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第102話:世代を繋ぐ翼

レオの操縦する、新しい翼、「シルフィード号」は、風を切り、雲を抜け、懐かしい歌う山脈の上空へと、たどり着いた。

眼下に広がるのは、天空竜との出会いによって、その調和を取り戻した、美しい山々の連なり。そして、その奥からは、以前と変わらぬ、風の竪琴が奏でる、美しい音楽が、響いてくる。


私たちは、断崖に築かれた、翼人たちの僧院へと、静かに着陸した。

私たちの、突然の来訪に、翼人たちは、驚き、そして、すぐに、温かい歓迎の意を、示してくれた。彼らは、私たちのことを、山に音楽を取り戻してくれた、伝説の旅人として、覚えていてくれたのだ。


その夜、僧院で開かれた、ささやかな宴の席で、レオは、英雄となった。

彼は、目を輝かせながら、翼人たちに、自らが、いかにして、空を飛ぶという夢を、追い続けてきたかを、熱っぽく語った。翼を持つ、彼らにとって、地上に生まれながら、空を目指した、この少年の物語は、何よりも、胸を打つ、叙事詩だった。

翼人たちもまた、彼に、風の読み方、雲の流れに乗る方法、そして、何よりも、空を愛し、敬う心を、教えた。

それは、種族も、世代も超えた、空を愛する者たちの、魂の交流だった。


宴の後、私は、レオと共に、僧院の、一番高い、見晴台に、立っていた。

眼下には、雲海が広がり、満点の星空が、まるで、手の届きそうな場所に、輝いている。


「すごい……」


レオが、感動に、声を、震わせる。


「こんな景色、見たことない。ぼくの夢は、まだ、始まったばかりなんだなって、思ったよ」


「ええ」と、私は、頷いた。「世界は、あなたが、思っているよりも、ずっと、広くて、そして、美しいのですわ」


私は、彼に、一つの、提案をした。

「レオ。もし、よろしければ、わたくしたちの、ホープウィング号に、搭載されている、古代の、航海日誌ログの、データを、あなたに、託しましょう」

「えっ……!?」

「そこには、わたくしたちが、旅してきた、世界の、全てが、記されています。もう、わたくしたちには、必要のないもの。ですが、あなたの、これからの、冒険には、きっと、役立つはずです」


それは、私が、私たちの、冒険の、物語を、次の世代へと、手渡す、儀式だった。

私の、申し出に、レオは、深く、深く、頭を下げた。


「ありがとう、イザベラさん! ぼく、約束するよ! いつか、必ず、この、ログにも、載っていない、新しい、航路を、見つけて、あなたに、報告しに戻ってくるって!」


その、力強い、約束を、胸に、私たちは、翼人たちに、別れを告げ、アイアンロックへの、帰路へと着いた。


私の、隣の、操縦席で、レオは、興奮した、面持ちで、ホープウィング号の、航海日誌の、データを、食い入るように、見つめている。

彼の、瞳には、無限の、未来が、映っていた。


私の、役目は、終わった。

だが、物語は、終わらない。

それは、新しい、主人公へと、受け継がれ、そして、続いていくのだ。

私は、その、事実を、ただ、誇らしく、そして、幸福に、感じていた。

私たちの、穏やかな、日常は、時として、こうして、未来への、新しい、扉を、開くための、舞台となるのだろう。

それもまた、悪くない、人生だと思った。

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