表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/113

第113話:悪役令嬢と勇者と、幸福な結末と

丘の上の我が家で、私たちは、さらに、いくつもの、穏やかな、歳月を、重ねた。

年に一度、開かれる、私たちの、収穫祭は、今や、大陸中の、友人たちが、その、再会を、喜び合う、かけがえのない、祝祭となっていた。


その日もまた、我が家の、庭には、懐かしい、顔ぶれが、集っていた。

賢王として、国を、見事に、治める、アーサー陛下は、今や、愛する、王妃と、可愛らしい、王子を、連れている。

星屑の谷の、エララは、師である、ライラを、超える、最高の、織り手となり、空飛ぶ少年、レオは、誰も、見たことのない、新大陸の、地図を、誇らしげに、広げていた。

商人同盟の、フィンも、ドワーフの、ボリンも、皆、年を、重ね、そして、その、顔には、深い、幸福の、皺が、刻まれている。

私たちの、家は、もはや、ただの、家ではない。

この、平和な、時代を、築き上げた、全ての、人々の、魂が、帰るべき、温かい、故郷そのものだった。


宴が、一段落し、夕日が、アイアンロックの、谷を、黄金色に、染める頃。

一人の、少女が、私の、元へと、駆け寄ってきた。

母親譲りの、黒い、髪と、父親譲りの、太陽の、笑顔を、持つ、私の、愛しい、娘。

その、小さな、手には、一冊の、立派な、装丁の、本が、抱えられている。


「おかあさま」


彼女は、甘えるように、私に、ねだった。


「また、読んで、くださいます? わたくしが、一番、好きな、物語」


その、本の、表紙には、美しい、字体で、こう、記されていた。

『――悪役令嬢と勇者』

かつて、私が、未来へと、綴った、私たちの、物語。それは、今や、この国の、子供たちが、誰もが、知っている、一番、人気の、おとぎ話となっていた。


私は、微笑み、頷いた。


その夜、暖炉の、火が、ぱちぱちと、穏やかに、爆ぜる、居間で。

私は、マスター・ヴァレンの、椅子に、深く、腰掛け、私の、膝の上には、娘が、そして、その、足元には、息子が、静かに、座っている。

私の、肩を、アレンが、大きな、腕で、優しく、抱きしめる。

レオナルドが、温かい、ミルクを、淹れて、私たちの、傍らで、穏やかに、微笑んでいる。

窓の外からは、友人たちの、楽しげな、笑い声が、心地よい、BGMのように、聞こえてくる。


私は、その、愛おしい、時間の、中で、ゆっくりと、本の、最初の、ページを、開いた。

そして、穏やかに、読み聞かせを、始める。

私の、声で、紡がれる、私自身の、物語を。


「むかし、むかし。ある、遠い、王国に。一人の、悪役令嬢と、呼ばれた、女が、おりました……」


私は、物語を、読みながら、そっと、顔を、上げた。

目の前には、愛する、子供たちの、輝く、瞳。

隣には、絶対的な、愛と、信頼を、くれる、夫の、温もり。

そして、この、家を、満たす、かけがえのない、友人たちの、気配。

かつて、憎しみと、孤独に、満ちていた、私の、物語が、今、こんなにも、温かく、そして、幸福な、おとぎ話として、未来へと、語り継がれていく。


これ以上の、結末が、あるだろうか。

いや、ない。


私は、眠りについた、娘の、柔らかな、髪を、そっと、撫でた。

アレンが、私の、額に、優しい、キスを、落とす。


「……いい、物語だな」

「ええ。本当に」


私は、彼の、胸に、そっと、寄り添い、囁いた。


「そして、何よりも、素晴らしいのは……」

「この、物語の、主人公たちが、その後も、ずっと、ずっと、幸せに、暮らしました、という、結末ですわね」


悪役令嬢の、物語は、終わった。

だが、彼女の、幸福な、人生は、愛する、人々と共に、この先も、永遠に、続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ