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第101話:丘の上の賢者と一通の招待状

アイアンロックでの、私たちの、新しい、生活は、まるで、ゆっくりと、流れる、大河のように、穏やかだった。

私は、もはや、国を、動かす、策略家ではない。丘の上の、家に、小さな、相談所を、構え、町の人々の、ささやかな、悩みに、耳を、傾ける、一人の、「賢者」。それが、私の、新しい、日常だった。


ある、春の日の、午後。

相談所の、扉を、叩いたのは、町の、少年団に、所属する、一人の、快活な、少年だった。

「賢者様! 大変なんだ!」


彼は、息を、弾ませながら、一枚の、羊皮紙を、私に、差し出した。

それは、私が、かつて、空を、飛ぶ、夢を、手伝った、あの、渓谷の、天才少年、レオからの、手紙だった。

彼の、拙い、しかし、情熱に、満ちた、文字で、そこには、こう、綴られていた。


『――ついに、完成したんだ! ぼくが、作った、新しい、飛空艇が!』


彼は、私たちが、贈った、古代の、部品と、彼の、独創的な、発想を、融合させ、ついに、二人乗りの、新型飛空艇を、完成させたのだという。

そして、その、処女飛行の、目的地として、この、アイアンロックを、選んでくれたのだ。


『ぼくの、夢に、翼を、くれた、イザベラさんたちに、一番、最初に、この、翼を、見てほしい。そして、できれば、一緒に、空を、飛んでほしいんだ!』


手紙は、そんな、胸躍る、招待状で、締めくくられていた。


「すごいじゃない!」


報告を、聞きつけた、アレンが、自分のことのように、喜ぶ。


「あいつ、本当に、やり遂げたんだな!」

「若き、才能の、開花……。実に、素晴らしいことですな。これは、祝福に、駆けつけねば、なりますまい!」


レオナルドも、嬉しそうに、頷いた。


約束の、数日後。

アイアンロックの、空に、一機の、小さく、しかし、流麗な、銀色の、機体が、その姿を、現した。

私たちの、ホープウィング号よりも、ずっと、小回りが、利き、そして、速い。

レオが、操縦する、その、新型機は、まるで、空を、舞う、ツバメのように、軽やかに、私たちの、家の、隣の、格納庫へと、着陸した。


タラップから、降りてきた、レオは、すっかり、精悍な、飛行士の、顔つきになっていた。

私たちは、旧友との、再会を、喜び合い、そして、彼の、夢の、結晶である、新しい、翼を、祝福した。


「イザベラさん。あなたに、お願いがあるんだ」


レオは、私を、まっすぐに、見て、言った。


「ぼくの、夢は、ただ、空を、飛ぶことじゃ、ない。この、翼で、まだ、誰も、見たことのない、景色を、探しに行くことなんだ。そして、その、冒険の、最初の、乗組員クルーに、あなたに、なってほしい」


彼は、私に、操縦席の、隣の、席を、指し示した。

それは、私にとって、最高の、名誉だった。


私は、アレンと、レオナルドに、見送られ、レオの、新しい、翼に、乗り込んだ。

機体は、大地を、離れ、空へと、舞い上がる。

眼下には、私たちの、愛する、我が家と、手を振る、仲間たちの、姿。

そして、目の前には、どこまでも、広がる、未知の、青空。


「どこへ、行きたい?」


レオが、尋ねる。

私は、地図を、広げた。

そして、私たちの、旅では、ついに、訪れることのなかった、一つの、場所を、指さした。

歌う山脈で、出会った、翼人たちの、僧院。


「わたくしの、古い、友人に、新しい、空の、仲間を、紹介しに、参りましょうか」


私の、提案に、レオは、最高の、笑顔で、頷いた。

二つの、翼が、未来へと、向かって、飛んでいく。

私の、役目は、もはや、英雄の、参謀ではない。

次の、世代の、夢の、翼を、導き、そして、共に、飛ぶこと。

それこそが、丘の上の、賢者に、与えられた、新しい、幸福な、役割なのだと、私は、確信していた。

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