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第58話:七つの光と最後の真実

静寂が戻った創世の祭壇。

アレンの体は、レオナルドの慈愛の光によって、奇跡的な速さで回復していた。彼の無謀なまでの自己犠牲が、私たちの揺るぎない絆を証明し、最後の試練を突破する、唯一の鍵となったのだ。


私は、二つの祭壇へと、ゆっくりと歩みを進めた。

右の祭壇には、大盾を模した、重厚なアミュレットが。左の祭壇には、二つのリングが固く絡み合ったかのような、美しい指輪が。

「守護のレガリア」と「調和のレガリア」。


私はまず、「守護のレガリア」を手に取った。ずっしりと重く、しかし、温かい。あらゆる理不尽な暴力から、大切なものを守り抜くという、強い、強い意志を感じる。

私は、回復したアレンの元へと戻り、そのアミュレットを、彼の首にかけた。


「アレン。これは、あなたのものですわ。いいえ……これこそが、あなた、そのものです」


レガリアがアレンの肌に触れた瞬間、まばゆい光を放ち、彼の体へと溶け込んでいく。アレンの纏う黄金のオーラに、決して砕けることのない、絶対的な守護の輝きが加わった。


「すげえ……。なんだか、もう、何も怖くねえ感じだ。みんなを、絶対に守れるって、そう思える」


彼は、力強く、拳を握りしめた。


次に、私は、「調和のレガリア」を手に取った。

これは、誰か一人が持つものではない。私たちの、絆の象徴。

私がそう、心の中で念じた瞬間、不思議なことが起こった。絡み合っていた二つのリングが、ふわりと解け、そして、三つの、全く同じデザインの、シンプルな光の指輪へと、その姿を変えたのだ。


私は、その一つを、自らの指にはめた。

そして、もう一つを、アレンの手に。最後の一つを、レオナルドの手に。

三人が、同時に、指輪をはめた、その瞬間。

私たちは、感じた。魂が、直接、繋がるような、温かく、そして、力強い感覚を。

言葉を交わさずとも、お互いの感情が、思考が、手に取るように理解できる。私たちの心は、今、完璧な「調和」のもとに、一つになったのだ。


そして、七つのレガリア全てが、その主を得た、その時だった。

創世の祭壇、その全てが、地鳴りのような唸りを上げて、共鳴を始めた。壁画が、まばゆい光を放ち、ホールの中央にある、巨大な水晶の柱が、数千年の眠りから覚めたかのように、脈動を始める。


『――ついに、この時が来た』


声が、私たちの頭の中に、直接、響き渡った。

それは、ガーディアンでも、幻影でもない。この創世の祭壇、そのものとも言うべき、古代文明が遺した、最後のメッセージだった。


『七つのレガリアを揃えし者たちよ。汝らは、最後の役目を果たす資格を得た』


水晶は、私たちに、全ての真実を語り始めた。

勇者アレンは、やはり、魔王と呼ばれる、純粋な破壊の概念を滅ぼすためだけに作られた、最終決戦兵器であること。

そして、七つのレガリアは、この創世の祭壇の、真の機能を起動させるための、七つの「鍵」であること。


『祭壇の真の機能とは、この惑星全土を覆う、究極の浄化魔法。魔王の存在を、その残滓に至るまで、この次元から、完全に消滅させるための、神殺しの兵器である』


だが、その声は、こう続けた。

あまりに、無慈悲に。


『――ただし、その起動には、膨大なエネルギーを必要とする。その触媒として、完全に覚醒した勇者の魂を、捧げる必要がある』


「……なんだって?」


アレンの、魂を、捧げる?


『そうだ。世界の救済と引き換えに、勇者の存在そのものが、光の中に、消滅する。それこそが、我らが、数千年の時をかけて用意した、唯一にして、絶対の、救済プログラム……』


これが、結末?

この旅の、全ての答えが、アレンの「犠牲」だと、いうのか。

アレンは、その、あまりに過酷な自らの宿命を、しかし、驚くほど、静かに、受け入れていた。


「……そっか。それが、俺の、仕事だったんだな。……わかったぜ」


彼は、まるで、全てを覚悟したかのように、穏やかに、微笑んだ。


「ダメです! そんなこと、神がお許しになるはずがない! 犠牲の上に成り立つ平和など、偽りです!」


レオナルドが、絶叫する。

だが、私の心は、怒りによって、氷のように、冷え切っていた。

ふざけるな。

冗談じゃない。

この、誰よりも優しくて、お人よしで、私が、命を賭して守ると誓った、この男を。

犠牲になど、させて、たまるものか。


私は、巨大な水晶に向かって、一歩、前に出た。その瞳には、「知恵のレガリア」の光が、爛々と輝いている。


「――お断りしますわ」


私の、静かで、しかし、鋼の意志を込めた声が、神聖なホールに、響き渡った。


「わたくしたちは、あなた方が用意した、その悲劇的な結末を、受け入れるつもりは、毛頭ありません」

「わたくしの知恵も、彼の力も、私たちの絆も、全ては、この理不尽な運命に、抗うためにあるのですから」


私が、古代のシステムに、明確に「否」を突きつけた、その瞬間だった。

創世の祭壇全体が、激しく、揺れた。

七つのレガリアの完全な覚醒と、それを捧げることの拒絶。その矛盾したエネルギーが、この地に眠っていた、最大の災厄を、呼び覚ましてしまったのだ。


ホールの中央に、空間が、裂けた。

そこから、純粋な、底なしの憎悪と、破壊の意思が、黒い霧となって、溢れ出す。

魔王の、残滓。

いや、残滓などではない。この祭壇の奥底に封じられていた、その意識の、本体そのもの。


最後の敵は、守護者でも、システムでもなかった。

私たちの目の前で、ゆっくりと、人の形を成していく、絶望の化身。

魔王が、ついに、その姿を、現したのだ。

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