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第104話:勇者の最後の試練、師となる日

レオナルドの、「慈愛と美食の神学校」の、建設計画は、町の一大事業として、活気に、満ちていた。

アレンは、もちろん、その、巨大な、資材を、運ぶ、中心人物として、毎日、汗を、流している。

その、休憩中だった。アレンが、結成した、「アイアンロック少年団」の、相談役を、買って出てくれている、引退した、老鉱夫の、ブランさんが、アレンに、静かに、話しかけた。


「アレン様。子供たちは、貴方様を、心から、慕っております。貴方様は、彼らに、力と、勇気を、お教えになった。……ですが、たった一つだけ、教えておられないことが、ございますな」

「なんだ、じいさん?」

「『負け方』です」


ブランさんは、続けた。

アレンが、あまりに、強すぎるため、子供たちは、どんな、困難も、最後には、アレンが、解決してくれると、信じ切ってしまっている。それは、彼らの、成長の、機会を、奪っているのではないか、と。

そして、彼は、アレンに、この町に、古くから、伝わる、指導者のための、試練を、提案した。

「『孤独な頂の試練』。リーダーは、チームを、頂上まで、導かねばなりませぬ。ただし、その、最大の、武器を、使うことを、禁じられた、状態で」


アレンは、戸惑っていた。

力を、使わずに、どうやって、皆を、守るのか。それは、彼の、生き方そのものに、反する、問いだった。

その夜、彼から、相談を、受けた私は、言った。


「ブランさんの、言う通りですわ、アレン。真の、守護者とは、ただ、民の、前に立ち、敵を、倒す者では、ありません。民が、自らの、足で、立ち、自らの、敵と、戦えるよう、育てる者。あなたの、本当の、強さは、その、腕力では、ありません。人々を、奮い立たせる、その、魂の、輝きですわ」


私の、言葉に、アレンは、覚悟を、決めた。

彼は、少年団の、五人の、子供たちを、引き連れ、試練の、山へと、向かった。

ルールは、絶対。アレンは、一切、その、怪力を、使ってはならない。ただ、言葉だけで、子供たちを、導かねばならない。


試練は、困難を、極めた。

倒木が、道を、塞いでいる。いつもなら、アレンが、軽々と、持ち上げる、その、丸太を、子供たちは、動かせない。アレンは、もどかしい、気持ちを、抑え、辛抱強く、テコの原理と、協力の、重要性を、教えた。

食料を、狙う、いたずら好きな、山の、妖精の、群れ。アレンは、拳の、代わりに、言葉で、子供たちに、罠の、作り方と、陽動の、仕方を、教えた。

最後の、険しい、崖。アレンは、子供たちを、運ぶことは、できない。彼は、ただ、下から、「頑張れ!」「そこだ!」「お前なら、できる!」と、声を、張り上げ、彼らの、勇気を、鼓舞し続けることしか、できなかった。


そして、ついに。

子供たちは、自らの、力だけで、頂上へと、たどり着いた。

彼らは、傷だらけで、泥だらけだった。だが、その顔は、これまで、見たこともないほど、誇りと、自信に、満ち溢れていた。


「やったぞ、アレン隊長! 今日の、英雄は、オレたちだ!」


その、言葉を、聞いた時。アレンは、全てを、理解した。

本当の、勝利とは、敵を、打ち負かすことではない。

仲間が、自らの、力で、勝利を、掴む、その、姿を、見届けることなのだと。

それは、彼が、これまでの、人生で、感じたことのない、深く、そして、温かい、達成感だった。


その夜、家の、食卓で、アレンは、珍しく、物静かだった。


「どうしましたの、アレン?」

「……なあ、イザベラ」


彼は、私を、まっすぐに、見て、言った。


「俺、ようやく、分かったかもしれねえ。俺が、本当に、なりたかったものが」

「俺は、ただ、戦う、勇者じゃない。次の、時代の、英雄たちを、育てる、『師』に、なりてえんだ」


レオナルドに、続き、アレンもまた、見つけたのだ。

伝説の、英雄としてではない。一人の、人間としての、揺るぎない、そして、尊い、未来の、道を。

私たちの、丘の上の、家は、少しずつ、新しい、時代の、未来を、育む、温かい、苗床へと、その姿を、変えようとしていた。

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