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第52話:空の墓標と翼の再誕

「勇気のレガリア」を手に入れたアレンは、その魂の核が、より一層、強く、そして揺るぎないものになったようだった。この滅びの大地に満ちる、魔王の残滓による精神的な圧力にも、もはや彼は眉一つ動かさない。その彼の存在そのものが、私たちパーティ全体の士気を高める、希望の光となっていた。


ヴァルハラ城砦を後にし、拠点である中央管理棟に戻った私は、早速、次のレガリアに関する情報の解析を進めた。

「知恵のレガリア」の力によって、私の頭脳は、大図書館で得た膨大なデータを、瞬時に、そして正確に、読み解いていく。


「見えましたわ。第五のレガリアは、『迅速のレガリア』」


私は、解析結果を仲間たちに告げた。


「それは、かつてこの文明の交通と物流を司っていた、巨大な『天空交通管制塔スカイ・トラフィック・タワー』の頂上に、安置されています」


だが、その場所の現状を示すデータは、私たちに新たな、そして極めて厄介な課題を突きつけた。

「……ただし、その塔は、魔王の攻撃によって半壊。内部の重力制御システムが暴走し、塔の周囲は、無数の浮遊する瓦礫と、ランダムに発生する重力異常地帯が渦巻く、巨大な『空の墓標』と化している、とのことですわ」


その危険な空域を、現在のホープウィング号の性能で突破するのは、あまりに無謀だった。


「ならば、答えは一つですわね」


私は、センチネルやドレッドノート・ドラゴンの残骸から回収した、古代文明のパーツの山を見つめ、言った。


「このホープウィング号を、わたくしたちの手で、さらに強力な機体へと、生まれ変わらせるのです」


こうして、私たちの、飛空艇アップグレード計画が始まった。

アレンは、その怪力で、ドレッドノート・ドラゴンの強固な装甲板を、ホープウィング号の船体補強材として移植していく。レオナルドは、センチネルから回収した、小型の反重力発生装置の回路を、神聖魔法で丁寧に浄化し、その性能を取り戻させていく。

そして私は、それらのパーツを、いかに効率的に、そして有機的に船体に組み込むか、その設計図を、猛烈な勢いで描き上げていった。


改造作業の合間、夕日に染まる滅びの都を眺めながら、レオナルドが、ふと、私に問いかけた。


「イザベラ様。あなたは、この長い旅の終わりに、一体、何を望んでおられるのですか?」


その、あまりに穏やかで、核心を突く問いに、私は、少しだけ、考える時間を置いた。

そして、正直な気持ちを、口にした。


「……そうね。かつてのわたくしは、ただ、自分の命が助かれば、それでいいと思っていました。理不尽な運命から、逃げ延びることだけを、考えていた」


私は、船体の補強作業に夢中になっているアレンの、汗に濡れた背中を見つめながら、続けた。


「でも、今は、違います。この旅の終わりには、あのお人好しの勇者が、もはや『兵器』でも、『勇者』という記号でもなく、ただの一人の人間、アレンとして、自由に、心の底から、笑顔で生きていける未来が欲しい。……そして、もし、許されるのなら」


私の声が、少しだけ、震えた。


「その隣に、わたくしも、いたい。ただ、それだけですわ」


その、私の、ささやかで、しかし、何よりも切実な願いを聞いて、レオナルドは、これまでで一番、優しい顔で、微笑んだ。


「……それは、最高の、そして、最も尊い願いですな」


数日後。

私たちの努力は、一つの奇跡を結実させた。

飛空艇「ホープウィング号・改」が、その新たな姿を現したのだ。船体は、ドラゴンの装甲によって、より流線形に、そして強固に。各所に取り付けられた反重力装置が、青白い魔力の光を漏らし、その機動力の向上を物語っている。


私は、再び、船長席に座り、操縦桿を握った。

エンジンが、以前とは比較にならないほど、力強い鼓動を始める。


「準備は、よろしいかしら? 次の舞台は、重力が荒れ狂う、嵐の空ですわよ」


私の号令のもと、パワーアップしたホープウィнг号・改は、大地を離れ、新たな目的地「天空交通管制塔」へと向けて、力強く、そして、迅速に、発進した。

私たちの翼は、再生した。

どんな困難な空も、この翼とならば、きっと、越えていけるはずだ。

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