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第110話:悪役令嬢の最後の策略(プロポーズ)

「この、我が家を、完成させるために、まだ、一つだけ、足りないものが、ございますの」


私の、その、言葉に、アレンは、不思議そうに、首を、傾げた。


「足りないもん? なんだ? もっと、でっかい、絨毯か? よし、俺が、明日、もふもふの、魔物を、狩ってきてやるぜ!」


その、どこまでも、単純で、そして、愛しい、答えに、私は、ふふ、と、笑みを、こぼした。

私の、心臓は、これまで、どんな、強大な、敵と、対峙した時よりも、激しく、そして、甘く、高鳴っていた。


私は、彼の、大きな、そして、節くれだった、優しい、手を、両手で、そっと、包み込んだ。


「いいえ、アレン。この家に、足りないもの。それは……『家族』ですわ」

「……かぞく?」


「ええ」


私は、深呼吸を、一つした。

悪役令嬢として、全てを、演じてきた、私が。

勇者の、参謀として、全てを、計算してきた、私が。

人生で、初めて、何の、計算も、演技も、ない、ただ、ありのままの、心を、言葉にする。


「アレン。わたくしと……結婚、して、いただけますか?」


その、一言は、最強の、勇者の、思考を、完全に、停止させるほどの、威力があった。

アレンは、ただ、目を、ぱちくりとさせ、その場で、固まっている。その、顔が、みるみるうちに、林檎のように、真っ赤に、染まっていく。


「け……けけけ、結婚!? 俺と……イザベラが!?」


その、あまりに、純粋な、反応を見て、私は、逆に、冷静さを、取り戻した。

こういう時は、いつもの、やり方が、一番だ。


「ええ。これは、最も、合理的な、判断ですわ」


私は、あえて、いつもの、策略家の、口調で、畳みかけた。


「わたくしたちの、人生は、すでに、完全に、共有されている。資産も、家も、そして、この町での、役割も。この、パートナーシップを、正式な、形にすることは、我らの、長期的な、幸福と、安定にとって、最も、最適な、選択と言えるでしょう」


だが、その、理屈めいた、言葉の、仮面は、すぐに、剥がれ落ちてしまった。


「……そして、何よりも」


私の声が、震える。


「わたくしが、あなたを、愛しているからですわ、この、朴念仁。どんな、策略よりも、どんな、勝利よりも、あなたの、いない、未来など、もはや、考えられませんから」


私の、魂からの、告白。

それが、アレンの、混乱した、頭を、打ち抜いた。

彼の、顔に、全てを、理解した、巨大な、そして、最高に、幸せそうな、笑顔が、咲き誇った。


「結婚!? もちろんだ! 当たり前じゃねえか!」


彼は、私を、軽々と、抱き上げ、その場で、くるくると、回る。


「俺、てっきり、もう、結婚してるもんだと、思ってたぜ! 愛してるぞ、イザベラ! 丸焼きドラゴンよりも、ずーっと、ずーっと、愛してる!」


その、彼らしい、最高の、愛の言葉に、私も、ただ、涙を、流しながら、笑うことしか、できなかった。


「……おや、おや」


その、時だった。

夜食の、ハーブティーでも、淹れにきたのか、レオナルドが、部屋の、入り口で、目を、丸くして、立ち尽くしていた。

だが、彼は、すぐに、全てを、察し、その、顔に、満面の、慈愛に満ちた、笑みを、浮かべた。


「なんと! なんという、喜ばしい! これは、盛大な、ウェディングケーキが、必要ですな! よし、早速、メニューの、考案に、入らねば!」


彼の、どこまでも、彼らしい、祝福の、言葉が、私たちの、幸福な、空間に、優しい、彩りを、添えてくれた。

私たちの、最後の、足りなかった、ピースは、家具ではなかった。

お互いの、未来を、縛る、誓いの、言葉だったのだ。


その夜、私たちは、婚約者として、初めて、暖炉の、前で、寄り添っていた。


「なあ、イザベラ」

「なんですの?」

「俺が、結婚したら、公爵とかに、なっちまうのか?」

「いいえ、あなた」


私は、彼の、胸に、顔を、埋めながら、笑った。


「あなたは、公爵の、『夫』に、なるのです。それこそが、この世界で、最も、名誉ある、称号ですわ」


私たちの、未来は、決まった。

悪役令嬢の、最後の、そして、最大の、策略は、世界で、一番、愛する、男の、心を、永遠に、手に入れることだったのだ。

そして、それは、完璧な、成功を、収めた。

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