことがなかった。


そんな、ある日の、夕暮れ時。

私たちが、砂浜で、穏やかな、夕食を、楽しんでいると、空の、彼方から、一つの、小さな、光の点が、まっすぐに、こちらへと、向かってくるのが、見えた。

それは、魔法によって、作られた、伝令鳥。長距離の、通信のために、使われる、高度な、魔道具だ。


光の鳥は、寸分の、狂いもなく、私の腕に、舞い降りると、その、嘴に、挟んでいた、小さな、巻物を、差し出した。

巻物に、押された、封蝋。

そこに、刻まれていたのは、アルビオン王国でも、ガレリア連邦でもない。

あの、始まりの町――アイアンロック鉱山協同組合の、槌と、歯車の、紋章だった。


「ゲルドさんから……?」


私は、驚きと、そして、一抹の、不安を、感じながら、その、封を、切った。

だが、そこに、綴られていたのは、助けを、求める、悲鳴ではなかった。

私たちの、心を、温かい、光で、満たす、一つの、招待状だった。


『親愛なる、我らが恩人、賢者イリス殿、山の神アレック殿、そして、豊穣の聖者レオナルド殿へ』


その、少し、気恥ずかしくなるような、呼びかけから、手紙は、始まっていた。


『貴殿らが、我らの町を、救ってくださってから、早、一年が、経とうとしている。貴殿らが、繋いでくれた、交易の道と、残してくれた、知恵のおかげで、我らの町は、今、信じられぬほどの、繁栄を、享受している。

つきましては、来たる、満月の夜。この、町の、再生を祝い、そして、我らが、恩人である、貴殿らへの、感謝を、捧げるための、第一回、「創立祭」を、開催する運びとなった。

この、祭りは、貴殿らのための、祭りだ。

どうか、この日、我らの町へと、その、翼を、休めに、戻っては、きては、くれぬだろうか。

貴殿らが、いなければ、我らの、祝福は、決して、完成しない。


――友、ゲルドより』


私は、その、不器用で、しかし、心のこもった、手紙を、仲間たちに、読み聞かせた。


「祭りだー!」


アレンが、子供のように、歓声を上げる。


「俺たちのための、祭りだって! ご馳走、いっぱい、出るよな!?」

「豊穣の聖者……。ふふふ、実に、わたくし向きの、称号ですな。これは、その、祝福に、応えに行かねば、なりますまい!」


レオナルドもまた、満更でもない、様子だった。

そして、私は。

私の心は、ただ、深い、深い、感動に、打ち震えていた。

王からの、勅命でも、王子からの、救援要請でもない。

ただ、友人からの、「祭りに、来てくれ」という、温かい、招待状。

私たちの、旅に、初めて、与えられた、急ぐ、必要のない、しかし、何よりも、大切な、目的地。


「一年後、ですわね」


私は、世界の、地図を、広げた。


「一年かければ、この、未知の、大陸を、ぐるりと、一周して、ちょうど、間に合いそうですわ」


私たちの、羅針盤のない、旅に、一つの、幸せな、ゴールが、できた。

それは、義務でも、使命でもない。

ただ、「友に、会いに行く」という、温かい、約束。


伝令鳥は、その、役目を、終え、満足げに、夕日の中で、光の、粒子となって、消えていった。

私たちの、未来は、もはや、白紙の、ページではない。

これから、一年間の、素晴らしい、冒険の、思い出で、埋め尽くされるべき、一冊の、旅日記へと、その、姿を、変えたのだ。

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