合宿は火薬の香り
梅雨が明け、蝉が鳴き始めたある日。紫陽高校の防衛部部室に、分厚い封筒が届いた。
「えーっと……“全国高等学校防衛部合同戦技合宿”への招待状……?」
読み上げた福田が、額に汗を浮かべる。
「去年、爆発で中止になったやつじゃん」
「そのせいで参加校の半分が“謎の休校”になったという、あれな……」
だがカイは静かにうなずいた。
「これは……新しい“戦場”だ」
⸻
参加校は、全国各地の合法火器戦技部を持つ強豪校ばかり。
東北の山奥からは、木製バリケード戦術に長けた「稜風高校」。
関東からは、精密前装射撃部隊で知られる「狙岳学園」。
九州の「炎龍学園」は、火薬芸術部と称される派手な爆煙演出で有名。
そして昨年、一度も交戦記録を残さず全勝したという謎の学校――晴栄館。
⸻
「合宿ってことは、集団生活すんの?」
「共同炊事に、弾込め訓練、夜間演習……らしい」
「絶対どっかの学校が実弾で飯炊きするって!」
⸻
迎えた合宿初日。
開会式の会場は、廃工場跡地を改装した“武装訓練センター”。
「よぉ、紫陽高校。初参加だって?」
声をかけてきたのは、炎龍学園の代表――髪を赤く染め、腰には金の前装銃。
「俺らのモットーは“撃つ前に火を見せろ”。つまり“演出第一主義”だ」
「……なんで背中から火柱出てるの?」
「導火線式の自己紹介、知らんの?」
⸻
開会式では晴栄館の部長が壇上に立ち、無言で一礼しただけで拍手喝采が起きた。
「……あの人、一言もしゃべってないぞ?」
「去年の合宿で、一発も撃たずに全員気絶させたらしい」
「それ“武道漫画のボス”じゃん……」
⸻
午後のスケジュール:“交流演習”
要は模擬戦である。
グループに分かれ、廃ビル内で制圧戦を行うという。
「ようし、火蓋を――って、福田?」
カイが振り返ると、福田は腰にクマよけスプレーを装備していた。
「だって怖いもん……実弾出すのって……」
「いや、もうそのクマの方が怖いわ」
⸻
演習中、突如起きた爆発音。
フクロウくんが自動起動し、煙の中を高速飛行。
「敵影確認、接敵警報、敵影確認、フクロウ爆発するまであと3秒」
「おい!爆発予告すんな!」
煙の中から現れたのは――晴栄館の部長。
無言で、銃を掲げ、構える。
(来る……!)
だが、次の瞬間。
――パァンッ。
発砲音ではなかった。
音だけの、空撃ちだった。
部長は微笑み、静かに言った。
「心が撃ててない銃は、ただの金属だよ」
(……な、なんだ今の……説得力が重い……!!)
⸻
その夜、防衛部の面々は寝袋の中で語り合った。
「なあ……俺たち、戦うだけが目的じゃないよな」
「うん……でも火薬がないと飯炊けないし……」
「いやそれは別の話……」
カイは夜空を見上げた。
「明日、もう一度だけ、“撃たない戦い”ってやつをやってみたい」




