弾込めは体育のあとで
紫陽高校の朝は早い。というか、早すぎる。
「起立!注目!薬莢点検ッ!」
「違う違う、うち薬莢出ないから!火縄銃だから!!」
体育教師・鳥飼は、頭のタオルを締め直しながら火縄銃を手に取る。
「今日は“武装体育”だ!お前ら、体力テスト兼・射撃演習をやるぞ!」
生徒たちがどよめく。
「マジかよ……去年はボール投げで砲門破裂してたろ……」
「福田のフクロウくん飛んできて、成績全部“鷹”に塗り替えられたやつ?」
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鳥飼は高らかに言った。
「本日の競技:走って装填、的に命中!火薬は自己調達ッ!」
「命がけの体育祭かよ!」
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一方――
生徒会室。
「聞いたぞ……防衛部が“発砲競技”を無許可でやってるらしいな……これは許されざる“独占”だ……!」
生徒会長・海老原は不敵に笑っていた。
普段は静かで論理的な生徒会長。しかし、火縄銃が絡むと人格が変わる。
「我が生徒会こそ、真の“制式部隊”であるべきなのだ!」
(誰もそんな制度求めてないのに……)
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グラウンドでは、カイが息を切らして走っていた。
「走って……装填ッ……撃って……また走って……!!」
福田は横で火薬の計量ミスをして、ものすごい煙幕だけ出していた。
「うぅっ……すまんカイ……火薬が“スモークタイプ”だったかも……」
「いやこれ“魔法陣の召喚”みたいになってるから!」
星野はその横で、火蓋の点火にライターを使っていた。
「文明の力ぅぅぅぅ!」
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突然、空から「ビィィィィ!」という音。
フクロウ型偵察ドローン「フクロウくん」が、体育教師の頭上で爆発的着地。
「ぐわぁぁあ!俺の頭が戦場だぁぁ!!」
福田が顔を出す。
「すまん!プログラム書き間違えた!“着地=突撃”に設定してた!」
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そして事件は起こった。
海老原生徒会長、火縄銃を二丁持って突入。
「聞け!諸君らの戦術に、愛と気合が足りない!」
「いやいや待て待て、今は授業中!」
「我が“生徒会直轄突撃部”の存在を!今こそ証明する時!」
生徒会副会長・緒方が追ってくる。
「会長、また抜弾忘れてます!火薬だけ入ってるから“爆竹状態”です!!」
――パァァン!
海老原の銃から爆音とともに飛んできたのは……
紙吹雪。
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全員、静かになる。
風に舞う紙吹雪の中で、海老原が叫ぶ。
「これが“平和への射撃”だッ!!」
鳥飼がつぶやいた。
「ある意味、一番当たってるな……」
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午後の授業は急きょ「倫理」に差し替えられた。
誰も撃たずに、みんなで「戦う意味」について語り合った。
福田がぽつりと言った。
「……でも私、あの紙吹雪、ちょっと感動したよ」
星野が続けた。
「撃つだけじゃないっての、たまには悪くねぇな」
カイは少し笑って、うなずいた。
「弾込めるの、後でもいい時もあるな」