表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/113

第50話:勇気の城砦と心の幻影

再生した「生命の揺りかご」を後にした私たちは、飛空艇ホープウィング号の舵を、北へと向けた。

目指すは、第四のレガリア『勇気のレガリア』が眠るという、巨大な要塞遺跡「ヴァルハラ城砦」。かつて、この古代文明の軍事力の中枢であり、兵士たちの育成機関であった場所だ。


やがて、私たちの眼下に、その威容が見えてきた。巨大な山脈を、丸ごとくり抜いて建造されたかのような、あまりに巨大で、威圧的な軍事要塞。魔王の攻撃によって、その城壁は半ば崩壊し、いくつもの塔が折れている。だが、その姿は、今なお、難攻不落の雰囲気を漂わせていた。


「すごい……。あれが、軍事アカデミー……」


私たちが城砦の上空に近づくと、これまでの遺跡とは、また違う防衛システムが、私たちを迎え撃った。

無数の、半透明な兵士のホログラムが、どこからともなく現れ、槍や剣を構えて、ホープウィング号へと襲いかかってきたのだ。


「物理的なダメージはありません! ですが、このホログラムに触れると、精神力がごっそりと削られていきますぞ!」


レオナルドが叫ぶ。これは、かつてこの城砦で行われていた、模擬戦闘訓練システムの暴走。実体を持たないが故に、厄介な敵だった。


「……鬱陶しいですわね」


私は、この無数の仮想兵士たちを前に、一つの策を思いついた。


「アレン! あなたの『勇気』を、見せてやりなさい!」

「勇気? よくわかんねえけど、要するに、気合ってことだな!」


アレンは、甲板の最前線に立つと、その体に宿る、覚醒した勇者のオーラを、一気に解放した。

「うおおおおおおっ!」

黄金色の気迫が、衝撃波となって、周囲へと広がる。すると、中途半端な覚悟で作り出された仮想兵士たちは、その絶対的な王者のプレッシャーに耐えきれず、まるで幻のように、次々と霧散していった。


私たちは、がら空きになった空を突き進み、城砦の崩れた城壁から、その内部へと侵入することに成功した。

城砦の内部は、かつての訓練施設が、魔王の残滓の影響で、悪夢のようなトラップ地帯へと変貌していた。そして、ここでの試練は、その名の通り、私たちの、特にアレンの「勇気」を、徹底的に試すものだった。


最初に私たちが入った部屋は、真っ暗な闇に包まれていた。そして、その闇が、私たちの心の奥底に眠る、「最も恐れるもの」を、幻影として映し出し始めた。


レオナルドは、食べ物が一切なく、水さえも干上がった、飢餓地獄の幻を見て、その場に膝をついた。

私は、再び、あの故郷の断頭台の上に立たされ、憎悪に満ちた民衆の罵声を、一身に浴びせられていた。


そして、アレンは。

彼が見ていたのは、目の前で、私が、正体不明の敵によって、血まみれになって倒れる幻影だった。そして、それを、自分には助ける力がないと、ただ、呆然と見つめている、無力な自分の姿。


「……う……ああ……」


アレンの顔が、絶望に歪む。だが、彼は、歯を食いしばり、その幻影に向かって、叫んだ。


「うるせえッ! 俺は、もう、無力なんかじゃねえッ!」


彼の声が、闇を震わせる。


「イザベラは! 俺が、絶対に、守るんだァァァッ!」


彼自身の「勇気」が、恐怖の幻影を、打ち破った。アレンの心の光が、部屋の闇を払うと、私たちが見ていた幻もまた、嘘のように消え去っていた。


次の試練は、二つの扉だった。

『一方の扉は、安全な道。一方の扉は、汝の仲間が、生命の危機に陥る、罠の道』

という碑文。だが、どちらが正解か、というヒントは、どこにもない。

正しい道を選ぶには、仲間が危険に陥るかもしれない、という最悪の可能性を受け入れ、それでもなお、進むと決める、「決断の勇気」が、問われていた。


「……どっちに進んでも、同じだ」


アレンは、迷いなく、言った。


「仲間が危なくなったら、俺が助ける。それだけだ。だから、こっちだ!」


彼は、理屈ではない。自らの直感と、仲間への信頼、そして、全てを受け入れる覚悟で、右の扉を選んだ。

ゴゴゴ、と音を立てて、その扉は、正解の道へと、その口を開いた。


数々の「勇気」を試す試練を、アレンは、その純粋で、揺るぎない魂で、次々と突破していく。私とレオナルドは、もはや、彼のその背中を、ただ、信じて見守るだけだった。


そして、私たちは、ついに、城砦の最も高い場所にある、「英霊の間」と呼ばれる、巨大なホールにたどり着いた。

その中央の祭壇に、第四のレガリア、「勇気のレガリア」が、誇らしげな光を放って、安置されている。


だが、そのレガリアを守るように、一体の、巨大な影が、ゆっくりと、その身を起こした。

白銀の装甲に、紅蓮の瞳。そして、背中には、鋼鉄の翼。

かつて、この城砦の兵士たちが、模擬戦闘の最終目標としていたという、最強の仮想敵。


『最終シミュレーションヲ、カイシシマス』


無機質な合成音声が、ホールに響き渡る。


『ターゲット:勇者。殲滅目標:ドレッドノート・ドラゴン。……戦闘、開始』


アレンの「勇気」を試す、最後の試験が、今、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ