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第55話:始まりの祭壇と最後の真実

「迅速のレガリア」を手に入れたことで、アレンの戦闘能力は、もはや人間はおろか、伝説上の英雄さえも超える領域へと達していた。

力、知恵(私)、慈愛レオナルド、勇気、迅速。

五つのレガリアは、アレンの中で微かに共鳴し合い、彼の力を、より多角的で、バランスの取れた、洗練されたものへと昇華させていく。

その姿は、古代文明が目指したという、「完璧な英雄」のそれに、限りなく近づいていた。私は、その頼もしい成長に喜びを感じながらも、心のどこかで、彼が「兵器」として完成していくことに、一抹の不安を拭えずにいた。


拠点に戻った私は、早速、「知恵のレガリア」の力を使い、最後の二つのレガリアの情報を解析した。

そして、見つけ出した。


「最後の二つのレガリアは、『守護のレガリア』と『調和のレガリア』」


私は、仲間たちに、解析の結果を告げた。


「これまでのレガリアとは異なり、この二つは、一つの場所に、対となって安置されています。その場所は……この古代魔導文明の中枢にして、全ての始まりの場所。かつて、勇者召喚の禁術が執り行われ、そして、魔王が、この世界に初めて出現したと言われる場所――『創世の祭壇ジェネシス・アルター』」


そこが、私たちの最後の目的地。

この大陸の中心部に位置し、空中に浮かぶ、巨大な神殿。そして、この大陸で、最も魔王の残滓が濃く、最も強力な防衛システムが、今なお稼働している、最後の聖域にして、魔境。


「守護と、調和……。これぞ、世界を支える、最も尊き理念。最後の試練の地に、ふさわしいですな」

「ようし、ラスボスってやつだな! 全員で、絶対に勝つぞ!」


レオナルドは神官として、アレンは勇者として、それぞれの覚悟を決める。

その、決戦を前にした、静かな夜だった。

ホープウィング号の甲板で、一人、星を眺めていたアレンの元へ、私は向かった。そして、ずっと胸の内に秘めていた、「真実」を、彼に告げる覚悟を決めた。


「アレン。あなたに、話しておかなければならないことがあります」


私は、静かに、語り始めた。

エルドリアの禁書庫で見つけた、古い日誌のこと。

この古代文明が、魔王と戦うための「兵器」として、異世界から魂を召喚し、器に定着させるという、禁断の研究を行っていたこと。

そして、彼、アレン自身が、その研究によって生み出された、最後の「勇者」である、ということを。


衝撃的な真実を、アレンは、ただ黙って、聞いていた。

私は、彼が、傷つき、絶望するのではないかと、恐ろしくて、彼の顔を、まともに見ることができなかった。


「……そうか」


長い沈黙の後、アレンは、ぽつりと、そう言った。


「俺、作られたもの、だったのか」


その声は、驚くほど、穏やかだった。

そして、彼は、いつものように、にかっと笑って、続けたのだ。


「でもさ、イザベラ。そんなの、もう、どうでもいいや」

「……え?」

「俺が、イザベラやレオナルドと出会って、一緒にこうして旅をしてきたのは、全部、本当のことだろ? アイアンロックや、ポート・ソレイユの人たちを助けたのも、本当のことだ。たとえ、作られた命だとしても、俺が、ここで生きて、笑ったり、怒ったり、腹いっぱい飯を食ったりしてきた、この時間は、全部、本物だ」


彼の言葉が、私の心の、一番柔らかい場所を、優しく、叩いた。


「……それに」


彼は、少し照れくさそうに、言った。


「今の俺には、イザベラがいる。俺の、『錨』が、な」


その、あまりに強く、そして、あまりに優しい答えに、私は、堪えきれずに、涙をこぼした。

私が守ろうとしていた、この勇者は、私が思っていたよりも、ずっと、ずっと、強かった。

彼は、もはや、誰かに作られた「兵器」などではない。

幾多の困難を乗り越え、仲間を愛し、その魂を輝かせる、誰よりも人間らしい、一人の、尊い人間なのだと、私は、確信した。


全ての覚悟は、決まった。

私たちは、ホープウィング号・改の船首を、最後の目的地へと向けた。

前方には、黒い雷雲と、禍々しい魔力の嵐に包まれた、巨大な浮遊神殿のシルエットが、まるで、天に座す、魔王の玉座のように、浮かび上がっている。


「行きましょう」


私は、涙を拭い、操縦桿を強く握りしめた。


「わたくしたちの旅の、終着点へ。そして、新しい世界の、始まりの場所へ」


私たちの、最後の戦いが、今、始まろうとしていた。

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