第42話:希望の翼と空からの道
最初のレガリアである「力のレガリア」を手に入れたことで、アレンには明確な変化が訪れていた。
「なんだか、今まで体の中で暴れてた力が、すっげえ言うことを聞くようになった感じだ。無駄な力を使わなくなったっていうか……」
彼はそう言って、軽く拳を握り、そこに宿る黄金のオーラを、自在に強めたり、弱めたりしてみせた。以前よりも、遥かに精密な力のコントロールが可能になっている。精神的にも安定し、この地に満ちる魔王の残滓による、不快な影響もほとんど感じなくなったようだった。
(レガリアを集めることは、やはり、アレンを「兵器」という呪縛から解き放ち、一人の「人間」へと取り戻していくための、重要なプロセスなのだわ……)
私は、その事実を確信し、決意を新たにした。
私たちは、長期にわたる遺跡探索の拠点として、以前調査した中央管理棟の建物を確保することにした。アレンの力で崩れた瓦礫を撤去し、レオナルドの神聖魔法で、数千年分の埃と邪気を浄化する。そして、破壊したセンチネルの残骸から、まだ使えるエネルギーコアや部品を回収し、イザベラの指示のもと、簡易的な照明や、外部からの侵入者を感知する防衛システムを構築した。
滅びの都の 한복판 に、私たちだけの、ささやかだが安全な「拠点」が誕生した瞬間だった。
拠点で休息を取りながら、私は次のレガリアの場所を探っていた。
情報端末「アーク」から得られた不完全な地図データによると、二番目のレガリアは『知恵のレガリア』。都市の北方に聳え立つ、巨大な塔、「大図書館アルケイア」の最上階に眠っているらしい。
だが、地図を見て、私たちはすぐに大きな問題に突き当たった。
大図書館がある北方の区画は、魔王の攻撃によって生じたであろう、巨大な地の裂け目によって、完全に分断されていたのだ。その裂け目は、あまりに広く、そして深く、歩いて渡ることは不可能だった。
「どうするんだ、イザベラ。あんなの、飛び越えられねえぞ」
「空を、飛ぶしかありませんわね」
私の言葉に、アレンとレオナルドは、きょとんとした顔をした。
私は、彼らを連れて、遺跡都市のはずれにある、巨大な格納庫の残骸へと向かった。そこには、かつてこの都の空を飛んでいたであろう、流線形の美しい「飛空艇」が、何隻も朽ち果てた姿で眠っていた。
「……これを、直しましょう。この古代の船を」
私の無謀とも思える提案に、レオナルドは「い、イザベラ様!? わたくし、機械工学は専門外なのですが……」と、目を白黒させている。
だが、アレンは、目をキラキラと輝かせて言った。
「船を直すのか! すげえ! 面白そうだぜ!」
計画は、すぐに始まった。
私は、アークから得た断片的な設計図と、公爵令嬢として叩き込まれた様々な学問――工学、物理学、錬金術の知識を総動員して、修復計画を立てた。
アレンは、その超人的な力で、巨大な船体の破損箇所を修復し、使えそうな部品を、他の船の残骸から運んでくる。
レオナルドは、最初こそ戸惑っていたが、彼の神聖魔法が、金属の錆を浄化し、細かい魔術回路の汚れを落とすのに、絶大な効果を発揮することに気づき、今ではすっかり、熟練の整備士のような顔で作業に没頭していた。
そして、動力源。
私は、センチネルから回収した、魔王の残滓に汚染された「エネルギーコア」を、レオナルドの神聖魔法で浄化し、そこに、私が持つ最高品質の『魔力鉄鉱』を組み合わせることで、擬似的ながらも、安定した動力を生み出すことに成功した。
数週間にわたる、私たちの知恵と力、そしてチームワークの結晶。
ついに、その日が来た。
格納庫の中で、一隻の小型飛空艇が、数千年の眠りから覚め、その船体を静かに浮上させたのだ。白銀のボディはまだ傷だらけだが、その翼は、確かに、再び空を飛ぶ力を取り戻していた。
「さあ、行きましょう。空から、次の試練の場所へ」
私は、その船の船長席に座り、仲間たちに告げた。
わたくしたちの希望を乗せた飛空艇――仮称「ホープウィング号」は、格納庫の天井を突き破り、滅びの都の大空へと、数千年の時を超えて、再び舞い上がった。
眼下に広がる、壮絶な滅びの光景。
そして、その先に見える、巨大な地の裂け目と、その向こうに聳え立つ、次なる試練の舞台、「大図書館アルケイア」。
私たちの新たな冒険が、今、大空から始まろうとしていた。




