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第39話:七つのレガリアと蠢く影

センチネルとの激しい戦闘を終え、私たちは、再び静寂を取り戻した中央管理棟のホールで、息を整えていた。アレンとレオナルドの傷は、レオナルド自身の治癒魔法で見る間に癒えていく。


「それにしても、とんでもない番人でしたな。あんなものが無数にいたとは……」

「ああ。でも、イザベラの作戦がなけりゃ、危なかったぜ」


仲間たちの言葉を受けながら、私の頭の中は、先ほど情報端末「アーク」から得られた、断片的な情報で満たされていた。


『勇者は、最終決戦兵器』

『起動には、七つの"レガリア"を要す』


(アレンは、兵器……。そして、その力を完全に引き出す、あるいは制御するための鍵が、七つのレガリア。だとしたら、そのレガリアとは、一体……?)


私は、古代文明が、勇者というあまりに強大で不安定な「兵器」を、完全に制御するために作り出した、特殊な魔道具、あるいは権能の証のようなものではないか、と推測した。


「レガリア? なんだそれ、宝物みたいなもんか? よっしゃ、宝探しだな!」

「あるいは、神聖な力を秘めた、聖遺物のようなものかもしれませんな」


アレンは相変わらず楽観的で、レオナルドは神官らしい考察を述べる。その二人の様子が、私の張り詰めた心を少しだけ和ませてくれた。


「アークは、もう動かないのかしら……」


私が、損傷し、光を失った水晶の情報端末に近づいた時、ふと、一つのアイデアが閃いた。


「アレン、例の鉱石を」


私は、エルドリアで手に入れた最高品質の『魔力鉄鉱』をアレンから受け取ると、それをアークの台座にある、エネルギー供給口らしき窪みにはめ込んだ。外部から、質の良い魔力を供給すれば、あるいは……。

私の目論見は、当たった。

魔力鉄鉱から供給された純粋な魔力に反応し、アークは最後の力を振り絞るかのように、再び淡い光を放ち始めた。そして、私の脳裏に、より鮮明な情報が流れ込んでくる。


『七つのレガリアは、勇者の魂を安定させ、その能力を最大限に引き出すための、連動制御ユニット』

『"力"、"知恵"、"慈愛"、"勇気"、"迅速"、"守護"、"調和"。各レガリアは、それぞれが異なる権能を司り、都市の最重要施設七か所に、厳重に封印されている』


そして、アークは、ぼやけてはいるが、この遺跡都市の全体図と、一つの場所を示す光点を、私の目の前に投影した。


『第一のレガリア……"力のレガリア"は、この都市の全エネルギーを管理していた「中央動力炉」の深部に、安置されている』


その地図データを、私が持つ携帯用の魔道具に転送し終えると、アークは「カチリ」と小さな音を立て、今度こそ完全に、その光を失った。


目的は、明確になった。

私たちは、最初のレガリアが眠るという「中央動力炉」を目指し、遺跡都市のさらに奥深くへと、足を進めた。

道中は、魔王によって文明が一瞬で滅ぼされた、生々しい傷跡に満ちていた。人々の生活の痕跡が、何千年も前の姿のまま、時が止まったかのように残されている。それがかえって、この地に起きた悲劇の壮絶さを、私たちに物語っていた。


中央動力炉に近づくにつれて、魔王の残滓は、より一層、濃密になっていく。

その時だった。

地面に染み付いた黒いシミや、瓦礫の影から、もぞもぞと、不定形の黒い影が、いくつも生まれ出たのだ。


「な、なんだ、こいつらは!?」


アレンが叫ぶ。影は、定まった形を持たず、ただ純粋な悪意だけを宿して、私たちに襲いかかってきた。


「くそっ、斬っても手応えがねえぞ!」


アレンの大剣は、まるで空を切るように、その黒い体をすり抜けてしまう。物理的な攻撃が、ほとんど効いていない。


「イザベラ様、お下がりください! これは、純粋な負の感情の塊……! わたくしの癒しの光では、この邪悪な念を、祓いきれません!」


レオナルドの神聖魔法の光も、影に触れた途端に、その輝きを弱めてしまう。

じりじりと後退りする私たち。影たちは、私たちの心に宿る恐怖や絶望を糧にするかのように、その勢力を増していく。


(ダメだ……。このままでは、精神が飲まれてしまう……!)


私が、この地の邪悪な気に引きずられそうになった、その時だった。

私は、はっと気づいた。

アレンの「魂の錨」は、私。ならば、私が、彼の精神を、この絶望から守り抜かねばならない。


「アレン! レオナルド! 惑わされてはなりません!」


私は、力の限り叫んだ。


「奴らの力は、わたくしたちの心が生み出す、恐怖そのものです! 意志を強く持つのです! 希望を、捨てるな!」


私の魂の叫びに、アレンが、はっと顔を上げた。

「……イザベラ……」


彼の瞳に、再び、強い光が宿る。


「そうだ……。俺は、負けねえ……! イザベラが、ここにいるんだからな!」


その言葉に呼応するように、アレンの体を包む黄金色のオーラが、その性質を変えた。ただ物理的な力を示すものではなく、まるで太陽のように、温かく、そして、あらゆる闇を焼き払う「希望の光」そのものへと。


アレンが、再び大剣を振るう。

その光り輝く斬撃は、初めて、影の怪物シャドウに、確かなダメージを与えた。

ジュウウ、と音を立てて、影が蒸発していく。


逆転の糸口は、見えた。

それは、私たちの、揺るぎない「絆」という名の光だった。

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