第38話:狂った守護者と反撃の糸口
白銀の戦闘ゴーレム「センチネル」は、エルドリアで対峙したどの敵とも、次元が違っていた。
その動きは、熟練の剣士のように滑らかで、一切の無駄がない。複数体が完璧な連携を取り、アレン一人に攻撃の的を絞らせない。時折、腕部から放たれる高密度の魔力ビームは、レオナルドの張る神聖な防御障壁を、いともたやすく貫通した。
「くっ……! なんという、高密度の魔力攻撃……! 防ぎきれません!」
レオナルドが悲鳴を上げる。
「こいつら、マジで強えぞ! しかも、チームワークが完璧だ!」
覚醒した力を持つアレンでさえ、複数体を同時に相手取るのは難しいようだった。防戦一方となり、じりじりと追い詰められていく。このままでは、消耗して、いずれはやられてしまう。
(なんてこと……。これが、古代魔導文明の、ただの防衛システムだというの……?)
私は、激しく打ち合うアレンたちを庇いながら、冷静に、必死に、この鉄壁の守護者たちの弱点を探していた。
完璧に見える装甲。完璧に見える連携。だが、どんなに完璧なものでも、必ずどこかに綻びはあるはずだ。
私の目は、センチネルの美しい白銀の装甲に、まるで病巣のようにこびりついた、「黒い変質部分」に釘付けになった。魔王の残滓に侵された部分。あれは、ただの色変わりではない。本来の機能が、正常に働いていない証拠。自己修復機能、あるいは、防御機能そのものが低下している、「弱点」なのではないか。
そして、もう一つ。センチネルたちの動き。彼らは、私たちを攻撃しながらも、常に、ホールの中央にある情報端末「アーク」を、守るような陣形を取っている。彼らの最優先プログラムは、侵入者の排除であると同時に、「アークの防衛」なのだ。
(……見つけたわ。反撃の糸口を)
「レオナルド!」私は叫んだ。「あなたの聖なる力を、センチネルではなく、あの中央の水晶に集中させてください! 奴らが必死で守るものを直接狙えば、必ず、その動きに変化が生まれるはずです!」
「な、なるほど! 目標は、あの水晶ですな!」
「アレン! センチネルのあの黒い部分! そこが、奴らの弱点よ! そこだけを、ピンポイントで破壊なさい!」
「黒いとこか! わかったぜ!」
作戦は、一瞬で共有された。
レオナルドが、祈りを捧げる。彼の持つ聖なる力の全てを、一点に集束させていく。
「おお、聖なる光よ! 彼らが守りし、その記憶の源を、打ち砕け!」
眩いばかりの光の奔流が、レオナルドの手から放たれ、情報端末「アーク」へと向かって、まっすぐに飛んでいく。
その瞬間、センチネルたちの動きが、劇的に変わった。
彼らは、私たちへの攻撃を完全にやめ、プログラムされた防衛本能に従い、一斉にアークの前へと飛び出し、陣形を組んで防御障壁を展開した。
それは、彼らの連携が生み出した、ほんの一瞬の、しかし、致命的な隙だった。
防御に徹したことで、無防備な「黒い病巣」が、アレンの前に、完全に晒されたのだ。
「――今よ、アレン!」
私の絶叫が、合図だった。
アレンは、その一瞬を見逃さない。彼は、もはや目にも留まらぬほどの速度で、全てのセンチネルの懐へと、一気に飛び込んだ。
そして、大剣の切っ先が、閃光のように煌めく。
一撃、二撃、三撃――。
彼は、全てのセンチネルの、黒く変質した弱点の部分だけを、あまりに正確に、的確に、貫いていった。
弱点を破壊されたセンチネルたちは、その体内で魔力が暴走し、火花を散らしながら、次々と機能を停止させていく。一体が、大きな爆発を起こし、その連鎖反応で、最後のセンチネルもまた、轟音と共に砕け散った。
ホールに、再び、死のような静寂が戻った。
「はぁ……はぁ……。やった、みたいだな……」
激しい戦闘を終え、私たちは、その場にへたり込んだ。この滅びの都が、どれほど危険な場所であるかを、改めて、骨身に染みて思い知らされた。
私は、破壊されたセンチネルの残骸に近づいた。その胸部には、黒く変色した「エネルギーコア」が、微かに光を放っている。元々は、計り知れないエネルギーを秘めていたであろう、古代文明の遺産。
そして、私は、レオナルドの攻撃で少し損傷してしまった、情報端末「アーク」に、再び手を触れた。
『もっと情報を……。魔王について……そして、勇者について、何か……』
私の問いかけに、アークは、最後の力を振り絞るかのように、応えてくれた。ノイズ混じりの、断片的な情報が、再び、私の脳裏に流れ込んでくる。
『……対魔王用……最終決戦兵器……コードネーム:"勇者"……』
『……その完全なる起動には、七つの"レガリア"を、要す……』
レガリア?
新たなキーワード。それは、一体何を意味するのか。
勇者は、兵器。その「起動」には、七つの何かが必要だというのか。
私たちの旅の目的が、今、また一つ、示された。
この滅びの都のどこかに眠るという、七つの「レガリア」を探し出すこと。
それが、魔王の謎を、そして、アレンという存在の謎を解く、次なる鍵となるのだ。




