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第77話:突然の嵐と重なる記憶

私たちの、羅針盤のない、平和な旅。

それは、永遠に、続くかのように、思われた。

だが、世界は、私たちが、救った後も、依然として、広大で、そして、予測不能な、場所だった。

未知の、大洋を、横断していた、ある日の、午後。

水平線の、彼方に、突如として、巨大な、暗雲が、その姿を、現したのだ。


それは、ただの、嵐ではなかった。

雲は、不気味な、紫色に、染まり、その中で、魔力の、稲妻が、まるで、龍のように、のたうっている。

世界の、歪みが、完全に、消え去るには、まだ、長い、時間が必要なのだろう。これは、かつて、世界を覆っていた、巨大な、悲しみの、名残りのような、嵐だった。


「来るわよ! 二人とも、船体を、固定して!」


私は、操縦桿を、強く、握りしめた。

ホープウィング号が、凄まじい、暴風雨の、中へと、突入する。

暴力的なまでの、風が、船体を、叩き、魔法の、稲妻が、容赦なく、私たちの、翼に、降り注いだ。


「こんなもの、通すわけには、いきませんぞ!」


レオナルドが、船の中央で、祈りを捧げる。彼の、神聖な、障壁が、稲妻を、弾き返し、船を、守る。


「マストが、折れちまう!」


アレンが、その、強靭な、肉体で、折れかかった、マストを、支え、荒れ狂う、風と、真っ向から、渡り合っている。

私たちは、必死だった。

それは、まるで、私たちの、これまでの、過酷な、旅路を、凝縮したかのような、試練だった。


その、時だった。

ひときわ、巨大な、風の、塊が、船体を、直撃し、ホープウィング号が、大きく、傾いた。

その、衝撃で、マストを、固定していた、ロープが、一本、断ち切れる。そして、重い、帆桁が、振り子のように、大きく、揺れ、甲板の上にいた、レオナルドへと、襲いかかった。

彼は、障壁を、維持することに、集中しており、その、凶器の、接近に、気づいていない。


「レオナルド!」


私の、悲鳴。

そして、私は、見てしまった。

アレンが、マストを、手放し、レオナルドを、庇うために、その、無防備な、背中を、差し出す、その瞬間を。

創世の祭壇で、私を、守った、あの時と、全く、同じ、光景。

自己犠牲。

彼の、優しさが、生み出す、あまりに、尊く、そして、あまりに、悲しい、選択。


(――させない!)


私の、思考が、加速する。

もう、二度と、誰かの、犠牲の上に、成り立つ、未来など、いらない。


私は、操縦桿を、ありったけの力で、捻じ曲げ、船体を、無理やり、逆方向へと、傾けた。

それと、同時。

私の、意図を、魂で、感じ取ったかのように、アレンの、動きが、変わった。

彼は、ただ、衝撃に、備えるのではない。傾いた、船の、遠心力を、利用し、迫りくる、帆桁を、その手で、掴むと、まるで、柔道の、巴投げのように、その、破壊のエネルギーを、受け流し、海へと、放り捨ててしまったのだ。

私の、知恵と、アレンの、力が、言葉を、交わさずとも、完璧に、一つになった、瞬間だった。


やがて、嵐は、その、勢いを、失い、過ぎ去っていった。

まるで、私たちの、覚悟を、試し終えたかのように。

雨上がりの空には、大きく、美しい、虹が、かかっている。


私たちは、びしょ濡れの、甲板の上で、息を、弾ませながら、ただ、お互いの、顔を、見つめていた。


「すげえ……」アレンが、驚いたように、自分の、手を、見つめている。「なんだか、勝手に、体が、動いたぜ……」

「いいえ」と、私は、首を、横に振った。「あなたの、体だけでは、ありません。わたくしの、手も、勝手に、動いていましたわ。あなたを、信じて」


「……どうやら」


レオナルドが、全てを、理解したように、穏やかに、微笑んだ。


「我らの、調和は、もはや、レガリアの、力による、ものでは、ありませんな。それは、この、旅路の中で、我ら自身の、魂に、深く、刻み込まれたものなのですよ」


私たちは、もう、ただの、策略家と、勇者と、神官の、寄せ集めではない。

一つの、揺るぎない、絆で結ばれた、運命、共同体なのだ。

誰かが、倒れそうになれば、誰かが、支える。

誰かの、犠牲が、必要ならば、その、犠牲さえも、必要としない、第三の道を、全員で、見つけ出す。

それこそが、私たちの、旅が、見つけ出した、本当の、答えだった。


「さて!」


アレンが、いつもの、笑顔で、沈黙を、破った。


「ハラハラしたら、腹が減ったな! レオナルド、今日の、晩飯は、何だ?」


私たちは、顔を、見合わせ、そして、心の底から、笑い合った。

ホープウィング号は、虹の、アーチを、くぐり抜け、再び、未知の、水平線を、目指す。

私たちの、幸福な、結末とは、困難が、一切、ない、世界ではない。

どんな、困難が、訪れようとも、この、三人でなら、必ず、乗り越えていける。

そう、確信できる、この、心、そのものなのだ。

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