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第24話:古代の番人と暴走する遺産

研究所の最深部に響き渡る、無機質な声。

その声に応えるように、石像のように静止していた数体のゴーレムが、その目に不気味な赤い光を宿して動き出した。全身を鋭利な刃で覆ったその姿は、まさしく古代の戦闘兵器。過去の遺物が、数百年以上の時を経て、私たちという新たな侵入者に牙を剥いたのだ。


「くそっ、こいつら、鉄の塊みたいに硬えぞ!」


アレンが振るう大剣が、先陣を切った一体のガーディアンの胴体を捉える。だが、甲高い金属音と共に火花が散るだけで、ガーディアンはびくともしない。逆に、その腕に仕込まれた刃で、アレンに反撃してきた。


戦闘は、困難を極めた。ガーディアンは、床に描かれた幾何学的な魔法陣の上を移動している間、その動きは目で追うのがやっとなくらい俊敏になり、装甲もさらに硬化しているようだった。アレンの力をもってしても、決定的な一撃を与えられない。


「イザベラ様、このままではジリ貧です! 何か手はございませんか!」


レオナルドが、神聖な障壁でかろうじてガーディアンの攻撃を防ぎながら叫ぶ。

私は、激しい戦闘の様子から一瞬も目を離さず、この古代兵器の攻略法を冷静に分析していた。


(動きは機械的で、単調。だが、あの魔法陣の上にいる限り、その性能は飛躍的に向上する。そして、装甲の継ぎ目、関節部分は、他の部位に比べて明らかに防御が薄い……!)


数秒の分析で、私は勝利への道筋を見出した。


「レオナルド! あなたの聖なる力で、床の魔法陣そのものを攻撃なさい! 古代の魔術で描かれたものであれば、あなたの神聖魔法は、それを破壊する特効薬になるはずです!」

「な、なるほど! その手が!」


「アレン! むやみに胴体を狙わないで! 奴らを、あの魔法陣の外側へと、力ずくで引きずり出すのです! そして、狙うべきは関節よ!」


私の指示に、二人は即座に反応した。

レオナルドが、天に祈りを捧げる。

「おお、聖なる光よ! この地の穢れを浄めたまえ!」

彼の手から放たれた神聖な光の槍が、床の魔法陣の一つに突き刺さった。すると、光を放っていた魔術式が、まるでショートしたかのように輝きを失い、消滅する。


その魔法陣の上にいた一体のガーディアンの動きが、目に見えて鈍くなった。


「今よ、アレン!」

「しゃあ、オラァッ!」


アレンは、弱体化したそのガーディアンにタックルを仕掛け、強引に魔法陣の外へと弾き飛ばした。そして、体勢を崩したガーディアンの腕の付け根、装甲の継ぎ目に向かって、大剣を突き立てた。

ゴギャン!という鈍い音と共に、ガーディアンの腕が、根元から切断される。


私たちの完璧な連携によって、初めて一体のガーディアンを無力化することに成功したのだ。

この攻略法さえ分かれば、あとは時間の問題だった。レオナルドが魔法陣を破壊してガーディアンを弱体化させ、アレンがそれを魔法陣の外に弾き飛ばし、関節を的確に破壊する。その繰り返しで、数十分後には、全ての古代の番人たちが、動かぬ鉄塊となって床に転がっていた。


「はぁ、はぁ……。やったな、イザベラ!」

「ええ。見事な連携でしたわ」


息を切らすアレンを労い、私たちは改めて、部屋の中央に聳える、魔力汚染の源である巨大な水晶柱へと向き合った。

どす黒い魔力の奔流が、ゴウゴウと音を立てて溢れ出している。近づくだけで、肌がひりつき、吐き気を催すほどの邪悪な気配だ。


「これを、止めなければ……」


私は、水晶柱の根本に設置された、制御用の魔法陣へと近づいた。ほとんどの機能は停止しているが、構造を読み解くことはできる。


「……わかりましたわ。魔力の流れを強制的に逆流させ、システムをシャットダウンさせるには、あの中央にある『制御核コアクリスタル』を、物理的に破壊するしかありません」


私が指さした先、制御魔法陣の中心には、拳ほどの大きさのクリスタルが、強固な魔力バリアに守られながら鎮座していた。


「ただし、あのバリアは並大抵の攻撃では破れません。アレン、あなたの最大の力が必要ですわ。あのバリアごと、中心の小さなクリスタルを、一撃でお願いね」

「おう、任せとけ!」


アレンはこくりと頷くと、両手で大剣を握りしめ、深呼吸をした。彼の全身の筋肉が隆起し、その体に秘められた膨大なエネルギーが、大剣の刀身へと集中していくのが、目に見えるようだった。


「うおおおおおおおおっ!」


渾身の雄叫びと共に、振り下ろされた一撃。

それは、もはや剣技というよりは、純粋な破壊力の塊だった。大剣が魔力バリアに接触した瞬間、ガラスが砕け散るような甲高い音と共に、バリアは粉々に消し飛んだ。そして、勢いを失わない切っ先が、寸分の狂いもなく、制御核を捉える。


パリン!

制御核が砕け散った、その瞬間。

世界から、音が消えた。

あれほど凄まじい勢いで溢れ出ていた黒い魔力の奔流が、ぴたりと、嘘のように止まったのだ。研究所全体を支配していた、邪悪で重苦しい気配が、ゆっくりと、しかし確実に浄化されていく。


私たちは、魔力汚染の源を、完全に断つことに成功した。


安堵のため息をつきながら、私は破壊された制御システムの残骸に目をやった。その瓦礫の中に、焼損を免れた、一枚の金属板がきらりと光っているのを見つけた。

それは、古代の魔術的な記録媒体のようだった。表面には、かすかに、いくつかの文字が刻まれている。


『被検体No.7……勇者……適合……』


「……勇者?」


その、あまりにも場違いな単語に、私は背筋が凍るのを感じた。

この研究所で行われていたという「禁術」。そして、ここに記された「勇者」という言葉。


村を救うという目的は、達成した。

だが、私たちは、このエルドリアという国の、さらに深く、そして根源的な闇に繋がる、「鍵」を拾ってしまったのかもしれない。

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