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第54話:神速の番人と信頼の軌跡

天空交通管制塔の頂上。私たちの前に立ちはだかった最後の守護者、「ヴェロシティ」は、その名の通り、速度の化身だった。

戦闘が始まった、と思った瞬間には、アレンはすでに数メートル吹き飛ばされ、その頬に一筋の赤い線を刻まれていた。


「くそっ……! 見えねえ……!」


アレンが、初めて、敵の姿を捉えきれない、という事実に、焦りの声を上げる。

ヴェロシティは、音もなく、予備動作もなく、ただ、空間を閃光のように移動し、その軌道上にある全てを、光の刃で切り裂いていく。

アレンが剣を振るえば、その時にはもう、ヴェロシティは彼の背後に回り込んでいる。レオナルドの回復魔法も、アレンが傷を負うその速度に、全く追いつくことができない。

純粋な、絶対的な「速度」という暴力の前で、私たちは、完全に翻弄されていた。


(ダメだわ……。目で見てから、反応していては、間に合わない……!)


私は、「知恵のレガリア」の力を最大限に解放し、神速で動くヴェロシティの軌跡を、必死に分析する。

その動きは、ランダムに見えて、いくつかの法則性があった。彼は、決して曲線を描かない。常に、点と点を結ぶ、最短距離を、直線的に移動している。そして、その攻撃の前には、コンマ数秒にも満たない、しかし、確実な「溜め」の動作が存在する。

問題は、その一瞬の隙を、人間の反射神経では、到底、突くことができない、ということ。


(……反応が、間に合わないのなら)


私は、一つの結論に達した。


(――予測して、先に、動けばいい)


それは、常人には不可能な、神業とも言うべき領域。だが、私の「知恵」と、アレンの「力」、そして、私たちの間の、絶対的な「信頼」があれば、可能かもしれない。


「アレン!」私は叫んだ。「わたくしの言うことを、寸分違わず、信じて動くのです! 考えるな! 感じるな! ただ、わたくしの言葉だけに、あなたの体を、反応させなさい!」

「……!」

「できますわね!?」

「……おうよ!」アレンは、一瞬の戸惑いの後、力強く頷いた。「イザベラを、信じるぜ!」


彼は、完全に、その体の制御を、私に委ねた。

私は、ヴェロシティの行動パターンと、周囲の地形から、彼が次に現れるであろう場所と、その攻撃のタイミングを、数秒先まで、予測する。


そして、私の、未来予知のような、神速の指揮が始まった。


「右に三歩! そのまま、大剣を、斜め下に振り抜きなさい!」


アレンが、まだ何もない空間に向かって、指示通りに剣を振るう。その直後、まさにその剣の軌道上に、ヴェロシティが、音もなく現れ、カウンターの一撃を、まともに食らった。


「今度は、その場で跳躍! 真下を、薙ぎ払え!」


アレンが跳んだ、その足元を、ヴェロシティの光の刃が、紙一重ですり抜けていく。そして、アレンの薙ぎ払った大剣が、空中で体勢を変えようとしたヴェロシティの体に、浅くだが、確かな一撃を加えた。


「背後! 振り向かずに、まっすぐ突きを!」


私たちの連携は、徐々に、その精度を上げていく。

私の予測と、アレンの動きが、完全に、一つに重なっていく。まるで、二人で一体の、完璧な戦士となって、舞を踊っているかのようだった。


そして、ついに、最後の時が来た。

ヴェロシティが、これまでのダメージを回復させるかのように、一度、大きく距離を取り、その光の体を、極限まで収縮させた。最大の攻撃を仕掛けてくる、その予兆。


「アレン!」


私は、確信を持って、叫んだ。


「あなたの正面、五メートル先! そこに、あなたの全身全霊の、最大の一撃を、叩き込みなさい!」


アレンは、迷わなかった。

まだ、敵の姿さえない、その空間に向かって、彼は、自らの持つ力の全てを、黄金のオーラを、大剣の一点に集束させた。

そして、放つ。


その直後だった。

アレンの剣が、まさに、その空間を通過しようとする、その刹那。

ヴェロシティが、最後の攻撃を仕掛けるために、光の矢となって、テレポートのように、そこに、出現した。

彼は、自ら、アレンの、最大にして、最強の一撃に、真正面から飛び込む形となった。


時が、止まったように感じられた。

光と光が、激突し、そして、ヴェロシティの光の体は、アレンの、揺るぎない一撃の前に、貫かれ、霧散していった。


静寂が戻ったプラットフォームで、アレンは、息を切らしながらも、信じられないといった顔で、私を見た。

「すげえ……。イザベラ、お前、本当に、未来が見えるのか……?」


私は、そっと、微笑んだ。

「いいえ。わたくしに見えたのは、未来ではありません。ただ、あなたへの、絶対的な信頼の軌跡が、見えただけですわ」


祭壇の上に残された、「迅速のレガリア」。

アレンが、その一対の足環を装着すると、彼の体が、まるで風そのものになったかのように、軽やかになった。

「すげえ! なんだか、思った通りに、体が、動くぜ!」


彼の思考と、肉体の反応速度が、完全に、一つになったのだ。

五つのレガリアが、今、揃った。残りは、あと二つ。

私たちの旅は、最終局面へと向けて、さらに、その速度を上げていく。

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