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第103話:聖者の悩みと魂の厨房

レオとの、心躍る、空の旅から、季節は、巡り、丘の上の、我が家には、穏やかな、夏が、訪れていた。

アレンは、少年団の、子供たちを、引き連れ、近くの、山へ、キャンプに、出かけている。私は、書斎で、町の、交易記録の、整理を、手伝っていた。

全てが、完璧な、までに、平和な、日常。

だが、その、平和の中で、一人、レオナルドだけが、どこか、物憂げな、表情を、浮かべていることが、多くなった。

彼は、この町の、全ての、料理を、極めてしまった。病院の、ヒーラーたちに、教えるべき、ことも、全て、教え尽くしてしまった。

彼の、魂は、その、根源に、巡礼者としての、探求心を、宿している。この、穏やかすぎる、日常は、彼にとって、少しだけ、退屈なものに、なり始めていたのだ。


そんな、彼の、元に、一人の、訪問者が、現れた。

アルビオン王国の、改革された、教会から、派遣された、高位の、神官だった。

彼は、レオナルドに、深く、頭を下げ、そして、一つの、恐るべき、要請を、口にした。


「大聖者レオナルド様。どうか、我らが、教会の、頂点に、お立ちください。貴方様を、新しい、時代の、法王として、お迎えしたいのです」


レオナルドの、伝説は、今や、大陸中に、広まっていた。偽りの聖女が、失墜した今、人々は、本物の、聖者を、求めている。そして、その、象徴として、誰もが、レオナルドの、名を、挙げるのだという。


「法王ですと!?」


レオナルドは、真っ青になって、叫んだ。


「滅相もございません! わたくしは、ただの、食いしん坊……いえ、ただの、一介の、神官にすぎませんぞ! 政治など、もってのほか!」


その夜、彼は、本気で、頭を、抱えていた。

自らの、幸福な、日常を、選ぶべきか。それとも、世界が、求める、責務を、果たすべきか。

その、深刻な、悩みを、彼は、私たちに、打ち明けた。


「そんなの、面倒くせえだけじゃねえか」


アレンは、あっさりと、言った。


「嫌なら、断ればいいだろ。お前が、ここで、幸せなのが、一番じゃねえか」

「アレンの、言う通りですわ。あなたの、幸福が、最優先されるべきです」


私は、アレンの、言葉に、頷き、そして、一つの、提案をした。

策略家としての、私の、最後の、助言だった。


「ですが、レオナルド。あなたが、一つの、象徴となってしまっているのも、また、事実。ならば、その、立場を、利用して、あなたの、理想を、別の形で、実現する、というのは、いかがかしら」

「と、申しますと?」

「あなたは、法王には、ならない。ですが、この、アイアンロックの地に、新しい、神学校を、設立するのです。あなたの、教えを、直接、受け継ぐ、新しい、世代の、神官たちを、育てるための、学び舎を」


私の、言葉に、レオナルドの、目が、輝いた。


「そこでは、神学だけでなく、実践的な、治癒の、魔法や、貧しい、人々を、助けるための、知識を、教える。そして……」


私は、悪戯っぽく、微笑んだ。


「世界一、美味い、食事を、出す、厨房を、作るのです。魂を、救うには、まず、胃袋から。それが、あなたの、教えの、神髄でしょう?」


「……なんと!」


レオナルドは、その場に、立ち上がり、感動に、打ち震えていた。


「魂と、胃袋を、同時に、救う、神学校! 『慈愛と美食の神学校』! それです! それこそが、わたくしの、生涯を、捧げるべき、天命ですぞ!」


彼の、悩みは、完全に、消え去っていた。

翌日、レオナルドは、王都からの、使者に、法王への、就任は、辞退する、と、丁重に、告げた。その、代わり、この地に、新しい、神学校を、設立するという、壮大な、計画を、打ち明けた。

使者は、その、あまりに、彼らしい、そして、賢明な、答えに、深く、感銘を、受け、王家と、教会が、全面的に、その、計画を、支援することを、約束してくれた。


レオナルドは、その日から、水を得た、魚のように、生き生きと、その、神学校の、設立準備に、没頭し始めた。

神学の、カリキュラム。治癒術の、実習計画。そして、何よりも、巨大な、厨房の、設計図。

彼は、ついに、見つけたのだ。

自らの、情熱と、責務が、完璧に、融合する、最高の、天職を。

私たちの、仲間、一人一人が、今、この、新しい、世界で、英雄としてではなく、一人の、人間として、自らの、本当の、幸福を、その手で、作り上げようとしていた。

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