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第23話:汚染された森と古代の残骸

翌朝、私たちは村の長老から受け取った、手描きの古地図を頼りに、問題の「汚染された森」へと足を踏み入れた。

一歩森の中に入っただけで、空気が変わるのが肌で感じられた。木々は、まるで病気のようにねじ曲がり、葉はどす黒く変色している。地面には不気味な色の苔がこびりつき、生命の気配がほとんど感じられない。


「うわっ……。なんだか、空気がドロドロしてるな。息苦しいぜ」


アレンが顔をしかめる。


「ええ。高濃度の魔力粒子が、霧のように漂っています。それも、極めて質の悪い、負の属性を帯びたものですわ。普通の生物が長くいれば、確実に心身を蝕まれるでしょう」


私は懐から、ポート・ソレイユで用意しておいた、魔力汚染を中和する効果のあるお香を焚き、周囲の空気を浄化しながら進んだ。


「イザベラ様! わたくしの聖なる結界が、この邪悪な気配に少しずつですが、削られていきます……! なんという、冒涜的な魔力なのでしょう!」


レオナルドは青ざめた顔で、自身の体を覆う神聖なオーラを必死に維持している。彼の聖属性の力は、この森の邪悪な魔力とは、水と油のように反発しあうらしい。


森の奥へ進むにつれて、異変はより顕著になっていった。

ねじれた木々の間から、奇妙な鳴き声を上げる、異形の魔物が姿を現し始めたのだ。本来の姿を留めないほどに醜く変異した猪や狼が、狂ったように私たちへと襲いかかってくる。


「くっ! こいつら、動きが読めねえ!」


アレンは、カインとの戦いを思い出しながらも、大剣を振るってそれらを的確に打ち払っていく。だが、魔物は倒しても倒しても、次から次へと現れた。


「イザベラ様、きりがございません! このままでは、わたくしの聖力が尽きてしまいます……!」


レオナルドの悲鳴に、私は冷静に周囲を観察し、活路を見出した。


「アレン! むやみに戦わないで! あの、一際巨大な、ねじくれた大樹に向かって、一直線に進みなさい!」


私が指さした先には、森の中心と思われる場所に、まるで巨大な悪意の塊のように聳え立つ、禍々しい大樹があった。あの木が、この森の汚染源、あるいは汚染を増幅させている装置の役割を果たしているに違いない。


「おうよ!」


アレンは私の指示を信じ、襲いかかってくる魔物の群れを、力ずくでなぎ倒しながら、大樹へと続く道を切り開いていく。


そして、数時間の死闘の末、私たちはついにその大樹の根元へと辿り着いた。

そこにあったのは、苔と蔦に覆われた、石造りの建物の入り口だった。村の長老が言っていた、「古代の魔術研究所」の跡地に違いない。入り口の扉は固く閉ざされているが、その隙間から、森のどこよりも濃密な、邪悪な魔力が漏れ出している。


「アレン。この扉を」

「任せとけ!」


アレンが大剣を振るうまでもなく、その拳の一撃で、数百年は閉ざされていたであろう石の扉は、轟音と共に砕け散った。


私たちは、警戒しながら、研究所の内部へと進む。

内部は、荒れ果ててはいたが、かつての栄華を偲ばせる、高度な魔術文明の痕跡が随所に残されていた。壁には、今では解読不能な古代の魔術式がびっしりと刻まれ、床には、砕け散った実験器具や、正体不明の薬品が入っていたであろうガラス瓶が散乱している。


「……ここで行われていたのは、普通の魔法の研究ではありませんわね」


私は、床に落ちていた研究日誌の残骸を拾い上げた。羊皮紙はほとんど腐食していたが、辛うじて、いくつかの単語を読み取ることができた。


『生命……合成……禁断……神……領域……』


その言葉が意味するものを察し、私は背筋が寒くなるのを感じた。生命の理を歪める、禁断の研究。それが、この場所で行われていたのだ。


そして、私たちは研究所の最深部で、全ての元凶を発見した。

広大なドーム状の部屋の中央。そこに設置されていたのは、巨大な水晶の柱だった。だが、その水晶は本来の輝きを失い、内部から、まるで脈打つかのように、どす黒い汚泥のような魔力を、絶え間なく周囲に吐き出し続けていた。


水晶の柱の周りには、無数の魔法陣が描かれ、柱を制御しようとしていたようだが、そのほとんどが機能を停止し、暴走を食い止められていない。


「あれが、この森と村を蝕む、魔力汚染の発生源……!」


私がそう結論づけた、その時だった。

水晶の柱を守るように、それまで石像のように静止していた数体のゴーレムが、赤い光を目に宿し、起動した。それは、畑仕事用のゴーレムなどとは比べ物にならない、全身を鋭利な刃で武装した、戦闘用のガーディアンだった。


「侵入者を、排除する」


無機質な声と共に、ガーディアンたちが、私たちに襲いかかってきた。

古代の研究所の最深部で、私たちは、暴走した魔力と、古代の番人という、二つの脅威に挟まれることになった。

エルドリアの闇の深淵が、今、私たちにその牙を剥いたのだ。

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